しかも、ストーブの中では火がかんかんに燃えていて、胴のところが真っ赤になっているのです!
「このお部屋は、じつに暑うございますね」と、この兄さんは言いました。
「それはね、お父さまが、きょう、ひな鳥をお焼きになるからよ」と、お姫さまが言いました。
「ヒェー!」この男は、ぼんやり立ちつくしてしまいました。
こんな返事をされようとは、思いもしなかったのです。
もう、ひとことも言うことができません。
だって、そうでしょう。自分ではなにか面白いことを言おうと思っていたのですから。
おや、おや!
「なんの役にも立たないわ」と、お姫さまが言いました。
「お下がり!」こうして、この男は引き下がらなければなりませんでした。
今度は、もうひとりの兄さんが入ってきました。
「ここは、ひどく暑うございますね」と、その男は言いました。
「ええ、きょうはひな鳥を焼くのよ」と、お姫さまが言いました。
「な、な、なんですって?」と、その男が言いましたので、書記たちはみんな「な、な、なんですって」と書き留めました。
「なんの役にも立たないわ」と、お姫さまは言いました。
「お下がり!」
とうとう、のろまのハンスの番がやってきました。
ハンスはヤギの背中にまたがったまま、お部屋の中へ入ってきました。
「こりゃあまあ、ひでえ暑さですね」と、ハンスが言いました。
「それはね、あたしがひな鳥を焼くからよ」と、お姫さまが言いました。
「そいつぁ、うめえこった!」と、のろまのハンスが言いました。
「じゃあ、このカラスも焼いてくれますかね?」
「ああ、いいわよ」と、お姫さまが言いました。
「だけど、焼くのに、なにか入れ物を持っておいでかい? あたしには、おなべもフライパンもないのよ」
「なあに、ちゃんと持ってますだ」と、のろまのハンスが言いました。
「すずの手のついた、料理道具があるんでさ」こう言いながら、古い木靴を取り出して、カラスをその真ん中に入れました。
「まあ、すばらしいお食事だわね!」と、お姫さまが言いました。「でも、味付けのソースはどうするの?」
「そんなの、ポケットに入ってますよ」と、のろまのハンスは言いました。
「たっぷりあるから、少しぐらい無駄遣いしても平気ですよ」そう言って、ポケットからどろを少し取り出して見せました。
「いいわ!」とお姫さまは言いました。
「あなたはちゃんと返事ができるのね! それに、おしゃべりもできるから、あたし、あなたと結婚するわ! でもね、あなた知ってる? あたしたちが今までに言ったことや、これから言うことは、ぜんぶ書き留められて、明日の新聞に載るのよ。
ほら、あそこの窓を見て。書記が三人と、年を取った書記長がひとりいるでしょう。
とくに、あの書記長ったら、いちばん嫌な人よ。
だって、人の言うことなんて、ちっとも分かっていないんですもの!」こう言って、お姫さまはハンスを怖がらせようとしました。
すると書記たちは変な声で笑って、床の上にインクのしみをポタポタと落としました。
「みんな、立派な人たちだな」と、のろまのハンスは言いました。
「じゃあ、おれも書記長さんに、とびきりいいものをプレゼントしなきゃな!」こう言うと、ポケットをひっくり返して、いきなり書記長の顔にドロを投げつけました。
「まあ、素敵!」とお姫さまは言いました。
「そんなこと、あたしにはとてもできないわ! でも、そのうちに教えてもらうわね」――
こうして、のろまのハンスは王さまになりました。
お姫さまを奥さんにして、王冠をかぶって、玉座に座ったのです。
ただ、これは書記長の新聞に書いてあったことですからね。
――ですから、あんまりあてにはできませんけれど。
初級翻訳・のろまのハンス 第2話
のろまのハンス
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