初級翻訳・モミの木 第2話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

そうだ、もっと大きなことが、もっとすばらしいことがくるにちがいない――! だけど、何だろう? ああ、苦しい! とてもたまらない! この気持ち、自分でもよくわからないや」
「こうしてわたしがいるのを、よろこびなさい!」と、空気とお日さまが言いました。「この広い広いところで、おまえの若さを楽しみなさい!」
しかし、モミの木は、すこしもよろこびませんでした。
でも、ずんずん大きくなっていきました。冬も夏も、みどりの色をしていました。こいみどりの色をして、立っていたのです。
人々はモミの木を見ると、「こりゃあ、きれいな木だ!」と言いました。
クリスマスのころになると、どの木よりもまっさきに切りたおされました。おのが、からだのしんまで深くくい入りました。モミの木は、うめき声をあげて地べたにたおれました。からだがいたくていたくて、気が遠くなりそうでした。
とても、しあわせなどとは思えません。かえって、生まれ故郷をはなれ、大きくなったこの場所からわかれてゆくのが悲しくなりました。
もうこれっきり、大好きな、なつかしいお友だちや、まわりの小さなやぶや、花にも会うことができないんだ。そればかりか、きっともう鳥にも会えないんだろう、とモミの木は思いました。
こうして、旅に出かけるということは、楽しいものではありませんでした。
モミの木は、どこかの中庭について、ほかの木といっしょに車から下ろされたとき、はじめてわれにかえりました。ちょうどそのとき、そばで人の声がしました。
「これがりっぱだ! ほかのは、いらないよ」
そこへ制服を着た召使がふたりやってきて、モミの木を、大きな美しい広間の中へ運びこみました。
まわりのかべには、肖像画がかかっていました。タイル張りの大きなストーブのそばには、ライオンのふたのついている大きな中国の花瓶がありました。それから、ゆり椅子や、絹張りのソファや、大きなテーブルもありました。テーブルの上には、絵本やおもちゃがいっぱいありました。それは、百ターレルの百倍ぐらいもするものでした。――すくなくとも、子供たちはそう言っていました。
モミの木は、砂のつまった大きなたるの中に立てられました。
でも、それがたるであるとは、だれの目にも見えませんでした。というのは、そのたるのまわりには、みどり色の布がかけられていましたし、おまけに、色とりどりの大きなじゅうたんの上に置かれていましたから。ああ、モミの木は、うれしくて、どんなに体がふるえたことでしょう! それにしても、これからいったい、どうなるのでしょう?

召使とお嬢さんがやってきて、モミの木をきれいにかざりつけてくれました。
枝の上には、色紙を切りぬいて作った、小さな網の袋がかけられました。
見れば、どの袋にも、あまいお菓子がつまっています。
それから、金色にぬったリンゴや、クルミがさげられました。それらは、まるで木に実っているかのように見えました。
そして、赤や青や白の小さなろうそくが、百本以上も、枝のあいだにしっかりと取り付けられました。
本物の人間そっくりのお人形が――モミの木は、いままでこんなものを見たことがありませんでした――みどりの枝のあいだでゆれていました。
木のいちばんてっぺんには、金箔をつけた大きな星が一つ、かざられました。
それはほんとうに美しく、ほかの何ともくらべものにならないほど、りっぱなものでした。

「今夜ね」と、みんなは言いました。
「今夜は、光りかがやくよ!」

「ああ!」と、モミの木は思いました。
「早く夜になればいいなあ! 早く、ろうそくに火がつけばいいなあ! でも、それからどうなるんだろう? 森からほかの木がここへやってきて、ぼくを見てくれるだろうか? スズメたちが、窓ガラスのところへとんでくるだろうか? ぼくは、しっかりとここに根をはって、冬も夏もずっと、こうしてきれいにかざられているんだろうか?」

まったく、モミの木がこんなふうに思うのも、むりはありません。
しかし、あまりにいろいろなことをあこがれて考えるものですから、木の皮がひどく痛みはじめました。
木にとって皮が痛むというのは、わたしたち人間にとって頭がずきずきするのと同じことです。木にしてみれば、じつにつらいことなのです。

やがて、ろうそくに火がともされました。
なんというかがやきでしょう! なんという美しさでしょう! モミの木はうれしくてうれしくて、枝という枝をふるわせました。
すると、ろうそくの一本にみどりの葉がさわって、火がついてしまいました。
そのため、葉っぱはすっかりこげてしまいました。
「あら、たいへん!」と、お嬢さんたちはさけんで、いそいで火を消しました。
モミの木は、もう二度とからだをふるわせたりはしませんでした。
ああ、まったくおそろしいことでした! それに、自分のからだのおかざりが、なにか一つでもなくなりはしないかと、それはそれは心配でした。
そして、あたりがあまりに明るいので、すっかりぼんやりしてしまいました。

と、そのとき、入り口のドアがさっと両側に開かれました。
それといっしょに、子供たちのむれが、モミの木をひっくりかえそうとするような勢いで、どっと部屋の中へとびこんできました。
おとなたちは、そのあとからゆっくりとはいってきました。
小さな子供たちは、じっとだまりこんで立っていました。
しかし、それもほんのちょっとの間で、すぐまたあたりに鳴りひびくほど、うれしそうな声を出してはしゃぎました。
そして、木のまわりを踊りながら、贈り物を一つ、また一つとつかみとりました。

「この子たちは、何をしようっていうんだろう?」と、モミの木は考えました。
「どんなことが起きるんだろう?」

やがて、ろうそくは小さくなって、枝のところまで燃えてきました。
こうしてだんだん小さくなってくると、順々に火が消されていきました。
それから子供たちは、木についているものを何でももぎ取っていいという、おゆるしをもらいました。
うわあ、子供たちはモミの木めがけて突進してくるではありませんか。
さあ、たいへん。
どの枝もどの枝も、みしみしと鳴ります。
もしも木のてっぺんと金の星とが、天井にしっかりと結びつけられていなかったなら、モミの木はきっとたおされてしまったことでしょう。
子供たちはきれいなおもちゃを持って、踊りまわりました。
もうだれひとり、木のほうなど見るものはありません。
ただ、年とったばあやがきて、枝のあいだをのぞきこんでいました。
でもそれは、イチジクかリンゴの一つぐらい、忘れてのこっていやしないかと、ながめていたのです。

「お話! お話をして!」と、子供たちは大声に言いながら、ふとった小がらの人を、モミの木のほうへ引っぱってきました。
その人は、木のま下に腰をおろして、「こりゃあ、緑の森の中にいるようだね」と、言いました。
「これじゃ、この木が、いちばんとくをするというものだ。だが、わたしは一つしかお話をしてあげないよ。

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