その縄を前の骸骨男の首にひっかけて、馬から引きずり下ろそうとしているのです。
小林少年は、後ろの自動車からそれを見ていました。
「おい、あれをごらん! 明智先生はカウボーイみたいに、投げ縄ができるんだよ!」
となりの井上君をひじでつついて、誇らしげに言うのでした。
「うん、さすがに明智君だな。こんな隠し芸があるとは知らなかった」
中村警部も感心したように、つぶやきました。
前の二頭の馬は、もう目の先にいます。
強いサーチライトの光がそれを照らしているのですから、どんな細かいこともありありと見えるのです。
二頭の馬は、矢のように飛んでいます。
骸骨男がひょいと後ろを振り返りました。
明智の馬のひづめの音が聞こえたからでしょう。
彼は明智の頭の上で、ぐるぐると回っている細引きに気がついたようです。
そのときです。
明智の右手がパッと伸びました。
そして、回っていた細引きが、輪を作ったままサーッと宙を飛んだのです。
後ろの自動車では、小林君たちが思わず、アッと声を立てました。
サーチライトの光の中に、骸骨男がまっさかさまに馬から落ちるのが見えます。
投げ縄は、見事に命中したのです。
骸骨男の馬は、そのまま走り去ってしまいました。
明智の馬が、地面に転がった骸骨男よりも前へ進みました。
骸骨男は、首にかかった細引きで、ずるずると地面を引きずられています。
骸骨男の左手が、首の細引きにかかっていました。
そうしなければ、首が締まって死んでしまうからです。
そして、右手でなにかしています。
黒いシャツのポケットから、なにか取り出しました。
よく見えませんが、ピカッと光ったようです。
あっ、ナイフです。
ナイフを細引きに当てました。
サッと右手が動きました。
すると、プッツリと細引きが切れてしまったのです。
骸骨男は、むくむくと起き上がりました。
そして、やにわに駆け出したではありませんか。
自動車の中の小林少年たちは、またしてもアッと声を立てて、手に汗を握りました。
そこは、ちょうど十字路でした。
骸骨男は、それを右に曲がって駆け出したのです。
明智はまだ気づかないで、まっすぐに走っていきます。
「車を止めろ! そして、あいつを追っかけるんだッ!」
中村警部が怒鳴りました。
キーッとブレーキの音を立てて車が止まりました。
パッとドアを開いて、警官たちが駆け出しました。
小林君たちも、そのあとにつづきます。
自動車には運転係の警官が残って、みんなの後を追いながら、サーチライトを照らしてくれました。
骸骨男は黒い風のように走っていきます。
その速いこと。
警官たちは、とてもかないません。
そのとき、町の向こうの方から、パッとギラギラ光った二つの目玉が現れました。
自動車のヘッドライトです。それは、先回りをして待ち伏せをしていた警察の自動車でした。
ヘッドライトの光の中に骸骨男の姿が浮かび上がると、車はすぐに止まり、中からどやどやと警官たちが飛び出してきました。
骸骨男は、これで前後を挟み撃ちにされてしまったのです。
もう、逃げ場はどこにもありません。
ついに骸骨男は覚悟を決めて、その場に立ち止まりました。
そこへ前後から警官たちが飛びかかっていき、折り重なるようにして怪物を押さえつけ、手錠をかけたうえに、ロープでぐるぐる巻きに縛り上げてしまいました。
手錠だけでは隙をつかれるかもしれないと、用心したのです。
明智探偵も現場に戻って馬から降り、中村警部と顔を見合わせて、この大捕り物の成功を喜び合っていました。
「明智君!」
縛り上げられた二十面相の骸骨男が、苦しそうな声で呼びかけました。
「僕の負けだよ。
もうこれ以上、隠し持っている奥の手はないから、安心したまえ。
おとなしく裁きを受けることにするよ。
しかし、君が投げ縄の名人だったとは知らなかったね。
見たまえ、首にこんな傷ができてしまったよ。」
確かに、二十面相の首には、細引きで擦れたまっ赤な跡が残っていました。
こうして、さすがの怪人二十面相も、ついにとらわれの身となったのでした。
小林君、井上君、野呂君の三人の少年たちは、この光景を見て、嬉しくてたまりません。
お調子者のノロちゃんは、もう黙っていられなくなりました。
「明智先生、万歳! 明智大探偵、万歳!」
踊り上がるようにして叫びました。
それを聞くと、いかめしい顔をしていた警官たちも思わず顔をほころばせ、その笑い声が、静かな町に大きく響き渡るのでした。
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