初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第54話

ニールスのふしぎな旅

どうしてガチョウの背中に乗っていないんだろう? どうして自分の周りをこんなにたくさんのカラスが飛んでいるんだろう? そしてまた、どうして落っこちそうになるほど、あちこちへ引っ張り回されたり、叩かれたりするんだろう? そう思うと、たちまち何もかもがはっきりとしてきました。
自分は二羽のカラスにさらわれたんだ。
白いガチョウは、まだ岸辺で待っているに違いない。
今日みんなは、エステルイェートランドに向かって出発するはずだ。
それなのに、自分は南西の方へ連れて行かれている。
お日さまが後ろの方にあるから、きっとそうに違いない。
そうしてみると、下に見える森のじゅうたんは、きっとスモーランドだ。
「ぼくが世話をしてやれなくなったら、あの白ガチョウはどうなるだろう?」と、ニールスは思いました。
そして、カラスたちに、自分をガンたちのところへすぐ連れて行ってくれるように頼みました。
ニールスは、自分のことはちっとも心配していませんでした。
だって、カラスたちが自分を連れて行くのは、ただふざけているんだろうと思っていたのです。
ところが、カラスたちはニールスの言うことなどには耳も貸さず、大急ぎで飛んでいきました。
しばらくすると、中の一羽が「気をつけな! あぶないぜ!」とでも言うように、翼をバタバタとさせました。
まもなく、みんなはエゾマツの森へ降りました。
そして、とげとげした枝の間を押し分けて、地面に着きました。
そこで、ニールスは太いエゾマツの下に降ろされましたが、あまりにうまく隠されてしまったために、これではタカでさえもニールスの姿を見つけることができません。
十五羽のカラスが、ニールスの見張りをするために、くちばしを突き出しながらぐるりと取り囲みました。「おい、カラスたち、一体なんのためにぼくをさらったんだ」と、ニールスは尋ねました。
ところが、ニールスが言い終わるか終わらないうちに、一羽の大きなカラスがどなりつけました。
「静かにしろ! さもないと、貴様の目玉をくり抜いてやるぞ!」
カラスが本気でそう言っていることは確かです。こうなったからには、カラスの言う通りにするほかありません。そこでニールスは、おとなしく座って、じっとカラスたちを見つめました。

カラスたちもニールスをじっと見つめました。見れば見るほど、このカラスたちは気に食わない連中です。羽毛はひどくほこりだらけでぼうぼうとしており、まるで一度も水浴びをしたり、手入れをしたことがないようです。足指や爪には乾いた泥がこびりつき、くちばしの周りには食べかすがくっついています。同じ鳥であっても、ガンたちとはなんと大きな違いでしょうか。このカラスたちは残虐で、卑怯で、欲張りで、おまけに大胆不敵な顔つきをしています。まるで人殺しか、ごろつきのように見えます。
「こいつは、本物の強盗団につかまっちまったんだな」と、ニールスは思いました。

ちょうどそのとき、上の方からガンの仲間の叫ぶ声が聞こえてきました。
「どこにいるの? ぼくはここだよ。どこにいるの? ぼくはここだよ」
アッカをはじめ、みんなが自分を探しに来てくれたのです。けれども、返事をしようと思った矢先、カラスの一団のおかしららしい、さっきの大ガラスがニールスの耳元で「目玉のことを忘れるな!」とどなりつけました。これでは、黙っているよりほかありません。ガンの仲間は、ニールスがこんなに近くにいようとは気がつかない様子です。ただ偶然、この森の上を飛んできたのでしょう。また二度ほどガンたちの叫ぶ声が聞こえましたが、それから遠ざかって消えてしまいました。

「さあ、自分ひとりで助かる工夫をしなくちゃならないぞ」と、ニールスは独り言を言いました。「もう何週間も野山での生活をして苦労しているんだから、ひとつその腕前を見せてやろうじゃないか」
しばらくするとカラスたちは、出発の支度を始めました。また今度も、一羽がニールスの襟をつかみ、もう一羽が靴下をつかんで連れて行くつもりのようです。そこでニールスはあわてて言いました。
「君たちの中に、ぼくを背中に乗せていける者はいないのかい? 君たちがあんまり乱暴にぼくを扱うから、ぼくはこなごなになっちまうんじゃないかと思ったよ。まあ、乗せてごらんよ! 背中から飛び降りたりはしないからさ」
「やい、やい、どうされたって貴様の知ったこっちゃないんだ」とおかしらが言いました。

そのとき、一番大きくて、翼に白い羽のあるカラスが前に進み出てきました。頭をぼうぼうにして、いかにも野暮ったいカラスでしたが、こう言いました。
「おかしら、このオヤユビ小僧を落としてかたわにするよりも、まるまる生かしておいたほうが得じゃありませんか。だから、わたしが背中に乗せていきましょう」
「ノロ公、てめえにできるんなら、俺に文句はねえ。だが、そいつをなくすんじゃないぞ!」と、おかしらのアラシは言いました。

ありがたいことです。ニールスは大喜びでした。「カラスにさらわれたからって、もう気を落とすことはないぞ。きっとこいつらをやっつけてやれるさ」と、ニールスは思いました。

カラスたちは、スモーランドの上を南西に向かって飛び続けました。うららかに晴れ渡った、温かい朝でした。地上の鳥たちは、やさしい愛の歌を歌っていました。高い、黒々とした森の中のエゾマツの梢で、ツグミが翼を垂れ、のどをふくらませて、
「なんてあなたはきれいなんでしょう! なんてあなたはきれいなんでしょう! なんてあなたはきれいなんでしょう! あなたほどきれいなものはない。あなたほどきれいなものはない」
と、何度も何度も歌っていました。

ちょうどそのとき、ニールスがこの森の上を通りかかりました。ニールスはツグミの歌を二度聞いて、ははあ、ほかの歌は知らないんだな、と気づくと、両手をラッパのようにして口に当てて、下に向かって叫びました。
「そんな歌は前にも聞いたよ! そんな歌は前にも聞いたよ!」
「誰だい? 誰だい? 誰だい? わたしの歌をひやかすのは?」と、ツグミは言いながら、からかったものの姿を見つけようとしました。
「カラスにさらわれたものだよ」と、ニールスは答えました。そのとたんに、カラスのかしらがふりむいて、
「おい、チビスケ、目玉に気をつけろ!」と、言いました。
けれども、ニールスは、「ふん、そんなこと、かまうもんか。きさまなんかこわくないぞ。いまに見てろ」と、心の中で思いました。

カラスたちは、どんどん飛んでいきました。いたるところに、森や湖がありました。
とある森のなかでは、葉のない枝に森バトのメスがすわっていて、そのまえにオスのハトが立っていました。オスのハトは、はねをふくらませ、頭をまっすぐに立てて、からだを上下にゆらしていたので、そのたびに胸の毛が枝に触れていました。そして、ひっきりなしに、
「おまえは、おまえは、森の中でいちばんかわいいね。森じゅうで、おまえぐらい、おまえぐらい、かわいいものはないよ!」と、鳴いていました。

ニールスは、その上を通りかかって、オスのハトの言葉を聞いたとき、だまってはいられなくなりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました