そのうちに、じぶんはいまカラス山の小屋の中にいるんだ、そうだ、ゆうべ、白いはねのノロ公がここへつれてきてくれたんだっけ、と思いだしました。ニールスはきのうの旅のためにからだじゅうが痛くてたまりませんでした。ですから、じっと寝ているのがなによりも楽しく思われました。そして、ガンたちのところへつれていってくれると約束したノロ公がくるのを待っていました。
市松もようのもめんのカーテンが、ベッドの前にかかっていました。ニールスは小屋の中を見ようと思って、カーテンをわきにのけました。と、まあ、なんという小屋でしょう。いままでにこんな小屋は見たことがありません! 壁は丸太が二列にならんでいるだけで、すぐそれから屋根になっています。天井張りがないために、棟木までも見えます。小屋ぜんたいがたいへん小さいので、ふつうの人間のために建てられたのではなくて、どちらかといえば、ニールスのような小人のために建てられたのではないかと思われました。
けれども、かまどと煙突はとても大きくて、これより大きいのは見たことがないとさえ思われるくらいでした。入口の戸は、かまどのそばの破風のある壁についていました。でも、これがまたたいそうせまいので、戸というよりは小窓のようでした。もうかたほうの破風のある壁には、低くてはばの広い窓がありました。これには小さいガラスがたくさんはまっていました。
この部屋には、動かせる家具というものはほとんどありませんでした。腰掛けも、窓ぎわのテーブルも、それからいまニールスのねている大きなベッドも、いろんな色どりをした戸棚も、みんな壁にくっついていました。ニールスは、この小屋はだれのものだろう、そしてまた、どうしていまは人が住んでいないんだろう、と思わずにはいられませんでした。
この小屋に住んでいた人たちは、またもどってくるつもりのようです。かまどの上にはコーヒーつぼとか、ゆなべがのったままになっていますし、炉ばたにはまきもおいてあります。すみのほうには火ばさみと木べらがあり、紡車は腰かけの上にあがっています。窓の上の棚には、麻と二かせの織糸と、ロウソクと一たばのマッチがおいてあります。
ここに住んでいた人たちは、たしかにもう一ど、もどってくる気にちがいありません。ベッドにはちゃんと掛けぶとんがありますし、壁には三人の騎士の絵のかいてある長い布もかかっています。ところが、上の棚に目をやったとき、ニールスははっとわれにかえりました。そこには、ひからびた大きな菓子パンが二つ、くしにささっているではありませんか。もちろん古くなってかびも生えているようですが、パンであることにはかわりありません。
火ばさみでたたきますと、そのうちの一つが下に落ちました。さっそく、すいたおなかを満足させて、残りをポケットにいっぱいつめこみました。それにしても、パンの味はすばらしいものでした。ニールスは、ほかにもなにか役にたつものはないだろうかと思って、もう一ど部屋の中を見まわしました。
「ぼくがいるものは、持っていってもいいだろう。だって、だれのめいわくにもならないんだもの」と、ニールスは思いました。でも、ニールスにはたいていのものが大きくて重たすぎました。持っていけそうなものといえば、せいぜいマッチぐらいのものでした。ニールスはテーブルの上によじのぼり、そこからカーテンにつかまって、窓の上の棚にとびうつりました。ニールスがそこで袋の中にマッチをつめこんでいますと、あの白いはねのカラスが窓からはいってきました。「ほら、やってきましたよ」
ノロ公はそう言いながら、テーブルの上にとびのりました。
「おそくなってしまいましたが、今日はアラシのかわりに新しいリーダーをえらんでいたので、なかなか来られなかったんですよ」
「だれが、新しいリーダーにえらばれたの?」と、ニールスはたずねました。
「それはね、盗みや悪いことをゆるさない者、つまり、いままでノロ公と呼ばれていた、この白い羽のわたしがえらばれたのですよ」
ノロ公はからだを起こして、もったいぶった様子でこう言いました。
「それは、すばらしい人がえらばれたね」と、ニールスは言って、ノロ公にお祝いの言葉をかけました。
「いや、ありがとう」と、ノロ公は言いました。
それから、アラシがリーダーだったころのことを話しはじめました。
すると、突然、窓の外で聞きおぼえのある声がしました。
「あいつは、ここにいるのか?」と、キツネのズルスケが言っています。
すると、「ええ、この中にかくれていますよ」と、カラスの声が答えました。
「用心して、オヤユビさん!」と、白い羽のノロ公がさけびました。
「ハヤテのやつが、きみを食いたがっているキツネを連れて、外に来ているんですよ!」
ノロ公は、それいじょう言うことができませんでした。
そのとき、早くもキツネのズルスケが窓をめがけておどりかかっていたからです。
古くてくされかかった窓わくは、たちまち飛びちり、あっというまにズルスケは窓ぎわのテーブルの上に立っていました。
そして、リーダーにえらばれたばかりの白い羽のノロ公は、逃げるひまもなく、たちまちかみ殺されてしまいました。
それから、キツネは床にとびおりて、ニールスの姿をさがしました。
ニールスはあわてて大きな糸車のうしろにかくれようとしましたが、ズルスケは早くもそれを見つけて、おどりかかろうと身がまえました。
この小屋はたいへん小さい上に天井も低いので、もうどうすることもできません。
すぐにキツネにつかまってしまうでしょう。
けれども、身を守る武器がまったくないわけではありませんでした。
ニールスは、いそいでマッチをすって、そばの麻の束に火をつけました。
そして、それがメラメラと燃えあがるのを見るや、キツネのズルスケめがけて力いっぱい投げつけました。
さすがのズルスケも、ほのおにつつまれてはたまりません。
恐ろしさに気ちがいのようにあわてふためき、ニールスをつかまえるどころではなくなって、小屋からとびだしていきました。
こうして、ニールスはなんとか一つの危機をまぬがれましたが、こんどはもっと大きな危険にせまられることになりました。
というのは、いまズルスケにむかって投げつけた麻の束から、とうとうベッドのカーテンにまで火が燃えうつってしまったのです。
ニールスはとびおりて、あわててもみけそうとしましたが、火の手ははげしくなるばかりです。
みるみるうちに、部屋じゅうが煙だらけになってしまいました。
ズルスケは窓の外に立って、オヤユビくんが部屋の中でこまっているようすを察して言いました。
「やい、オヤユビ小僧、そこで焼き殺されるのと、おれのところへ出てくるのと、どっちがいい? もちろんおれは、きさまを食い殺してやりたいが、きさまがかわった死にかたをするのもおもしろいもんだ」
ニールスは、ほんとうにキツネの言うとおりだと思いました。
なぜなら、火の手はどんどんひろがって、もうベッドもほのおにつつまれてしまいましたし、床からも煙が立ちのぼっているからです。
ニールスは、かまどの上にとびあがって、パン焼きかまどの口をあけようとしました。
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