初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第72話

ニールスのふしぎな旅

リンチェーピングの市は、宝石の周りに真珠をはめ込んだかのように、その大聖堂の周囲を取り巻いていました。
農園はブローチかボタンのように見えました。
あまり整然と飾り立てられてはいませんでしたが、その美しさはいつまで見ていても飽きることがありませんでした。ガンたちは、オムベルイ地方を離れてイエータ運河に沿い、東へと飛びました。
ここでは、夏を迎えるための準備が急ピッチで進められていました。
人夫たちが運河の堤防を修理したり、巨大な水門にタールを塗ったりしています。どこを見渡しても、人々は春を心待ちにしながら、生き生きと忙しそうに働いていました。
町の中も同じような様子です。家の外では左官やペンキ屋が足場を組んで壁を塗り直し、中では女中たちが窓ガラスをピカピカに磨き上げていました。港では、帆船や汽船の修理が盛んに行われています。

ノルチェーピングを過ぎると、ガンたちは平野を離れてコルモールデンのほうへと向かいました。
しばらくの間、崖っぷちをうねり、絶壁の下を通っている険しい旧道に沿って進んでいきました。
そのとき、突然ニールスが鋭い叫び声を上げました。
ガチョウの背中にまたがって足をぶらぶらさせていた拍子に、片方の木靴が脱げてしまったのです。
「おい、モルテン、モルテン! 靴が脱げちゃったよ!」と、ニールスは叫びました。
ガチョウはすぐに方向転換して、地上へと降りていきました。
ところが運悪く、ちょうどその道を歩いていた二人の子供が、落ちたニールスの靴を拾い上げてしまいました。
それを見るやいなや、ニールスは慌てて叫びました。
「モルテン、モルテン! また上へ飛ぶんだ! もう遅い、あの靴は拾われちまったよ!」

下の道では、ガチョウ番のオーサと弟のマッツが、空から落ちてきた小さな木靴を見つめて立ち尽くしていました。
オーサはしばらく黙ったまま、この拾い物について考えていました。
それから、ゆっくりと、考え込むように言いました。
「マッツちゃん、覚えている? ほら、私たちがエーヴェードスクローステルを通ったとき、農家の人たちが、職人みたいに革の半ズボンをはいて、木靴を履いた小人を見たって言っていたでしょう? それから、ヴィットシェーヴレに行ったときには、木靴を履いた小人がガチョウの背中に乗って飛んでいくのを見たって、女の子が話していたじゃないの? それにね、マッツちゃん、私たちだって家に帰る途中、それと同じ格好をした小人がガチョウの背中に乗って飛んでいくのを見たわよね。さっきこの木靴を落として飛んでいったのは、それと同じ小人じゃないかしら?」
「うん、きっとそうだよ」と、マッツは答えました。
ふたりは木靴を何度もひっくり返しては、珍しそうに眺めていました。小人の木靴が道に落ちているなんてことは、めったにないことですから。
「待って、マッツちゃん!」と、オーサが叫びました。
「こっち側に、何か書いてあるわ」
「あっ、本当だ。でも、ずいぶん小さな字だね」
「私に見せて! ええと……ええと、『西ヴェンメンヘーイのニールス・ホルゲルッソン』」
「こんな不思議なことってあるものだねえ!」と、マッツは言いました。

第一編 おわり

その後のニールス

さて、みなさん。ニールスはガンの群れと一緒に目指していたラプランドまで行き、そこからまた懐かしいお父さんとお母さんの家まで、無事に帰ってくることができたのでしょうか。
「ニールスのふしぎな旅」続編のあらすじを、次にご紹介いたしましょう。

ラプランドさして
ニールスとガンの群れは、それからも空の旅を続けました。
みんながスウェーデンの都、ストックホルムの上空へ飛んできたときには、すでに五月に入っていました。
それまでにもニールスはさまざまな土地を訪れ、その場所に伝わる古い伝説を聞いたり、大きな町や都会を見物したり、美しい景色を楽しんだりしてきました。
また、今にもクマに食べられそうになりながら、そのクマが人間に狙われていることを教えて危機を救ってあげたり、元羊飼いだったオーサとマッツの姉弟が凍りついた湖の上で氷が溶け出し、困り果てているところを助けてあげたりと、数々の立派な行いもしてきました。

五月六日の朝、ガンの群れが朝霧をかき分けてメラール湖の上を飛んでいくと、湖の上に高い塔や、長い窓ガラスのある家々が見えてきました。
けれども、流れる霧のために、その景色はすぐにまた隠れてしまいました。
すべてが水の上に静かに休んでいるようでした。
やがて太陽の光が少しずつ漏れてくると、霧はバラ色に染まりました。
そして、あるいは青く、あるいは赤く、あるいは黄色く、色さまざまに輝きながら流れていったのです。下の方に見える家々は、まるで太陽の光そのものでできているかのようにキラキラと輝き、窓ガラスや高い塔は、火のように真っ赤に燃え上がっていました。
それはまるで、この世のものとは思えないほど美しい景色でした。
この「水の上に浮かぶ都」こそ、ストックホルムだったのです。
ところが、ここでニールスはガチョウの背中から落っこちてしまい、猟師につかまってしまいました。
でも幸いなことに、ストックホルムのスカンセンという公園の番人のおじいさんにもらわれて、一ヶ月ほどその公園の中で暮らしました。
それから、そこの動物園につかまっていたゴルゴという大ワシを助けてやり、その背中に乗って、ガンのアッカたちのあとを追いかけたのでした。
それからは長い旅が続きました。
森また森、山また山の上を飛び続けて、オンゲルマンランドやヴェステルボッテンを過ぎて、北へ北へと進みました。
この北の地方には、スウェーデンの国にとって一番大事な森林や鉱山がたくさんありました。

めぐりあい
ニールスはいつまでも続く同じような景色にあきあきして、ワシの背中でうとうとし始めました。
そうして、いつの間にか本当に寝込んでしまいました。
やがて目が覚めてみると、どうやら谷間の奥にいるようでした。
あたりを見回しても、大ワシのゴルゴの姿がどこにも見えません。
そういえば、いよいよラプランドに着くよ、とゴルゴが言っていたっけ。
じゃあ、この辺にアッカたちがいるのかもしれない。
ニールスはこう思って、みんなを探しにそろそろと歩き出しました。
六月十九日の朝早くのことです。
谷間はひっそりとしていて、まだ太陽は昇っていませんでした。
ニールスが二歩三歩と歩くか歩かないかのうちに、なんだかきれいなものが目に入りました。
近づいてみると、それは草むらの巣の中にいるメスのガンでした。
そばにはオスのガンが立っています。
気がついてみれば、草むらや地面のくぼみに、あっちにもこっちにもガンの巣がいっぱいありました。
ガンたちはまだみんな眠っていました。
久しぶりにガンの姿を見たニールスは、うれしくてうれしくてたまりません。
ふと向こうを見ますと、草の陰に白いものが見えます。
ニールスは胸を躍らせながら駆け寄りました。
見れば、細いヤナギの草むらの中に、あのかわいらしいダンフィンが卵を抱いているではありませんか! そばには、白ガチョウのモルテンが、ダンフィンを守るようにして立っています。

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