「あれは一体何でしょう?」
パンドーラはそう叫んで、頭を上げました。しかしエピミーシウスは、そのトントンという音が聞こえなかったのか、それともあんまり腹を立てていたので気がつかなかったのか、とにかく彼は何とも答えませんでした。
「あんたひどいわ、あたしに口を利かないなんて!」
パンドーラはそう言って、またすすり上げました。
またトントンと音がします! それは妖精の手の小さな拳骨のような音で、まるで軽く冗談でも言っているかのように、箱の内側を叩くのでした。
「お前は誰だい?」
パンドーラは、少しだけ以前の好奇心を出して尋ねました。「だあれ、このいけない箱の中にいるのは?」
小さな、いい声が中から答えました。
「蓋をあけてさえ下されば、わかりますよ。」
「いや、いや!」
パンドーラは、またすすり上げはじめながら答えました。
「あたし、もう蓋をあけるなんてごめんだわ! お前は箱の中にいるんでしょう、意地悪さん。いつまでもそこに閉じ込めといてやるから! お前の嫌な兄弟や姉妹は、もう一杯世の中を飛び回っているんだよ。」「あんたを外に出してやるほど、あたしがお人好しだと思ったら大間違いよ!」
パンドーラはそう言い放ち、エピミーシウスが「よくぞ言ってくれた」と褒めてくれることを期待して、彼の方を振り返りました。しかし、まだ怒りの冷めないエピミーシウスは、「今さら分別ぶったって、もう手遅れだよ」とぶつぶつつぶやくだけでした。
「ああ、そんなこと言わずに」と、その小さく優しい声がまた響きました。「私を出してくれたほうが、ずっといいことがありますよ。私はさっきの、お尻に毒針をつけたような悪い連中とは違うんです。彼らは私の兄弟でも姉妹でもありません。あなたが私を一目見れば、すぐにわかります。さあ、さあ、かわいらしいパンドーラさん! きっと私を出してくださるでしょう?」
実際、その小さな声でお願いされると、どんなことでも断りづらくなってしまうような、不思議で楽しい魅力がその響きには含まれていました。パンドーラの心は、箱の中から聞こえてくる言葉を聞くたびに、知らず知らずのうちに軽くなっていきました。部屋の隅にいたエピミーシウスも、半分こちらを向き、さっきよりも少しだけ機嫌が直っている様子です。
「ねえエピミーシウス、この小さな声を聞いた?」パンドーラが呼びかけました。
「ああ、確かに聞こえたよ」と彼は答えましたが、まだ少し不機嫌そうな調子です。「で、それがどうしたっていうんだい?」
「もう一度だけ、蓋を開けてみてもいいかしら?」パンドーラが尋ねました。
「好きにすればいいさ」エピミーシウスは言いました。「君はもう取り返しのつかない大失敗をしちゃったんだから、今さら少しばかり悪いことを増やしたってどうってことないだろう。君が世の中にばらまいた『わざわい』の群れの中に、もう一匹増えたところで、今さら何が変わるっていうんだい」
「もう少し優しく言ってくれたっていいじゃない!」パンドーラは目をぬぐいながら言いました。
「ああ、本当に困った子たちだねえ!」と、箱の中の声が、まるでからかうように笑いを含んで言いました。「あの女の子は、自分で自分を抑えられなくなっているのがわかっているんですよ。さあ、パンドーラさん、蓋を開けてください。私はあなたを慰めてあげたくて、うずうずしているんです。ほんの少しだけ、私に外の空気を吸わせて。そうすれば、あなたが思っているほど、世界はそんなに悲しい場所じゃないってことがわかるはずですよ」
「エピミーシウス!」パンドーラは叫びました。「もうどうなってもいいわ、あたし、箱を開けてみる!」
「じゃあ、蓋が重そうだから僕が手伝ってあげる!」エピミーシウスもそう叫んで、部屋の向こうから駆け寄ってきました。
こうして二人は心を決め、もう一度箱の蓋を開けました。すると、明るくニコニコした小さな人が飛び出し、部屋の中を舞い始めました。彼女が通る場所はどこでも、パッと光が差し込んだように明るくなりました。君たちも、鏡のかけらで日光を反射させて、暗い場所でキラキラと遊んだことはないかな? この妖精のような不思議な訪問者が、薄暗い家の中を飛び回る様子は、まさにそんな風に見えたのです。
彼女はエピミーシウスのところへ飛んでいくと、「わざわい」に刺されて赤く腫れた場所を指先で軽く触れました。すると、不思議なことに痛みはすっかり消えてしまいました。続いて彼女がパンドーラの額にやさしくキスをすると、彼女の傷も同じようにきれいさっぱり治ってしまいました。
こうして二人を助けてくれたあと、その光り輝く訪問者は、楽しそうに子供たちの頭の上を飛び回り、二人をとても優しく見つめました。そのおかげで、二人とも「箱を開けたことは、あながち悪いことばかりじゃなかったのかもしれない」という気持ちになりました。もしあの時蓋を開けていなかったら、このうれしい訪問者までが、あの毒針を持った小悪魔たちと一緒に、箱の中に閉じ込められたままになっていたはずなのですから。
「なんて美しい方なの。一体、あなたは誰なの?」パンドーラが尋ねました。
「私のことを『希望』と呼んでちょうだい」とその明るい人は答えました。「私はとても陽気な性格だから、世の中に飛び出していったたくさんの『わざわい』の埋め合わせをするために、この箱に入れられていたの。どうせ『わざわい』たちは世界中に広まっていく運命だったのだからね。決して怖がることはないわ! たとえ『わざわい』がいたとしても、私たちがいれば、この世界はきっと面白くやっていけるわ」
「あなたの翼、虹みたいにきれいな色をしているわね!」パンドーラは思わずそう叫びました。「まあ、なんて美しいのでしょう!」
「ええ、虹みたいでしょう?」ホウプ(希望)は言いました。「なぜかといえば、わたしは陽気なたちなのですが、ただニコニコしているだけじゃなくて、ときには少し涙をこぼすこともあるからです」
「そしてあなたは、いつまでもいつまでも、わたしたちのそばにいてくださるの?」とエピミーシウスが尋ねました。
「あなた方がわたしを必要としている間はいつまでも」とホウプは、気持ちのいい笑顔で言いました。「つまり、あなた方がこの世に生きているかぎり、ということになるでしょうね。わたしは決してあなた方を見捨てて行かないことを約束しますよ」
「時により、季節によっては、ときどきわたしがどこかへ行ってしまったのかと思うようなことがあるかもしれません。けれど、あなたが思いもかけないような時に、ひょっこり、ひょこりと、わたしの翼の光があなた方の家の天井に見えてくるでしょう。本当ですよ、わたしの大好きな子たち。わたしには、これから先あなた方が手に入れることになる、とても素敵で美しい未来が見えているのですから!」
「わあ、聞かせて! それが何なのか聞かせてよ!」と二人は叫びました。
「訊いてはいけません」とホウプは、バラ色の唇に指をあてて言いました。
「しかし、万一あなた方がこの世にいるうちにそんなことがなくても、気を落としてはいけません。わたしの約束を信じてください。
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