そしてみんなは、何ひとつ飲み食いもできないまま、すごすごと帰るしかありませんでした。
お父さんはまた布をとりだして、仕立ての仕事を続けました。
息子のほうは、ある親方のところへ仕事にいきました。
二番目の息子は粉ひきのところへいって、お弟子になりました。
修行の期間が終わったとき、親方が言いました。
「おまえは本当によく働いたから、おまえにちょっと変わったロバをやろう。
そいつは車も引かなきゃ、荷物の袋も背負わないんだ」
「じゃあ、いったい、そのロバは何の役に立つんですか?」
と、若い職人がたずねました。
「金貨をはきだすんだよ」
と、親方が答えました。
「おまえがそいつを布の上に立たせて、『ブリックレーブリット』っていうとな、この感心なけものは、前にも後ろにも、金貨をはきだしてくれるのさ」
「それはすごいですね!」
と、職人は言いました。
それから、職人は親方にお礼を言って、世の中へ出かけていきました。
お金がいるときには、職人は自分のロバに向かって、「ブリックレーブリット」と言いさえすればいいのです。
そうすると、金貨が雨のように降ってきます。
ですから、職人のほうでは、それを地面からひろいあげるだけで、何の苦労もいらなかったのでした。
職人にとっては、どこへいっても、いちばん上等なものが最高でした。
値段が高ければ高いほど、それが気に入りました。
それもそのはずです。
職人はいつも、お金でいっぱいの財布を持っているようなものなんですからね。
職人は、しばらく世の中を見物して歩いてから、こう考えました。
(お父さんのところへいってみなきゃならない。
この金貨をはくロバをもっていけば、お父さんもまえに怒ったことは忘れて、おれを気持ちよく家に入れてくれるだろう)
ところが、この二番目の息子も、お兄さんがテーブルをすりかえられた、あの宿屋にとまることになったのです。
職人はロバをひっぱっていきました。
宿屋の主人が職人の手からロバをとって、つなごうとしますと、若い職人は言いました。
「ほっといてください。
わたしのロバは、わたしがじぶんで馬屋につれていって、つなぎますよ。
だって、ロバのいるところをちゃんと知っておかなくちゃいけませんからね」
それを聞いて、宿屋の主人はふしぎに思いました。
そして、ロバの世話をじぶんでしなければならないような男は、どうせ飲み食いする金もそんなには持っていまい、と考えました。
ところが、このお客が、ポケットに手をつっこんで、金貨を二枚とりだし、これでなにかうまいものを買ってきてくれというではありませんか。
主人はびっくりして、目をまんまるくしました。
主人はそこらじゅうをかけずりまわって、手に入るかぎりでいちばん上等なものを見つけてきました。
ごちそうを食べたあとで、お客は、
「どのくらいたらないかね?」
と、主人にたずねました。
主人は、こいつからうんとしぼりとってやれと思って、
「金貨を二つ三つ、いただかなくちゃなりませんね」
と言いました。
職人はポケットに手をつっこみましたが、あいにく、金貨はすっかり使いきっておしまいになっていました。
「ご主人、ちょっと待っておくれ。
すぐにいって、金貨をもってきますから」
職人はこう言って、テーブルかけをもっていきました。
主人には、なんでそんなことをするのか、さっぱりわけがわかりません。
でも、そのわけを知りたくなって、職人のあとからこっそりついていきました。
お客は馬屋の戸に、なかからかんぬきをおろしてしまいました。
そこで、主人は節穴からのぞいてみました。
すると、お客はロバの下に布をひろげて、「ブリックレーブリット」と大声で言いました。
と、そのとたんに、ロバは前にも後ろにも金貨をはきだしはじめました。
それこそ、まるで雨でも降るように、金貨がバラバラ、バラバラと地面に落ちました。
「なんてことだ!」
と、主人は言いました。
「これじゃあ、ドゥカーテン金貨がたちまちできあがりだ。
こういう財布なら悪かないぞ」
お客は勘定をはらって、寝に行きました。
ところが主人は、夜のうちに馬屋へしのびこんで、この金貨をうむロバを連れだし、そのかわりにべつのロバをつないでおいたのです。
つぎの朝はやく、職人はロバをつれて出かけました。
もちろん、自分では金貨をうむロバをつれているつもりだったのです。
お昼ごろ、職人はお父さんのところにつきました。お父さんは息子が帰ってきたのを見ますと、たいそう大喜びして、快く迎えてくれました。
「お前は、どんな仕事に就いたんだね?」
とお父さんがたずねました。
「粉ひきだよ、お父さん」
と息子は答えました。
「何か旅のおみやげは持ち帰ってきたかい?」
「ロバを一匹だけ連れてきました」
「ロバなんて、このへんにもいくらだっているさ。
どうせなら、もっといいヤギでも連れてきてくれればよかったのに」
「そりゃあそうかもしれないけれど、こいつは普通のロバとは違って、金貨を産むロバなんだよ。
僕が『ブリックレーブリット』って言うとね、このすごい奴は、敷物いっぱいに金貨をジャラジャラ吐き出すんだ。
さあ、遠慮しないで親類の人たちをみんな呼んでごらん。
僕がみんなを大金持ちにしてあげるからさ!」
「そいつは嬉しいねぇ!
それなら、俺も針を持ってめんどくさい仕立て仕事をしなくてもすむわけだ」
仕立て屋さんはこう言うと、自分から飛び出して行って、親類の人たちを呼び集めてみんな連れてきました。
全員がそろったところで、粉ひきの息子は、どうか少し場所を空けてください、と言いました。
そして、床に布を広げ、ロバを部屋の中へ連れ込みました。
「さあ、よく見ていてくださいよ」
粉ひきはこう言って、「ブリックレーブリット!」と大きな声で叫びました。
ところが、落ちてきたのは金貨ではありませんでした。
これで、この動物が金貨を吐き出す技をまったく心得ていないことがはっきりと分かりました。
だってそうでしょう、どんなロバにだってそんな魔法の芸ができるわけがありませんからね。
かわいそうに、粉ひきはすっかりしょげ返ってしまいました。
そして、自分がまんまとだまされていたことを知り、親類の人たちに頭を下げて謝りました。
親類の人たちは、やってきたときと同じように、貧乏なままですごすごと帰っていきました。
しかたなく、お父さんは再び針を手に取りました。
息子のほうは、また別の粉ひきのところに雇われて働きに出ました。
そして三番目の弟は、ろくろ細工師のところへ弟子入りしました。
これはとても手のかかる細かい仕事だったので、技術を覚えるのにもっとも長く時間がかかりました。
そんなある日、ふたりの兄さんたちからこの弟に手紙が届きました。
自分たちがひどい目にあったこと、それも、いよいよ旅の最後という晩になって、あの宿屋の主人に自分たちのすばらしい宝物をすっかり奪い取られてしまったことが書かれていました。
さて、ろくろ細工の職人が仕事をすっかり覚え、いよいよ修行の旅に出かけようというとき、親方が「お前は本当によく働いてくれたから」と言って、一つのふくろをくれました。
そして、親方はこう言いました。
コメント