初級翻訳・いさましい ちびの仕立屋さん 第3話

いさましい ちびの仕立屋さん

王さまは、たったひとりのために、忠義な家来をのこらずうしなってしまうのをかなしく思いました。そして、王さまは心の中でこうつぶやきました。
(いっそのこと、こんな男が最初から目にとまらなければよかったのだ。できることなら、すぐにでもひまを出してやりたいものだ。)
でも、王さまには、思いきって仕立屋さんにひまをやるだけの勇気もありませんでした。
なぜなら、もしそんなことをしようものなら、この恐ろしい男が家来たちを従えて王さまをうち殺し、かわりに王さまの位に座ってしまうのではないかと、それが心配でならなかったからです。
王さまは、長いこと、ああでもない、こうでもないと考えぬいたすえ、ようやくひとつのうまいくふうを思いつきました。
そこで、仕立屋さんのところへ使いをやって、こう言わせたのです。
「あなたが世にもすぐれた豪傑であるのを見こんで、ぜひたのみたいことがある。じつは、この国のある森のなかに、大男がふたり住んでいて、ものはぬすむわ、人は殺すわ、火はつけるわで、とにかくひどい悪事ばかりはたらいているのだ。この男たちに近づけば、どんな者でも命が危ない。もしこのふたりの大男をやっつけて退治してくれれば、王さまのひとりむすめを妻にめあわせ、国の半分を持参金としてあげよう。なお、馬にのったさむらいを百人あなたにつけて、すけだちさせよう」
(こいつは、おれのような男にとって、やりがいのあるしごとだぞ)
と、仕立屋さんは心の中で思いました。
(美しいお姫さまと国を半分か、そうざらにあるしごとじゃあないな)
そこで、仕立屋さんは使いの者に返事をしました。
「いいとも! 大男どもは、かならずこの私がやっつけてお目にかけよう。百人のさむらいなんていらないね。ひと打ちで七つをやっつける男には、大男ふたりぐらい、ものの数ではないさ」
こうして、ちびの仕立屋さんはのこのこと出かけていきました。百人のさむらいたちは、馬にのってあとからついていきました。
森のはずれまできますと、仕立屋さんはおともの人たちに言いました。
「いいかい、ここで待っていてくれ。おれひとりで、かならず大男どもをかたづけてみせるから」
それから、仕立屋さんは森のなかにとびこんで、右や左を見まわしました。
しばらく歩いたとき、ふたりの大男のすがたが目にとまりました。
大男どもは、とある木の下にねころんで、ぐうぐうと眠っています。
なんと、そのものすごいいびきのために、上の木の枝が上下に激しくゆれているほどでした。
それを見て、仕立屋さんはすばやく両方のポケットに石をいっぱいつめこむと、その木によじのぼっていきました。
木のなかほどまで登ると、するすると一本の大枝をつたって、ちょうど眠っている大男たちのま上のところまでやってきて、そこにどっかりと腰を下ろしました。
そして、片方の大男の胸めがけて、石をひとつずつ落としはじめました。
その大男はしばらくの間気づきませんでしたが、それでもとうとう目をさますと、となりに寝ている仲間をつっついて言いました。
「おい、なんでおれをなぐるんだよ!」
「夢でも見てるんじゃないのか? おれは殴りゃあしないぜ」
と、相手の男はこたえました。
それから、ふたりはまたぐうぐうと眠りこんでしまいました。
仕立屋さんは、こんどはもうほうほうの大男をめがけて、石をひとつ落としました。
「いったいなにをしやがる!」
と、その大男がどなりました。
「なんでおれに石をぶっつけるんだよ!」
「おれはなんにもぶっつけやしないってば」
と、さっきの大男がこたえて、なにか不満そうにぶつぶつと言いました。
ふたりはちょっとの間口げんかをしていましたが、すっかり疲れきっていましたので、まもなく仲直りをして、またまた眠りこんでしまいました。
そこで、仕立屋さんはまたもやいたずらをはじめました。
こんどは、一番大きい石を選びだすと、そいつを最初の大男の胸めがけて、力いっぱいぶつけたのです。
「なんてひどいことをするんだ!」
大男はそうわめきざま、まるで気が狂ったようにとびおきて、仲間の大男をどんと木のほうへつきとばしました。
そのとたん、木はぐらぐらっと激しくゆれうごきました。
相手もおなじように激しいやりかたでやりかえしました。
それから、ふたりは怒りに狂って、太い木をひっこぬき、それを武器にして激しい殴りあいをはじめました。
こうしてさんざん暴れまわったあげく、とうとうふたりともその場に同時に地べたへぶったおれて、死んでしまいました。
さてそこで、ちびの仕立屋さんは木の上から地べたにとびおりました。
「こいつらが、おれの乗っかっていた木をひっこぬかなかったのは、いやはや、もっけの幸いというもんだ」
と、仕立屋さんは陽気に言いました。
「さもなきゃ、リスみたいにほかの木へとびうつらなきゃならないところだったからな。もっとも、おれみたいな男は身が軽いから、わけないけれどさ!」
仕立屋さんは自分の刀をぬくと、倒れたふたりの大男の胸に二度、三度と、ずぶりずぶりと突きさしました。
それから、森の外で待っていた馬にのったさむらいたちのところへ平然と出ていって、こう言ったのです。「仕事は済んだぞ。
ふたりとも、俺が息の根を止めてきた。
だが、ちょいと骨が折れたぞ。
あいつらは、苦し紛れに木を引っっこ抜いて、向かってきたからな。
だが、俺みたいに、一撃で七つもやっつけるものに向かっちゃ、歯も立たん。」
「それであなたは、お怪我もなさらなかったんですか?」
と、侍いたちはたずねました。
「うん、うまくいったんだ。」
と、仕立屋さんは答えました。
「あいつらに、俺の髪の毛一本折らせやしなかったさ。」
侍たちは、どうしてもそれを信じようとはしませんでした。
そこで、みんなは森の中に馬を乗り入れました。
すると、たしかに、仕立屋さんのいったとおり、大男どもが自分たちの流した血の中にひたっています。
しかも、あたりには引っっこ抜かれた木がごろごろしているではありませんか。
ちびの仕立屋さんは、王さまから約束のごほうびをいただこうとしました。
ところが、王さまは、前にした約束のことを後悔して、どうしたらこの豪傑を追い払うことができるだろうかと、またまた考えているところでした。
「おまえは、わしの娘と国を半分もらうまえに、もうひとつ、いさましい手並みを見せてくれねばならぬ。」
と、王さまは仕立屋さんに言いました。
「じつは、森の中をユニコーンが駆け回っておって、ひどい害ばかりしておる。
まず、こいつを生けどりにしてもらいたい。」
「一角獣の一ぴきぐらい、大男ふたりに比べれば、なんでもありません。
なにしろ、一撃で七つというのが、わたしの手並みなんですからね。」
こう言って、仕立屋さんは縄を一本と、斧を一ちょう持って、森に出かけていきました。
そして、こんどもまた、お供の人たちには外で待っているように言いつけました。
長いこと探すまでもなく、まもなく、その一角獣があらわれました。
まるで、その角で仕立屋さんをあっさり突き刺してくれようとでもいうように、仕立屋さんめがけて、まっしぐらにおどりかかってきました。
「静かに、静かに。」
と、仕立屋さんは言いました。

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