初級翻訳・おやゆび姫 第2話

おやゆび姫

しかたがないので母ガエルは、きれいなベッドを持ち上げて、そのままスーッと泳いでいってしまいました。
おやゆび姫はまた、ひとりぼっちになってしまいました。
緑のはっぱの上にポツンと座って、しくしくと泣きました。
あの意地悪なヒキガエルと、みにくいむすこガエルのおむこさんといっしょに住むなんて、考えるだけでもうがまんなりませんでした。
その一部じしゅうを、メダカたちが水の中でスイスイ泳ぎながら聞いていました。
メダカたちはおやゆび姫を一目見てみようと、水面に頭をピョコンと出しました。
見たとたん、そのあまりの美しさにすっかり心を打たれてしまいました。
こんなにかわいい子が、あんなみにくいヒキガエルたちと暮らすなんて、あまりにかわいそうだ、とメダカたちは思いました。
「だめだ!
あんなことになってたまるもんか!」
メダカたちは力を合わせて、はっぱのくきのまわりに集まりました。
すぐ上には、小さなおやゆび姫が座っています。
みんないっせいに、くきの根もとをガリガリとかじりはじめました。
ずっとずっとガリガリとかじり続けていると……ついに、メダカたちはくきをプッツリとかみ切ったのです。
はっぱはフワッと水面に離れて、川の流れにのってスーッと進んでいきました。
おやゆび姫は、岸からどんどん遠ざかっていきました。
ゆらゆらとやさしくゆられながら、おやゆび姫はいくつものきれいな場所を通りすぎました。
林の中にいた小さな小鳥たちはおやゆび姫を見つけて、「なんてかわいいおじょうさんなんだ!」と、うれしそうにさえずりました。
おやゆび姫は、はっぱに乗ってどんどん流されていき、ついにはまったく知らないよその国へとやって来ました。
そこへ、きれいなモンシロチョウが一羽、ひらひらひらひらと現れて、おやゆび姫のまわりをしきりに飛びまわりました。
しばらく楽しそうに飛びつづけたあと、ついにハスのはっぱの上にとまりました。
おやゆび姫とモンシロチョウは、いっしょに川を仲良く流れていきました。
もうヒキガエルにつかまる心配なんてありません。
まわりに見えるのは、すてきな景色ばかりでした。
おやゆび姫は、だんだん楽しくウキウキした気持ちになってきました。
水面が明るいお日さまにてらされて、金色にキラキラとかがやいていました。
おやゆび姫は、自分の腰につけていたリボンをほどき、その片方をモンシロチョウの体にぐるぐると巻きつけて、もう片方の端をはっぱにしっかりと結びつけました。
すると、はっぱは今までとはくらべものにならないほどのすごいスピードで、水面をスーッと走りだしました。
そのはっぱに乗っているおやゆび姫も、モンシロチョウといっしょにすごい勢いで流されていきました。
やがて、そこに大きなコガネムシがブンブンと音を立てて飛んできました。
コガネムシはおやゆび姫を見つけるやいなや、がっしりとした前足で細い腰をぐっとつかみ、そのまま高い木の上へと連れ去ってしまいました。
緑のはっぱは、モンシロチョウを乗せたまま小川を下っていきました。
モンシロチョウはおやゆび姫のリボンでしっかりと結ばれていたので、逃げたくても逃げられなかったのです。
おやゆび姫は、コガネムシにさらわれてしまって、きっとものすごく怖かったことでしょう。
でも、それよりも何よりも、モンシロチョウにごめんなさいとあやまえたくて、心がいっぱいいっぱいでした。
だってお気に入りのはっぱに、きれいなモンシロチョウをむりやりくくりつけてきてしまったのですから。自分でリボンをほどくことができなければ、きっとおなかをすかせて死んでしまうに違いありません。
けれどコガネムシは、そんな心配はおかまいなしにおやゆび姫を木の中でいちばん大きいはっぱの上に乗せました。
そして花のミツを取ってきて、食べさせてくれました。
「かわいいじゃん、かわいいじゃん。
コガネムシには見えないけれど、かわいいじゃん」
と、コガネムシは言いました。
しばらくすると、木にいたほかのコガネムシたちがみんなやって来ました。
しかし、みんないっせいに触角(しょっかく)をぴくっと立てて、口々にこう言いました。
「この子、足が二本しかないじゃん! すげぇ変じゃん」
「触角がないじゃん」
「体が細すぎるじゃん。
へぇん! 人間みたいじゃん」
コガネムシの奥さんは「ふん! この子ブスねぇん」と、口をそろえて言いました。
でも、だれがなんと言おうと、おやゆび姫はとってもかわいいのです。
おやゆび姫をさらってきたコガネムシだって、さっきまではそう思っていました。
なのに、まわりのみんながあまりにも「みにくい、みにくい」とはやし立てるので、このコガネムシまでおやゆび姫のことをみにくいと思い始めてしまったのです。
コガネムシはどうしていいか分からなくなり、「おまえなんか、どこへでも勝手に行っちゃえばいいじゃん」と言いました。
そして、おやゆび姫をつまんで木から飛びおりると、ヒナギクの花の上にちょこんと乗せて、そのまま帰ってしまいました。
おやゆび姫はめそめそと泣きました。
コガネムシとお友達になれないほど、自分はみにくいのだろうかと思いました。
なみだが止まりませんでした。
でも、おやゆび姫はバラの花びらのようにおしとやかでやさしく、この世の中でいちばん愛らしい女の子なのです。
かわいそうに、おやゆび姫は夏のあいだ、ずっとひとりぼっちでした。
広い森の中で、ひとりぼっちでした。
大きなスカンポの葉の下に、草のくきでベッドをこしらえて、雨つゆをしのいでいました。
おやゆび姫は食べ物のかわりに花のミツをすい、毎朝はっぱから落ちるしずくで、のどをうるおしていました。
そんな毎日がすぎていき、夏も秋も終わってしまい、ついに冬がやって来ました。
長くて、寒い冬です。
甘くさえずっていた鳥たちもみんな飛びさり、木はかれ、花をしおれてしまいました。
今まで住んでいた大きなクローバーの葉さえも、くるくると丸まって、かさかさにしなびて、黄色くしおれたくきだけしか残りませんでした。
おやゆび姫の服も穴があいて、ぼろぼろになっていました。
寒さで、がたがたとふるえました。
なんといっても小さくてかよわいので、あつさや寒さにとてもびんかんだったのです。
寒くて寒くて、こごえ死にそうでした。
ついに雪までも降ってきました。
ひらひらと、ゆっくり降っていました。
でも、雪のかけらがひらひら降ってくるのは、小さなおやゆび姫にとっては、シャベル一杯分の雪を頭の上に落とされたのと同じなのです。
なぜなら私たちにはそれなりの背がありますが、おやゆび姫は背がおやゆびくらいしかないからです。
おやゆび姫はかれたはっぱにくるまりましたが、真ん中にひびが入っていて、すきまからぬくもりが逃げていきます。
寒さにふるえていました。
話は変わって、おやゆび姫が住んでいた森のそばには、大きな麦畑が広がっていました。
麦はとっくにかり取られていました。
ただ、かさかさになった麦のきりかぶだけが、野ざらしになって氷の張った地面に立っていたのです。
おやゆび姫は、麦のきりかぶの中を歩きました。
でも、おやゆび姫にとっては、きりかぶの中も大きな森です。

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