くまの子
新美南吉
あるとき、猟師(りょうし)が雪の積もった山へ、狩りに出かけました。
一羽のウサギを見つけたので、木のあいだや小道を追いかけまわし、やっとの思いで仕留めました。
ウサギを袋に入れて、その木の底でひと休みしてから、家の方へ帰ろうと歩き出しました。
谷をひとつ越えて、こちらの山へやってきたとき、帽子(ぼうし)がなくなっていることに気がつきました。
さっき休んだところに忘れてきたのかもしれないと思ってそっちをみると、その木の根元に誰かいて、こちらを見ています。
猟師が、こちらから、
「おーい」
と、言うと、あちらからも、
「おーい」
と、言います。
猟師は、そちらの方へまたもどっていきました。
「おーい、おーい」と呼ぶと、向こうの木の根元でも、
「おーい、おーい」と言って、手を振っています。
谷を渡って、ずいぶん近づいてから、また呼んでみましたが、今度はなんと答えることもなく、うれしそうに木の根元で飛び跳ねていました。
猟師がその木の根元までき来て見てみると、驚いたことに、それは一匹の子グマで、猟師の帽子をかぶっていたのでした。
猟師がポカンと口を開けて驚いていると、子グマは猟師のところまでやってきて帽子を渡し、山の奥へと帰っていきました。
猟師は心の中で子グマにお礼を言うと、また谷を渡って、こちらの山へやってきました。
そして、子グマがいなくなった方向へ向かって、
「おーい」
と呼んでみたら、向こうからも、
「おーい」
と答えたのでした。
コメント