七
王さまはふと見ると、いつの間にか王女さまがいなくなっているのでびっくりして、
「おや、大変だ!
あの四人組のやつらがさらっていったにちがいない。
すぐに追っかけてうばい返してこい!
さあ、早く早く!」と、顔をまっ赤にしてご命令になりました。
すると王さまの兵いたちは、
「そら、行け!」と言うが早いか、何千人もの大軍が一度に馬にとびのり、大風のようにびゅうびゅうとかけ出していきました。
王子たちは王女さまの手を引いて、はるか遠くまで逃げてきました。
するとやがて、うしろの方から「ぽかぽかぽか……」と、ものすごい馬のひづめの音が聞こえてきました。
王子は走りながら、
「おいおい、なんだろう?」と三人の家来に尋ねました。
「おや、兵たちのようですよ!
ああ、兵たちだ、兵たちだ! 馬に乗った兵たちが大風のように飛んで来ます!」
火の目小僧はうしろを振り返るなり、こう叫びました。
王女さまはそれを聞いて、
「では、きっとお父さまの兵たちが、あなたがたを殺しにやってきたのですね。
ああ、いい手があります。
ちょっとお待ちくださいまし!」と、息を切らしながらそう言って、王子たちに手をはなしてもらいました。
そのうちに騎兵たちは、「うわあッ!」と気高いいきごみ(ときの声)を上げて、王子たちのすぐうしろまで追い詰めてきました。
王女さまは、王子にけががあっては大変だと思い、大急ぎでかぶっていた顔かけをひきはなしました。
そのときちょうど、風は兵たちのほうに向かって吹いていました。
王女さまはその顔かけを急いでうしろへ投げつけて、
「さあ、生えておくれ!
この顔かけの糸の数ほど生えておくれ!」と、おまじないの言葉をとなえました。
すると、たちまちみんなのすぐうしろに大きな木が一度にぎっしりと生えのび、あっという間に大きな大深林(だいしんりん)ができあがりました。
兵いたちは、「おやっ?」とまごまごしながら、その木と木の間をむりやりにくぐりぬけようともがきました。
王子と三人の家来は、そのすきに王女さまを連れて一生懸命に逃げ延びました。
みんなはしばらく、走りづめで走ったあと、やっと安心して一休みしました。
王子は、
「どうだ、まだ追っかけてくるか見てごらん」と火の目小僧に言いつけました。
火の目小僧はさっそく体をのびあがらせて見てみると、兵たちが今やっと、さっきの林をくぐりぬけて、またどんどん砂けむりを立てて追いかけてくるのが見えました。
王子は、
「では、ぐずぐずしていられない。さあ、逃げよう!」と言って立ち上がりました。
すると王女さまは、
「いえいえ、大丈夫でございます。もうすこし休んでいらっしゃいまし」と言いながら、目から涙を一しずく流して、
「さあ、涙よ、大きな河になっておくれ!」と言いました。
すると、たちまちそこへ大きな大きな河ができました。
王子はそれで安心して、ふたたび王女さまの手をとって逃げました。
みんなは長い間どんどん走りつづけに走り、もうこれなら大丈夫だろうと思いながら、しばらく休みました。
「どうだ、まだ追っかけてくるか?」と、王子はもう一度火の目小僧に見させました。
火の目小僧はうしろを向いてつま立ちをし、
「おや、とうとうあの河をわたって、また追っかけてまいります!」と言いました。
王女さまはそれを聞くと、
「どういたしましょう。もう私の力ではどうすることもできません。どうかして、この昼を夜にする工夫はないものでございましょうか?」と言いました。
すると長々は、
「ああ、それならぞうさもありません!」と言いながら、体をするすると伸ばしました。
そして、あッと言う間に天まで伸びあがりました。
みんなはびっくりして、何をするのかと見上げていますと、長々は高くて高い雲の中で帽子をぬぎ、その帽子をひょいとお日さまの片方にかぶせました。
すると下界は、王子たちのいる方には光がさすだけで、兵たちがかけて来る方の半分は、ふいに夜のようにまっくらになってしまいました。
王子たちは、兵たちが暗がりの中でまごまごしている間に、
「さあ、走れ、走れ!」と言いながら、ふたたび王女さまの手をとって大急ぎでかけ出しました。
長々は、王子たちがいいかげん遠くまで逃げのびたのを見すまして、ひょいと帽子をはずし、自分の頭にかぶりました。そして、ひとまたぎで一里(いちり)も進めるその長い足で、長々はひょいひょいひょいと、あっという間に王子のそばへと追いつきました。
それからみんなは、ふたたび一緒に走り続けました。
そのうちに向こうの方に、王子の御殿のある町が見えてきました。
王子は、
「どうだ、兵たちはもう引き返したか。
ちょっと見てくれ」
と、火の目小僧に言いました。
火の目小僧はまた後ろをふりかえって、
「おや、またすぐ後ろに砂煙(すなけむり)が見えます。
これは大変だ!」
とあわてました。
すると、ぶくぶくが、
「じゃあ、みなさんはかまわずお逃げください。
ぼくがここに残って、ちゃんとなんとかしますから」
と言って、王子たちを先に逃がしました。
八
ぶくぶくはその場に一人でどっしりと立ちふさがったまま、ぶくぶくぶくぶくっと、見る見るうちにものすごい大山(おおやま)のようにふくれあがりました。
そしてその大きな口をぱくりとあけ、
「さあ、来い!」
と言いながら、悠々(ゆうゆう)と待ちかまえていました。
兵たちは、
「うわあ、うわあ!」
と気高いいきごみ(ときの声)を上げて、死にものぐるいで駆けつけてきました。
みんなは、もうこうなれば、たとえ火の中をくぐってでも王女さまを取り返して見せる、もし相手が王女を渡さないと言うなら、すぐに町を攻め包んで、町中の者を一人残らず斬り殺してやろうと、すっかり覚悟を決めていたのでした。
まもなく兵たちは、ぶくぶくの口のまん前まで駆けつけてきました。
するとみんなは火の子のようにすっかりあせりきっているものですから、ぶくぶくの大きな口を町の入り口の門とまちがえて、片端からどんんどんどん、その口の中へとびこんでいきました。
ぶくぶくは、その何千人という兵たちがすっかりお腹の中へ入ってしまうと、
「ははは、これでよし」
と笑いながら、そのままのそのそと町の方へ歩いていきました。
ぶくぶくはそれだけの兵たちを馬ごとお腹の中に入れたのですから、少し歩きにくくはありましたが、それでも大股にのそのそと歩いて町へ入りました。
町中では、王子がうまく夜ずの番をして、世界一立派な王女をお嫁にもらって帰ってきたというので、みんな大喜びで踊りさわぎました。
王子はぶくぶくの姿を見ると、
「おお、帰ったか。
あの兵たちはどうした?」
と尋ねました。
ぶくぶくはにたにた笑いながら大きなお腹をぽんとたたいて、
「このとおりでございます。
みんなこの中へ入れてしまいました」
と言いました。
王子ははっはと笑って、
「もういいから出しておやりよ」
と言いました。
「そうですね。
兵たちや馬はこなれが悪いでしょうね。
あとで腹を下すとやっかいですから、出してしまいましょう」
ぶくぶくはこう言って、わざわざ町のまん中の大きな広場まで歩いていきました。
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