初級翻訳・ガリバー旅行記 第4話

ガリバー旅行記

次に、チョッキの右ポケットから出てきたものは、人間三人分ぐらいの白い薄い物が、針金で幾枚も重ねて締めつけてあり、それには、いろんな形が黒くついていました。
これはたぶん書物だろうと思います。
一字の大きさは、私どもの手の半分ほどもあります。
次に、チョッキの左ポケットには、一種の機械がありました。
宮殿前の柵に似た長い二十本ばかりの棒が、その背中から出ているのです。
これは人間山が頭の髪をとく道具と思えます。
ズボンのポケットからは、長さ人間ほどもある、鉄の筒がありました。
これは何に使うのかわかりません。
右の内側のポケットからは、一すじの銀の鎖が下がり、その下の方には一つの不思議な機械がついていました。
私どもは、その鎖についているものを引き出してみよ、と言いました。
これは半分は銀で、半分は透明なもので出来ています。
彼はこの機械を、私どもの耳の傍へ持って来ました。
すると、水車のように絶えず音がしているのです。
これは不思議な動物か、小さな神様らしく思えます。
人間山の説明では、彼は何をするにも、いちいち、この機械と相談するということです。
次に、彼は左の内ポケットから、漁夫の使うような網を取り出しました。
これは財布だそうです。
中には重い黄色い金属がいくつか入っていました。
これがほんとの金だとすれば、大したものにちがいありません。
このようにして、私どもは陛下の命令どおり、熱心に彼の持ち物を調べてみましたが、最後に、彼の腰のまわりに、一つの帯があるのを見つけました。
それは何か大きな動物の革でこしらえたもので、その左の方からは、人間五人分の長さの剣が下っておりました。
右の方からは、袋が下っておりました。
私どもは人間山の身体から発見したものを、このように、書きとめておきます。
人間山は、陛下を尊敬して、礼儀正しく、私どもを待遇してくれました。」

この目録は皇帝の前で読みあげられました。
皇帝は、ていねいな言葉で、その目録に書いてある品物を、私に出せと言われました。
まず短刀を出せと言われたので、私は鞘ごとそれを取り出しました。
このとき、皇帝は三千の兵士で私を遠くから取り囲み、いざといえば、弓矢で射るように用意されていたのでした。
が、私の目は皇帝の方だけ見ていたので、それには少しも気がつきませんでした。

「その短刀を抜いてみよ。」
と皇帝は言われました。
刀は潮水で少し錆びてはいましたが、まだよく光ります。
スラリと抜き放つと、兵士どもは、あッと叫んで、みんな驚き恐れました。
振りかざしてみせたら、太陽の反射で、刀がピカピカ光り、兵士はみんな目がくらんでしまったのです。
が、皇帝はそれほど驚かれませんでした。
それをもう一度、鞘におさめて、鎖の端から六フィートほどの地上に、なるたけ静かに置け、と私に命令されました。

次に皇帝は、鉄の筒を見せよと言われました。
鉄の筒というのは、私のピストルのことです。
私はそれを取り出して、その使い方を説明しました。
そのピストルに火薬を詰めて、
「今から使って見せますが、どうか驚かないでください。」
と皇帝に注意しておいて、ドンと一発、空に向って打ちました。
今度の驚きは、短刀どころの騒ぎではありません。
何百人の人間が打ち殺されたように、ひっくりかえりました。
皇帝はさすがに倒れなかったものの、目をパチパチされています。
私は短刀と同じように、このピストルを引き渡しました。
それから、火薬と弾丸の入った革袋も渡しました。
そして、
「この火薬は火花が一つ飛んでも、宮殿も何もかも吹き飛ばしてしまいますから、どうか火に近づけないでください。」
と注意しておきました。それから、懐中時計を渡しました。
皇帝はこの時計を非常に珍しがり、一番背の高い二人の兵士に、それを棒にかけて、かつがせました。
絶えず時計がチクタク音を立てるのと、時計の長針が動いているのを見て、皇帝は大へん驚きました。
この国の人たちは、私たちより目がいが良いので、分針の動いているのまで見分けがつくのです。
いったいこれは何だろう、と皇帝は学者たちにお尋ねになりましたが、学者たちの答えはまちまちで、とんでもない見当違いもありました。
次に私は銀貨と銅貨を取り出し、それから櫛や嗅ぎタバコ入れ、ハンカチ、旅行案内などを、みんな渡しました。
短刀とピストルと革袋は荷車に積んで、皇帝の倉へ運ばれましたが、そのほかの品物は私に返してくれました。
私は身体検査のとき、見せなかったポケットがあります。
その中には眼鏡が一つ、望遠鏡が一つ、そのほか二、三の品物が入っていました。
これは失くされたり壊されると大へんだから、わざわざ見せなくてもよかろうと思ったのです。

3 いろいろな曲芸

私の性質がおとなしいということが、みんなに知れわたり、皇帝も宮廷も軍隊も国民も、みんなが、私を信用してくれるようになりました。
で、私は近いうちに自由の身にしてもらえるのだろう、と思うようになりました。
私はできるだけ、みんなから良く思われるように努めました。
人々はもう私を見ても、だんだん怖がらなくなりました。
私は寝ころんだまま、手の上で五、六人の人間を踊らせたりしました。
ときには、子供たちがやって来て、私の髪の毛の間で、かくれんぼうをして遊ぶこともあります。
もう私は彼らの言葉を聞いたり、話したりすることに馴れていました。
ある日、皇帝は、この国の見世物をやって見せて、私を喜ばしてくれました。
それは実際、素晴らしい見世物でした。
なかでも面白かったのは、綱渡りです。
これは地面から二フィート十二インチばかりに、細い白糸を張って、その上でやります。
この曲芸は、宮廷の高い地位につきたいと望んでいる人たちが、出て演じるのでした。
選手たちは子供のときから、この芸を仕込まれるのです。
仮に、宮廷の高官が死んで、その椅子が一つ空いたとします。
すると、五、六人の候補者が、綱渡りをして皇帝にご覧に入れます。
中で一番高く跳び上って落ちない者が、その空いた椅子に腰かけさせてもらえるのです。
ときには大臣たちが、この曲芸をして、こんなに高く跳べますよと、皇帝にご覧に入れたりすることもあります。
大蔵大臣のフリムナップなど、実にあざやかで、高く跳び上ります。
私は彼が細い糸の上に皿を置いて、その上でとんぼ返りをするところを見ました。
だが、この曲芸ではときどき、死人や怪我人を出すことがあります。
私も選手が手足をくじいたのを二、三回見ました。
中でも、一番あぶないのは、大臣たちの曲芸です。
それはお互いに仲間の者に負けまいとして、あんまり気張ってやるので、よく綱から落っこちます。
大蔵大臣のフリムナップでさえ、一度なんか、もう少しで頭の骨を折るところでしたが、下に国王のクッションがあったので、助かったということです。
それから、もう一つ、ほかの見世物があります。
これは皇帝と皇后と総理大臣の前だけで、やらされる特別の余興なのです。
皇帝はテーブルの上に、長さ六インチの細い絹糸を三本置きます。
一つは青、一つは赤、もう一つは緑の糸です。

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