ふくやさんは だんろのそばに すわりなおして、 かわいそうに ひえた手を あたためながら、 ぶつぶつと ひとりごと ――
「チョッキは もも色の サテンから たってある ―― バラの つぼみの ししゅうは、 きれいな きぬ糸で。
はたして なけなしの お金を シンプキンに あずけて よかったのやら。
21の ボタンあなが、 さくらんぼ色の より糸だとは!」
ところが たちまち、 戸だなの ところから またもや ちいさな もの音が。
ちっぷたっぷ、 ちっぷたっぷ、 ちっぷたっぷちっぷ!
「こりゃ とんでもない!」と グロスターの ふくやさんが、 もうひとつ さかさに なっていた ティーカップを ひっくりかえしてみると。
こんど 出てきたのは、 まさに ちいさな ネズミの だんなさま、 しかも ふくやさんに ぼうしを 取って おじぎをしまして!
そのあと 戸だなの あっちこっちから、 いっせいに こまかな もの音が うわっと なりだして、 あっちが なれば こっち、 むしくいまどの シバンムシみたいに。
ちっぷたっぷ、 ちっぷたっぷ、 ちっぷたっぷちっぷ!
もう カップの下から、 おわんの下から、 はちの下から、 ちょろちょろ わらわら ネズミさんたちが とびだしてきて、 みんな 戸だなから おりて、 かべのうらに さようなら。
ふくやさんは、 だんろの まぢかに すわりこんで、 ぼやきます ――「21の ボタンあなが、 さくらんぼ色の きぬとは! 土曜の 昼までに 終わらんと。
今は、 火曜の 夜だ。
ネズミを にがして よかったものか、 どう見ても シンプキンが 取っておいた ものだが。ああ、 まだ しあがらん、 なんなら 『より糸が足りない!』」
また 出てきた ネズミさんたちが ふくやさんの 言うことに 耳を すませていました。
みんな あのすてきな コートの がらが 気に なっていたのです。
つやつやの うらじや、 ネズミさん用の かたかけのことを、 みんなして ひそひそ。
そのときでした、 いっせいに みんな 動き出して、 ぬけ道を 通って かべうらへ。
ちゅうちゅう おたがいに 声かけあいながら、 おうちから おうちへ 走っていきます。
そうして シンプキンが、 牛にゅうの 入った びんを 持ってかえってくる ころには、 ふくやさんの 台どころには ネズミ 1ぴき のこっていません。
ドアを あけて とびこんできた シンプキンは、 「ぐーるーるー みゃう!」と うなっており、 まるで いきり立った ネコのよう。
だって 大の雪ぎらい、 耳のなかには 雪が 入るし、 首もとの えりにも 雪が つもりますし。
戸だなに パンと ソーセージを おくと、 あたりを くんくん。
「シンプキン、」と ふくやさん。
「たのんだ 糸は どうした?」
でも シンプキンは、 牛にゅうの びんを 戸だなに すえると、 ティーカップが おかしいと じろじろ ながめまして。
ごはんに ころころした ネズミが ほしいところだったのに。
「シンプキン、」と ふくやさん。
「わしの 糸は どうした?」
ところが シンプキンは ティーポットへ ひそかに こづつみを かくし、 ふくやさんに フーッ ゴロゴロと うなります。
もし シンプキンに ものが 言えたら、 こんな かんじでしょうか。
「ぼくの ねずみは どうした?」
「ああ、 しあがらん!」と グロスターの ふくやさんは しょげながらも ベッドへ。
それから ひとばんじゅう シンプキンは 台どころを さがしまわり、 戸だなのなかや ゆか下、 そして 糸を かくした ティーポットのなかなどを のぞきこみます。
でも それでも ネズミは 見あたりません!
ふくやさんが ねごとで ぶつぶつ ぼやくたびに、 シンプキンは 「みゃうー がるーるーるーうー しーしゅーっ!」と ネコが 夜 よくやるような、 へんな ぞくっとする なきかたを するのです。
それも そのはず、 かわいそうに、 そのふくやの おじいさんは ぐあいが ひどく わるく、 ねつも あって、 うなされ ベッドで もだえていたのですから。
ゆめのなかで ずっと うわごと ――「糸が 足りない! 糸が 足りない!」
その日は ずっと ねこんでしまい、 そして つぎの日も、 そのまた つぎの日も。
このままでは あのさくらんぼ色の コートは どうなってしまうのでしょう。
西門通りの ふくやさんの お店では、 ししゅうされた シルクと サテンの ぬのが さぎょう台に おかれたまま ―― 21ある ボタンあなも 手つかず ―― まども しまっていて、 ドアも かたく 戸じまりされていると あっては、 これでは だれも ぬのの ぬいあわせを することが できません!
でも それでも だいじょうぶなのが いたね、 そう、 茶ネズミさんたち。
かぎなんか なくても、 グロスターじゅうの おうちに 出入りできるのです!
おうちを 出て 市場へ ゆく人の むれ、 雪のなかを 足どり 重く、 ガチョウを 買いに 行ったり、 クリスマスの パイを 焼いてもらったり。
でも まったく クリスマスの ごちそうには ありつけない シンプキンと かわいそうな グロスターの ふくやの おじいさん。
ふくやさんは 3日3ばん ねこんでしまいました。
そうして やってきた クリスマスイヴ、 夜も たいへん ふけたころ。
月が やねや えんとつの はるか上に のぼって、 大学広場の 門がまえの あたりを 見下ろしています。
まどには あかりも なく、 どの おうちにも もの音 ひとつ ありません。
グロスターの 町じゅうが ぐっすり ねむっていました。
しかし むかし話と なれば、 クリスマスイヴの 夜から クリスマスの 朝に かけては、 どんな けものも おしゃべりできるもの(とはいえ その声を 聞いたり 言ってることが わかったり する人は ほんの少しも いないわけですけれども)。
教会の 大時計が 12回 なると ―― まるで こだまのように ―― こたえる声が あちこちから。
それを 耳にした シンプキンは、 ふくやさんの おうちから 外へ 出て、 雪のなかを うろうろ。グロスターの ありとある むかしながらの 木の おうちから、 クリスマスを よろこぶ それこそ 何千という おめでとうの 歌声が ひびきわたります ―― どこかで 聞いたことの ある なつかしい 歌が ほとんどですが、 わたくしも 聞いたことが ない 「ウィッティントンの ベル」といった 歌も あり。
だれより 早く 大声で オンドリが さけびます、 「おくさま、 起きて パイを お焼きなさい!」
「おー、 うきうきうき!」と ためいき まじりの シンプキン。
ただいま やねうらには あかりが ついていて、 ダンスを する もの音、 ネコたちも 通りの むこうから やってきます。
「へい、 おどる、 おどる、 ネコに フィドル! グロスターの ネコたち みんなで ―― ぼくだけ のけものに して。
」と シンプキン。
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