初級翻訳・ジェミイの冐険 第1話

ジェミイの冐険

むかし、ファネットの田舎に、ジェミイ・フリールという青年がお母さんと二人でくらしていました。
夫を亡くしたお母さんは、息子だけをたよりにしていました。
息子はその頼もしいうでで、お母さんのために一生けん命働き、毎週土曜日の夜になると、かせぎためたお金をお母さんの手にそっくり渡して、自分はたったの半ペニーのおこづかいをありがたくもらっていたのでした。
こんな親孝行な息子は、ひろい世間を探してもほかに二人とはいないと、近所の人たちからほめられていましたが、ほかにもジェミイのことをよく知っている人たちがいました。
それは、ふだんは目に見えない、五月祭の前夜かハロウィンの夜でなければ人間の目には見えない人たち、つまり妖精(ようせい)たちです。
ジェミイの家のすぐ近くに、くずれかけた古いお城があって、「小さい人たち」、すなわち妖精のすみかだと言われていました。
毎年ハロウィンの前夜になると、古い窓には明るくランプがともり、お城の中をあそびまわる妖精たちの小さなすがたが、道行く人にもよく見えて、パイプや笛の音も聞こえてきたのです。
それが妖精たちのえん会なのだとみんな知っていましたが、だれもその席に近づく勇気はありませんでした。
ジェミイは遠くから小さい人たちのすがたをながめ、美しい音楽を聞いて、お城の中はいったいどんなようすなのだろうと想像したりしていましたが、あるハロウィンの前夜、彼は帽子を手に取ってお母さんに言いました。
「お母さん、ぼくはいい運をさがしに、お城に行ってみます。」
お母さんはびっくりして、お城にはどんなこわいことがあるかもしれないからととめましたが、「大丈夫、すぐ帰ってくるから」と言って出かけました。
いも畑をつきぎると、もうそこに妖精のお城が見えました。
窓々にはあかあかとランプがともり、夜の林の木々にからみつく枯れ葉も、黄色く金色に見えていました。
木立のかげに立って、ジェミイが妖精たちの楽しそうなさわぎを聞いていると、笑い声や歌声が彼を中へと誘い込むのでした。
小人たちの中でいちばん大きいものでも五歳くらいの子供の大きさで、小さいみんなが笛や胡弓(こきゅう)の音に合わせておどっています。
おどっていない人たちは、飲んだり食べたりしていました。
小人たちは新しいお客を見つけると、みんなでこうよびました。
「ようこそ、ジェミイ・フリール! ようこそ、ようこそ!」
この「ようこそ」の声がまわりに伝わって、お城じゅうのみんなが「ようこそ」と声をかけ合ったのです。
しばらく時間がたって、ジェミイがいい気分になっていると、主人のような妖精が言いました。
「われわれは今夜、ダブリンまで遠乗りして、おじょうさんを一人さらってこようと思うんだ。いっしょに行かないか、ジェミイ・フリール?」
「うん、行くよ!」
数頭の馬が入り口に立っていて、そのうちの一頭に乗ると、馬はすうっと空中に飛び上がり、妖精たちの一隊といっしょに、もうすぐジェミイのお母さんの家の上をとびこえ、高い山や低い山もどんどん飛びこえ、深い湖もこえて、町や村の上をとんでいきました。
地上の人たちは、楽しいハロウィンのお祝いにかがり火でクルミを焼いたり、リンゴを食べたりしているところでした。
アイルランドの国じゅうをとびまわるのかとジェミイが思っていると、デリイの市にやってきました。
お寺の高い塔の上をこえるとき、「ここがデリイだよ」と一人の妖精が言うと、五十人もの小さな声が「デリイ、デリイ、デリイ!」とくりかえしてさけぶのでした。
とちゅうのどこの町に来ても、ジェミイはいちいちその名前を教えられ、やっとのことでダブリンに着くと、銀の鈴のような小さな声たちが「ダブリン、ダブリン、ダブリン!」と教えてくれました。
妖精たちのめあての家は、スティヴンスの丘のりっぱな住宅街の一つでした。
かれらが窓の近くで馬をおりると、窓のなかのりっぱなベッドでねむっている、美しい顔がジェミイに見えました。
妖精たちはおじょうさんをだいて外につれだし、そのかわりに一本の棒をベッドにおくと、それがおじょうさんのそっくりなすがたに変身しました。
一人の妖精がおじょうさんを自分の前にのせて少し行くと、またべつの妖精にわたし、行きとおなじように町々の名をよびながら馬を走らせます。
だんだん自分の家の近くまできたことがわかると、ジェミイは言いました。
「みんなが代わりばんこにおじょうさんを乗せているね、ぼくも、ちょっとでも乗せてあげたいな。」
「よろしいとも、お前もおじょうさんを乗せてあげな。」
妖精たちがきげんよくジェミイに言うので、ジェミイは大事なおじょうさんをしっかりかかえて、いきなり、お母さんの家の入り口にとびおりてしまいました。
「ジェミイ・フリール、ジェミイ・フリール、ずるいことをするな!」
妖精たちは怒って、みんなが一斉にとびおりてきました。
ジェミイはしっかりとおじょうさんをだいていました。
ここまで来る道すがら、妖精たちはいろんなすがたにおじょうさんを変えたので、ジェミイはいま自分が何をだいているのか、自分でもわかりません。
あるときは黒い犬になって噛みつこうとし、次の瞬間にはまっ赤に燃える鉄の棒になりましたが、不思議と少しも熱くはありませんでした。ジェミイが一生けん命におじょうさんをかかえていたので、妖精たちはあきらめて立ちさろうとしたとき、小人のなかの小さい女がさけんだ。
「ジェミイ・フリールはおじょうさんをとってしまったけど、いいことはないよ。
私は、おじょうさんをつんぼのおしにしてやる!」そういってかの女は何かをおじょうさんにふりかけた。
妖精たちは失望してさってしまうと、ジェミイは家のかけ金をはずしてはいった。
「まあ、ジェミイや、妖精たちはどうしたの?」母は心配したが、むすこはへいきだった。
「母さん、とても運がよかったよ。
母さんの話相手にこんなきれいなおじょうさんをつれてきた。」
母はおどろいて「まあ、まあ!」というだけだった。
ジェミイは今夜のできごとを話して、おじょうさんが妖精たちにつれて行かれて、まよい兒になってはかわいそうだから、助けてきたといった。
つんぼのおしのおじょうさんはうすいねまきで寒そうにふるえながら火のそばによっていた。
「かわいそうに、おとなしいきれいなおじょうさんだね! こんな貧ぼうな家でも、何かきせてあげるものはないかしら?」母はしばらく考えて、自分の寢部屋にいって、日曜日の教会ゆきにきる茶いろの外とうをだした。
それから別のひきだしから、白い靴下や、雪のようにまっ白いリンネルの上着と白いぼうしをだした。
おむかえぎといって長い前から用意された死衣しょうなのだが、母はおしげもなくそれをおじょうさんにきせると、おじょうさんはだまってきせられて、それからろのそばのこしかけにしずみこんで、両手で顏をかくしていた。
「あなたのようなりっぱなおじょうさんを、私たちが養ってゆけるかしら?」母は心配したが、ジェミイはその日から、お母さんとおじょうさんのためにむちゅうになって働いた。

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