初級翻訳・三枚の学生 第6話

三枚の学生

さあ、そこの呼び鈴を鳴らしてください!」

やってきた管理人バニスタは、私たちのただならぬ剣幕を見て、あからさまにびっくりして一歩あとじさった。
「どうか、扉をお閉めください」とホームズが言った。「さてバニスタ、昨日のあの出来事について、そろそろ本当のことをすべて話してくれないか」
管理人の顔から、さっと血の気が引いた。
「もうすべてお話しいたしましたでございますよ」
「それじゃあ、ほかに付け加えることは何もないんだね?」
「何もございません」
「ふむ。それなら、私からいくつか質問をさせてもらおう。昨日、君はあの椅子に腰を下ろしたね。そのとき、何か隠そうとしたんじゃないのか? この部屋にいた誰かの足跡が残っている、何か大切な証拠をね」
バニスタの顔には、生気がまったくなかった。
「めっそうもございません!」
「これはただの質問だよ」と、ホームズはどこまでも礼儀正しい口調で続けた。「実を言うと、私にもそれを確証するだけの証拠はない。だが、十分にありえることだ。なぜなら、ソウムズさんが背を向けたとたん、君は寝室に隠れていた男をこっそり逃がしてやったのだからね」
バニスタはカラカラに乾いた唇をペロリとなめた。
「だれも、おりませんでした」
「そんなことを言って、かわいそうなにバニスタ。素直に本当のことを打ち明けたほうが、君のためだったのに。君の嘘なんて、私たちにはすっかりお見通しなのだから」
男の顔には、意地でも隠し通してやるという強い決意の色が浮かんでいた。
「だれも、いませんでしたとも」
「それじゃあ、これ以上は何も話すつもりはないんだね。では、そのままそこに立っていてくれたまえ。そう、あそこの寝室の扉のそばにね。――さて、ソウムズさん。お願いがあるのですが、上の階にいるギルクリスト君の部屋へ行って、彼をここに連れてきてくれないでしょうか」

先生が部屋を出てから、ほんの少しの時間のあと、すぐにギルクリストを連れて戻ってきた。
彼は若々しく背が高く、体もしなやかで足取りも軽く、顔立ちは明るく晴れやかだった。
しかし、その青い目は不安げに私たち一人ひとりの顔をめぐり、部屋の隅にいるバニスタの姿を見とがめた瞬間、彼の顔色もまた、さっと青ざめた。
「さあ、扉をお閉めなさい」とホームズが言った。
「さて、ギルクリストくん。ここには私たち以外誰もいないし、ここで交わされた言葉が外に漏れることもない。お互いに包み隠すのはなしにしよう。私たちはどうしても知りたいんだ、ギルクリストくん。どうして君のような前途有望で誠実な青年が、あんな昨日のような過ちをしでかすに至ったのかをね」あわれ青年は立っていられなくなり、バニスタに恐れ、責めるような視線を投げかける。
「いえ、ギルクリストさま、わたくしめは一言も――何も申し上げてはおりません!」と使用人は声を張る。
「何も。今に至るまではね」とホームズ。
「さて、このバニスタの発言があっては、もうご自分に逃げ場はないとおわかりでしょう。残る道は、素直に白状するしかないということも」

少しのあいだ、ギルクリストは手を上げて、苦悶の顔を元に戻そうとした。
しかし次の瞬間には机のわきに身を投げ出し、膝をついて、顔を両手に埋めながら、堰を切ったように嗚咽し始める。
「よしたまえ」とホームズの優しげな声。
「人は過つもの、少なくとも君を人でなしの罪人と責め立てる者はここにいない。僕からソウムズさんに事の次第を話した方が、君は気が楽かもしれない。僕が間違っていたら口を挟んでくれればいい。それでよろしいかな? よし、よし、答えるまでもない。聞いてなさい、悪いようにはしない。

あのときより――ソウムズさん、あなたが僕に、『問題がこの部屋にあるとは誰も、バニスタでさえもわかったはずがない』とおっしゃってはじめて、この事件が僕の頭のなかではっきりとした形を取り始めたのです。
もちろん印刷屋は論外です。目を通るのなら自分の店でやればいい。インド人も考えなくていい。校正刷りが巻いてあったのなら、おそらく何かわからなかったはずです。
他方で、ある人物があろうことか部屋に立ち入ってしまい、そしてその日に限ってたまたま問題が机の上にあった、こんな偶然も考えられない。よって論外です。
立ち入った人物は、そこに問題があると知っていた。どうしてわかったか。
僕はこの部屋に近づいて、窓を調べた。そのときあなたは愉快な勘違いをなさった。白昼、向かいの部屋の目があるなか、堂々と窓から押し入った、と僕が考えているとでも思ったのですね。そんな馬鹿々々しい。
僕は測っていたのです、通りがかった際、中央の机にある紙が何かわかるためには、どれだけの背丈があればいいのかと。
六フィートの僕がやっとできる程度、それ以下では無理も無理。
もうおわかりでしょう、こう考えられるのです、三人の学生のうちの一等背の高い者、その人物こそ三人のうち最も目をつけてしかるべき相手だと。

部屋に入った僕は、窓際の小机について思うことをお話しました。中央の机について何かわかりだしたのは、あなたがギルクリストに触れて、幅跳びの選手だと述べてからです。そこで全容がぱっと見えてきて、あとは確証となるものがあればよいから、さっとつかんだわけです。
事の次第はこう――この青年は午後を運動場で過ごし、そこで幅跳びの練習をした。帰るときには競技用の靴を持っていたわけだが、ご存じの通り靴底には尖った金具がいくつか備わっている。
そしてこの部屋の窓を通りがかった際、背が高いために机の上の校正刷りが目に入り、何であるか思い当たった。
そうでなければ問題は起こらなかったのだが、部屋の扉の横を通るときに、使用人の不注意で鍵が挿さったままになっていると気がついた。
ふと出来心に襲われる。なかに入って本当に校正刷りか確かめろと。その行いに危険はない。質問しようとのぞいてみた、そんなふうにいつでも誤魔化せる。
さて、確かにそれが校正刷りそのものとわかったその刹那。彼は誘惑に屈した。靴を机の上に置き、そのあと窓際のあの椅子に何かを置いた、何だ?」

「手袋です」と青年が言う。
ホームズはバニスタにすべてが決したと目で伝える。
「青年は手袋を椅子に置き、校正刷りを一枚ずつ手にとって写し始める。当人の考えでは、講師は正面玄関から戻ってくるから、姿が見えるはずだった。
ところがご承知の通り、勝手口から帰ってきた。いきなり扉そのものから物音がしたのだ。もう逃げられない。手袋は忘れたが、靴をつかんで寝室へ駆け込む。
お気づきになった机の傷、一方が浅く、寝室の方向に深くなっていましたね。至極判然、靴がその方向へ引かれ、犯人はそこへ隠れたのです。靴底の金具についていた土が机の上に残され、また一度こぼれて寝室に落ちる。
さらに付け加えるなら、今朝僕は運動場へ出向いて、黒い泥が幅跳びに使う着地場に使われていると確かめ、標本を、選手の滑り止めにまかれた皮殻・大鋸屑とともに取り上げました。
僕の話に間違いはないか、ギルクリストくん?」

その学生は背筋を伸ばしていた。
「はい、その通りです」
「なんですと! 何か言うことは?」とソウムズの大声。

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