「大丈夫に決まっておりますとも! ちょうどたった今、すべての準備がすっかり整いました!」「ですから、この夕日を浴びながら、輝かしい人造人間戦車隊の進撃をご命令いただこうと思って、実はただいまここへ参ったようなわけでして……」
と、油学士は急に慎ましそうな態度になり、醤主席にペコペコとお辞儀をしたのであった。
5
いよいよ戦うチャンスがやってきました。
全身にヘンテコな白いタトゥーを入れた先住民族の兵士たちは、手に手に盾をグッと引き寄せ、槍を高くかかげ、何重もの包囲の陣を作りながら、海岸に押し寄せる激しい大波のように、醤の陣営めがけて攻め込んできました。
これに対して、醤の陣営は、シーンと静まりかえっていました。
ただ、かの醤の陣営の目印である高い見張り台の上には、大きな旗がパタパタと勢いよく翻(ひるがえ)っていました。
その旗の下には見晴らしのいい特等席があって、醤主席は側近たちを後ろに従え、口を「へ」の字にきゅっと結んでいました。
この見張り台の前には、100万もの数にのぼる人造人間たちが森のようにズラリと立ち並んでおり、その見張り台の後ろには、生きた赤い血の通った醤軍の100万の兵士たちが、まるで大リーグの野球観戦にやってきた観客のようなノリで、ぎっしり詰めかけていました。
雲霞(うんか)のように押し寄せる先住民族の軍勢は、ついに前方5キロメートル先にある丘の上に姿を現しました。
「おい、油学士。
もう人造人間をくり出してもいいだろう」
「はい。
ただいま、命令を出します!」
命令が下されました。
人造人間部隊は、さっそく一斉に手足を動かして、前進を始めました。
冷たい灰白色の体が夕日を浴びて、キラキラとまぶしく輝いています。
この人造人間はよくできたエンジンで動いているので、怪奇現象なんかではありません。
人造人間部隊がしっかりと隊列を組んで向かってきたので、先住民族の軍勢は、さすがに少し動揺を見せました。
ですが、先頭に立つ勇気バツグンの酋長は、槍を一段と高く振り回して、部下たちを元気付けました。
人造人間部隊は、乱れることなくしっかり隊列を組んで進んでいきます。
その様子は、まるでおそろいのアバカス(そろばんの玉)がきれいに並んでいるかのようでした。
「おい、油学士。
もう始めてもよかろう。
わしは早くそれを見たいぞ。
見て、まず安心したいのだ」
「はい!
それでは、スイッチを入れましょう。
まず最初のスイッチで、人造人間たちがバラバラと寄り集まり、見事なスクラムを組んで戦車へと変身します」
「早くやれ!」
「では――」
スイッチがカチッと入りました。
人造人間部隊は、その瞬間にサッと大きくどよめきました。
ガチャガチャ、ガチャン――と、まるで長い貨物列車の後ろから機関車がドンとぶつかったような音がしました。
すると、どうでしょう! なんという見事な光景でしょう。人造人間たちは我れ先にと体を折り曲げて車輪になるかと思えば、4〜5人が横になって頑丈な鉄板へと姿を変えていきます。
それがたちまちのうちに折り重なり、びっくりするほど立派な戦車へと組み上がったのです。
なんと、1万台もの「人造人間戦車隊」の誕生です!
「うおーむ……」
さすがの醤主席も、これには相当びっくりした様子です。
「それでは、この辺りでいよいよ2番目のスイッチを入れ、その人造人間戦車に全速力での進撃を命令し、敵をメチャクチャに踏み潰させます。
よろしいでしょうか?」
醤主席は、まだ驚きすぎて喉から声が出なかったので、ただ黙ってうなずきました。
「では、ただいま2番目のスイッチを入れます。
それっ!」
威勢のいい掛け声とともに、2番目のスイッチが入りました。
すると、1万台の人造人間戦車は、その瞬間にブルンと大きく1回揺れました。
そして、ものすごい勢いで「ガラガラガラガラ!」と猛スピードで走り出したのです。
ただし、先住民族の軍勢に向かって前進するのではなく、何をどう間違えたのか、あべこべに**醤軍の陣営に向かって**、全速力で後退を始めたではありませんか!
「ひゃあーっ!」
それはほんの一瞬の出来事――まるで悪夢のようでした。
1万台の人造人間戦車は、電光石火のスピードであっという間に、醤主席をはじめとする全軍の兵士ひとりのこらず、平等にその鋼鉄の車体の下へとペチャンコに踏み潰してしまいました。
そしてそのまま勢いを止めず、猛スピードで走り続け、やがてそこから300キロ先的海の中へと、盛大に水しぶきをあげてボチャンと飛び込んでしまったのです。
あまりにもあっけない、そして予想外の勝利に、先住民族の酋長は、その日を境に「自分は神様が生まれ変わった姿なのだ」と本気で信じ込むようになったということです。
いったい、どこでこんな大失敗が起きたのでしょうか?
この出来事について、のちに金博士はこの噂を聞きつけ、静かにこう語ったそうです。
「あいつらはどいつもこいつも大馬鹿者じゃよ。
渦巻く気流というものは、北半球と南半球とでは、回転する向きがアベコべになるんだ。
あの設計図に描かれているのは、北半球用のエンジンなのだよ。
南半球で使うときは、中のコイルをアべコべに巻き直さなければ、前に進むべきものが後ろに下がってしまうのさ。
あの油学士のやつに、『組み立てるときは必ず私に知らせろよ』とあれほど言い聞かせておいたのに、あいつめ、自分ひとりの手柄にしようと隠していたから、こんなとんでもない間違いを引き起こしちまったんだ。
まったく惜しいことをしたもんだ。
たった一言、『これは南半球で実験するのです』と教えてくれればよかったものを……。
まあ、それも、悪事を重ねてきた醤や油の、運命(カルマ)ってやつだろうよ」
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