初級翻訳・塩原多助一代記 第37話

塩原多助一代記

丹治はそれを間一髪でかわし、懐へ飛び込んで仁助の刀をねじり取ると、
丹治「邪魔をするな!」
そう叫んで、力任せに切りつけました。天命でしょうか、仁助はその場で斬り倒されました。それを見た小平は「たまらない」と庭の方へバラバラと逃げ出し、丹治はその後を追いかけていきました。その間におかめは盗賊だと察し、怖い気持ちを抑えて一生懸命に赤ん坊を抱え、表の方へ逃げ出しました。その跡をおかくが追いかけ、谷川の縁にある細い道で、木の根に足を取られて転んだおかめの髪の毛を掴んで引きずり倒しました。

おかく「このアマめ! ええ、何を騒いでいるんだ、この野郎! 金を渡してしまいな!」
おかめ「親子で結託して、私の荷物を盗もうというのね!」
おかく「最初からお前の身ぐるみを剥ぐつもりだよ。丹治はもう殺してしまったからね……どうせお前が金を持っているに決まっているんだ、さっさとよこしな!」

おかくがそう言って金を取りにかかると、おかめは渡すまいと必死に争いました。

おかめ「人殺し! 人殺し!」

おかめがそう叫び立てると、赤ん坊がオギャア、オギャアと泣き出しました。その拍子におかめは思わず赤ん坊に気を取られ、うっかり落としてしまった紺縮緬(こんちりめん)の胴巻きを見て、おかくは「金だな!」と言いながら拾おうとしました。おかめは渡すまいと互いに力を振り絞って引っ張り合ううちに、胴巻きが裂けて中身がドッシリと落ち、封が切れて黄金の花が辺り一面に散らばりました。

そこへ、小平を追いかけていた丹治が戻ってきて、この悲惨な光景を目の当たりにしました。丹治は小平を追うのをやめ、突然おかく婆に一刀を浴びせかけました。おかくは「キャッ!」と声を上げて倒れました。丹治がその上に乗っかかって喉元を切り裂いている背後から、小平がそっと忍び寄りました。小平は胴金造りの長い刀を抜き放ち、丹治の脇腹を目掛けて、うーんと力任せに深く突き刺しました。丹治は「ウン!」とそっくり返って身を震わせましたが、小平に足を踏みつけられ、そのまま息絶えてしまいました。

悪事の報いとはいえ、継立の仁助とおかくの二人は丹治のために殺され、その丹治は小平のために殺されるという、悪人同士が互いに修羅の責め苦に遭うとは、実に恐ろしいことでございます。

おかめは、今まさに原丹治が殺されるのを見て、逃げる気力も失い、

おかめ「あれー、人殺し! 誰か助けてください!」

と叫びながら小平の足にすがりつきましたが、小平は「ええ、邪魔をするな!」と言って足を振り上げ、思い切り蹴り飛ばしました。

蹴られたおかめは「アッ」という声とともに、恐ろしいほど削り立った二三丈(約6〜9メートル)もある崖の下を流れる吾妻川の中へ、乳児を抱いたままゴロゴロと転げ落ち、生死も分からなくなってしまいました。

小平は刀の血を死骸の着物で拭って鞘に納めると、暗闇の中でもピカピカと光る黄金を頼りに掻き集め、手当たり次第に手ぬぐいに包んだり袂に入れたりしました。そして、丹治の死骸を川の中へ蹴落としました。また、悪党とはいえ親子の情でしょうか、おかくの死骸を庵室の庭へ引きずっていき、深く穴を掘って仁助の死骸と一緒に埋めました。こうして道連れの小平は、奪った金を持ってどこかへ逃げ去ってしまいました。

話は変わって、山口屋善右衛門の家では、多助が毎日いろいろな物を拾い集めては、粗末にならないように大切に貯めておりました。こうしてその年も暮れ、翌年になりましたある日のこと、番頭の和平が主人に言いました。
「旦那様、納屋で使う藁草履(わらぞうり)を、どうか新しく買っていただきたいのですが」
善右衛門が「そうか、もう残らず切れてしまったのかえ」と尋ねると、
和平は答えました。「ええ、歩き回ることも多いですし、特にこの頃は働き者が多いので、鼻緒が切れるとすぐに川の中へ投げ込んでしまうので困っております。たくさん必要になりますから、どうか多めに買っていただくのが、お店のためにもよろしいかと存じます。百足ほどお買い求めください」
「そうかい、それじゃあ入るだけ買いなさい」
二人がそう話しているのを、そばで多助が聞いておりました。
「番頭さん、番頭さん」
「多助かえ、なんだ」
「今のお話を聞いていましたら、藁草履がお入用だそうですね」
「ああ、入用だよ」
「それなら、私が買っていただくことにしましょうか」
善右衛門が驚いて「お前、藁草履を持っているのかえ?」と聞くと、
「はい、少しばかりですが貯めておりました」
「そうか。大した数ではないだろうが、貯まっている分は買い取ってやろう」
「どうかお買い上げください。藁草履は一足いくらになりますか?」
「そうだな、一足十二文(もん)だな」
多助は言いました。「十二文ですね。河岸(かし)で荷揚げをする職人さんや、家の者が履くので、平均して一日に三十足はなくなります。みんな鼻緒が切れると桟橋から川へ投げ込んでしまうので、私は竹の先に釘を打った道具を作り、それを川から引き上げておいたんです。毎晩私が鼻緒を付け直し、ギュッと真ん中を締め直しました。一度水に浸かったものは、かえって前より丈夫になっているんですよ」
「感心なものだなあ。どうだ、番頭」
多助は続けました。「番頭さん、貴方は算盤(そろばん)を弾いて店を預かるお方ですから聞きますが、一日に十二文の草履が五足でいくらになります?」
「ちょうど六十文になるな」
「そうですね。六十文あれば年間のこととなると大変な額になりますが、一ヶ月ではいくらになりますか?」
そう言われて番頭が算盤を取ると、
「ええ、そうだな。一日に五足ずつで、一ヶ月に百五十足になる」
「その金額はいくらになりますか?」
「ええと、一貫八百七十二文だ」
「では、一年では何足になりますか?」
「うるさいのう。計算すると、千八百足になる」
「その金額はいくらだい?」
「うるさいなあ。計算すると、金三両一分二朱と五百六十文になる」
「計算は間違っていませんか?」
「知れたことよ」
「それでは、十年ではいくらになりますか?」
「うるさいのう……ええ、計算すると……おや、旦那様、大変な数ですよ。一万八千足になります」
「その金額は?」
「うるさいなあ。ええと……これはすごい金額ですな。金三十四両二分と七百四十八文になります。旦那様、とんでもない額です。塵も積もれば山となると言いますが、十年でこれほどになるとは」
「はあ、三十四両二分と七百四十八文あれば、国へ帰って家を建てる足しになりますね」
善右衛門が「持ってきなさい。そんなにたくさんあるまい、百足も貯まったか?」と言うと、多助は納屋から横庭へ運んで、山のように積み上げました。
「一昨年からで随分貯まりました」
「大変貯めたなあ。何足あるんだ?」
「二年貯めましたから数えてはいませんが、三千足はあるでしょう」
「これは驚いた。どうだ番頭、感心なものだなあ」
「驚きましたな。家でも草履の消費は大変なものですから」
善右衛門は言いました。「よし、それだけは新しい草履を買ったつもりで、お前のその丹誠(たんせい)を買い取ってやろう。だが金は私が預かっておこう。これから手帳を作って、一つ一つ記録しておこう。

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