初級翻訳・妖怪博士 第24話

妖怪博士

それを新聞記者たちにジャマをされてしまったものだから……」
明智探偵は、刑事たちをせめることもせず、まるで自分の手落ちであったかのように、とてもくやしそうにするのでした。

「いえ、ぼくこそ、なんとも申しわけない大失敗でした。
すぐに町じゅうに非常線をはって、草の根をかきわけてでも、あの野郎をかならず引っりとらえてみせます!」
中村係長は、自分の部下たちのせきにんを背負いこむようにして、申しわけなさそうに言いました。

「ですが、おそらくそれはムダ足に終わるでしょう。
中村くん、あなたはあの犯人の正体を、いったい何者だと思っているのですか?」
「何者と言われても、あの殿村探偵に化けていた蛭田博士にちがいないでしょう?」
係長は、きょとんとした顔で明智の顔を見つめながら答えました。

「ところが、その仮面の下には、もうひとり別の、とてつもなく恐ろしいやつがかくれているのですよ。
もしあれがただの殿村や蛭田博士だとしたら、たとえとり逃したところで、それほどくやしがる必要もありません。
いっしょに誘拐された子どもたちも、大切な機密文書も、すでに無事に取りもどしたのですからね。
ですが、『殿村』というのも『蛭田博士』というのも、やつがまとっている『かりの姿』にすぎないのです。
あいつはそんな、中途半端なやさしい悪党なんかじゃありません」

「エッ、なんですって!? じゃあ、あいつはまだほかに、とんでもない大罪を犯しているとおっしゃるのですか?」
「中村くん、こんだの事件には、どうにもつじつまの合わないおかしな点があることに、あなたは気づいているでしょう?
殿村だってそれを唯一の武器にしてぼくに食ってかかってきましたが、なぜ犯人は、『犯人自身の罪をあばくようなまね』をしたのでしょうか。
蛭田博士がわざわざ殿村に化けて、せっかくかくしておいたはずの子どもたちや、機密文書のありかを、わざわざわたしたちに発見してみせたのはなぜでしょう。
このなぞをどう解きあかせばいいか。
答えはただ一つです。
あいつは、『復讐(ふくしゅう)』をしたかったのです」

「エッ、復讐ですって!? いったい何のうらみがあって、だれに対して復讐したいというのですか?」
明智のあまりに意外な言葉に、中村係長はびっくり仰天して、思わずきき返しました。
「ぼくたちに対してです。
ぼくと、あの『少年探偵団』に対してです」
「エッ、少年探偵団に……!」
「そうです。
少年探偵団のことはあなたももちろんごぞんじでしょうが、よく考えてごらんなさい。
あの蛭田博士に誘拐された四人の少年は、のこらず少年探偵団のの中心でがんばっている有力な団員たちではありませんか」

「ああ、そう言われれば! それはぼくも知らなかったわけではないですが、しかし……」
「あいつは、もう自分の目的をとっくに果たしてしまったのです。
目的を果たしたからこそ、子どもたちをわたしたちの手に返してよこす気になったのですよ。
その目的とはいったい何だったかといえば、『あの子どもたちを思うぞんぶん苦しめること』でした。
あいつは蛭田博士という不気味な怪人物に化けて、子どもたちをわなにおとしめ、さんざん怖がらせ、いじめぬいたのです。
それであいつの復讐の目的は、じゅうぶん果たされたわけなんですよ」

「しかし、あの機密文書のことはどうなります?」
「あれも、少年探偵団をこらしめるための、ひとつの手段にすぎません。
団員の少年だけでなく、その家族まるごと苦しめて、『ざまあみろ!』と言いたかったのです。
ちょうど相川泰二くんの家には、技師長のお父さんにとって命にかえても惜しくないほど重要な書類が保管されていたから、『しめた!』とばかりにそれを盗み出させて、相川の一家をどん底の不幸におとしいれたのです。
もしほかの少年たちの家にも、あんなふうにたいせつな品物があったなら、きっと同じように盗み出していたにちがいありません。
ただ、運のいいことに、ほかの家にはそんな重大な品物がなかったというだけのことです」

「すると、あの機密文書は、外国のスパイに売りわたすために盗んだのではなかったのですか?」
「そうですとも。もしも本当にお金をもうけることが目的なら、わざわざ自分で自分がかくした場所をバラしたりするわけがありません。
あいつは新聞などで、おそるべきスパイだとか、国賊だとか言われていましたが、それだけは全くのぬれぎぬ、無実の罪なのです。

「すると、犯人はただ少年探偵団の子どもたちをいじめたいがために、あんなことをしたとおっしゃるのですね。
しかし、それならば、なにも危険をおかしてまでほかの探偵に化けたりして、子どものかくし場所をばらしたりする必要はないじゃありませんか。
あのまま放っておけば、子どもたちはもっと長く苦しむわけですからね」

「ところが、そうしていられない事情が起こったのです」

「といいますと?」

「ぼくがこの事件の探偵を引き受けたことが、あいつにわかったからです。
あいつはぼくの実力をよく知っています。
ぼくが事件を引き受けたからには、そう遠くないうちに蛭田博士のかくれ家が発見され、子どもたちもとりもどされるかもしれないと考えたのです。
あいつは、相川くんたち四人だけでなく、少年探偵団員ぜんぶを同じようなひどいめにあわせようと考えていたらしかったのです。
ところが、ぼくがこの事件に関係したせいで、にわかに蛭田博士のまわりがあやしくなってきたものだから、ほかの少年たちを誘拐することはあきらめて、そのかわりに、こんどはぼく自身にむかって復讐しようとしたのです。
しかし、いくらあいつでも、まさかぼくを誘拐することはできません。でも、そんな物騒なことをしなくても、ぼくを苦しめる手段はちゃんともっているのです。
ぼくは探偵業を命として生きている人間です。
そして、名探偵とかなんとか世間から言われている人間です。
そのぼくが、もしほかの私立探偵と競争して、むざむざ敗北したとしたら、これほど痛快な復讐(ふくしゅう)はないじゃありませんか。
ぼくの探偵としての名声はその日から地に落ち、そのべつの探偵がかわって名探偵の名をほしいままにするわけですからね。
ぼくにとって、これほどつらいことはありません。
あいつはそこに気がついたのです。
そして、あんなせむしの探偵に化けて、ぼくに競争をしかけ、ぼくの鼻をあかそうとたくらんだのです。
自分でかくしておいたものを、自分でさがしだしてみせるのですから、こんなにたやすいことはありません。
あいつは、確実にぼくをうち負かすことができるのです。
子どもたちをさんざんいじめて目的を果たしたあと、今度はその子どもたちのかくし場所を利用して、ぼくをいじめようというわけです。
なんと、うまく考えたものでしょう!
もしぼくが、何の心構えもなしに、あいつに立ちむかったとしたら、まんまと敵の思うつぼにはまっていたかもしれません。
ところがぼくには、小林くんという、リスのようにすばしっこい自慢の助手がいあたのです。

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