初級翻訳・妖怪博士 第41話

妖怪博士

きみたちがこの鍾乳洞(しょうにゅうどう)を探検しようと思い立ったのは、そこにいる桂(かつら)くんと篠崎(しのざき)くんが、熱心にすすめたからだろう。
ところで、そのふたりに、このほら穴のことをいかにもおもしろそうに話して聞かせた同級生がいるんだ。
そして、ふたりをすっかり夢中にさせてしまったのさ。
その同級生にそんな話をさせたのは、ほかでもない、このおれだったんだよ。
わかったかね。
ハハハ……。
きみたちはやおれの計略に乗っかって、のこのここの鍾乳洞へやってきた。
そして、なまいきにも案内のじいさんを断って、道しるべのひもをたよりに、迷路の中へ踏みこんだ。
どうだね、おれは何もかも知っているだろう。
あのひもを切ったのもおれだ。
そこの穴の上にあった板の橋を片づけたのもおれだ。
そうしておいて、こういう怪物に変装して、きみたちを思うぞんぶん怖がらせたというわけさ。
ハハハ……、おれにとって、こんなに楽しいことはないね。
きみたちは、これまでにも何度かおれの邪魔をしてくれたからな。
いつか絶対に仕返しをしてやりたいと思っていたが、その念願をやっとはたせたというわけさ。
この大コウモリが姿をあらわしたときのみんなの驚きようといったら、そりゃあすごかったぜ。
ハハハ……、少年探偵団なんてなまいきな口をきいていたって、本物のお化けを目の前にしたらすっかり腰を抜かしてしまうじゃないか。
おれは胸がスーッとしたよ。
ハハハ……だがね、まだ安心するのは早すぎるぜ。
おれの復讐(ふくしゅう)はこれで終わりじゃないんだ。
こんな子どもだましのいたずらぐらいで満足するおれじゃない。
本当の復讐は、これから始まるのさ。
ウフフ……こわいかね。
きみたちはもう一生涯、このほら穴の外に出ることはできないんだよ。
それが、おれからの本当の復讐なのさ。
いいかね、きみたちは道しるべのひもをなくしてしまったから、この暗やみの迷路の中で、完全に迷子になってしまったんだ。
そのうえ、そこの大きな穴はどんなことをしても飛び越えられないから、もとの道へもどることも絶対にできない。
十日たっても、二十日たっても、きみたちはただクモの巣のような迷路をうろつきまわるばかりだ。
そのうちには懐中電灯の電池も切れてしまうだろう。
いや、それよりも何よりも、おなかがペコペコに減ってくる。
飢えと渇きに悲鳴をあげながら、だんだんと力がなくなっていくのさ。
そして、きみたち十一人全員が、この暗やみのほら穴の中で、悲惨な最期を迎えることになるんだよ。
東京からだれかが助けに来てくれるって?
フフフ……そいつは無理だな。
この大コウモリの化け物が途中で待ちかまえていて、助けに来る人間をみんな追い払ってしまうからな。
フフフ……」

こんなふうに聞いていると、人間の姿をした二十面相がそのまましゃべっているように思えるかもしれませんが、もちろんそうではありません。
大きなコウモリが、白い牙の生えたまっ赤な口を大きく開き、地の底から響いてくるような、不気味なおそろしい声でしゃべっているのです。
まわりは墨を流したような真っ暗やみです。
その暗やみの中で、映画の大写しのように、懐中電灯の光に照らされた不気味な大コウモリの顔だけがぽっかりと浮かび上がり、それが陰気な声でものを語っているのです。
たとえ相手の正体が二十面相だとわかっていても、その気味の悪さは尋常ではありません。
「いや、それだけじゃない。
おれの計画には、まだその先があるのさ。
ほかでもない、きみたちの先生である明智小五郎(あけちこごろう)のことだ。
おれはあいつをもここへおびきよせて、きみたちと同じめにあわせてやるつもりなのさ。
いいかね、きみたちがここから帰らなければ、東京では大騒ぎになる。
警察官もやってくるだろうが、弟子思いの明智小五郎なら、まちがいなくまっ先にここへ、きみたちを探しにやってくるにきまっている。
おれはそれを待ちかまえていて、明智をも、きみたちと同じめにあわせてやるのさ。
この暗やみのほら穴の中で、ひっそりと飢え死にさせてやるんだ。おれは血を見るのがきらいだ。
人殺しをしたことはない。
だが、明智やきみたちが、この洞くつの道にまよって、かってに餓死するのは、おれの知ったことじゃないからね。
二十面相のじゃまだてをしたきみたちの自業自得というものだよ。
ハハハ……。
」
大コウモリの二十面相は、とどめをさすように、おそろしい計画を打ちあけて、さも心地よげにあざけり笑うのです。
すると、その声が洞くつにこだまして、まるで大ぜいの人が、あちらでもこちらでも、笑っているように、だんだんかすかになりながら、いつまでもつづいているのでした。

猟師と名探偵

お話はとんで、その翌々日のお昼ごろのことです。
鍾乳洞の近くの、例の老猟師の家を、ひとりの紳士がたずねてきました。
鳥打ち帽に旅行服姿の名探偵、明智小五郎です。
少年探偵団員たちが、出発の翌日、日が暮れても帰らなかったものですから、おとうさまや、おかあさまたちは、たいへんご心配になって、明智探偵にご相談なすったのです。そのため探偵は、夜の明けるのを待ちかねて、警官よりも早く、ひとりで鍾乳洞へ出かけたのです。
十一人の団員のおとう사ま(父)たちにかわって、少年たちのゆくえを捜索するためです。

老猟師の家をたずねますと、ちょうどおりよく例のモンペ姿の老人が居あわせて、駄菓子などのならべてある店先へ出てきました。
「鍾乳洞のご見物ですか。」
老人は、少年たちが洞内へとじこめられたことも知らぬとみえて、のんきにたずねました。
「いや、見物じゃないのです。あんたは鍾乳洞の案内人ですか。」
「はい、そうでがすよ。」
「ぼくは東京の明智というのですが、おとといここへ、中学生や小学生などの、十一人づれの子どもたちが見物に来たはずだが、あんたは見かけなかったかね。」
明智探偵がそういって、名刺を出しますと、じいさんは字が読めないらしく、それを見ようともしないで答えました。
「はい、大ぜい来ましただ。それがどうかしたですか。」
「その子どもたちは、鍾乳洞の中へはいったのだろうね。」
「はいりましたとも。案内人はいらねえといって元気ではいっていきましただ。」
「で、あんたはその子どもたちが鍾乳洞から出てくるのを見たかね。」
「いンや、それは見ねえでがす。ふもとに用があって、山をくだっていたでね。だが、見ねえでも、あの少年たちが帰ったのは、まちがいねえですよ。まさか、鍾乳洞の中で寝泊まりもしますめえ。ワハハハ……。」
「ところが、あの子どもたちが、けさになっても、東京へ帰らないのだよ。ここへ来る道でも、駅員や自動車の運転手などにもたずねてみたが、だれも子どもたちが帰るのを、見かけなかったというのだ。だから、ひょっとすると、鍾乳洞の中で、道にまよって出られなくなっているのじゃないかと心配しているのだが……。」
「ヘーン、帰らなかったって? そいつは奇態だ。わしは、十六年というもの、ここの案内人をやってるだが、道にまよって出られなくなったなんて、聞いたこともねえでがす。あの少年たち、元気にまかせて、深っ入りしたんじゃあんめえかな。

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