初級翻訳・少年探偵団 第24話

少年探偵団

」

手のひらに書かれた予告の数字に、主人の大鳥氏はすっかり怯えてしまいました。
賊は黄金塔の部屋へ何食わぬ顔でしのびこんだだけでなく、眠っている主人の手のひらに筆で文字を書き残していったのです。

板戸と非常ベルの二つの関所は、まったく役に立ちませんでした。
この調子では、第三の関所もうっかり信用することはできません。
魔術師・二十面相にかかれば、どんな科学の力も効き目を発揮しないのかもしれません。
二十面相は、まるで気体のようにフワフワしたお化けのようなものに変身しているとしか考えられないのですから。

大鳥氏はあれこれと考え込みながら、黄金塔の前に座り続けました。
一刻も目を離す気になれないのです。
目を離せば、たちまち消え失せてしまうような気がするからでした。

さて、その日のお昼すぎのことです。
大鳥時計店の支配人である門野老人が、何か大きな風呂敷包みを抱えて、店員たちの目を盗むようにして、奥の間は大鳥氏のところへやってきました。門野支配人は、昔ふうにいえば、この店の大番頭で、おとうさんの代から二代つづいて番頭をつとめているという、大鳥家の家族同様の人物ですから、したがって主人の信用もひじょうにあつく、この人だけには板戸の合いかぎもあずけ、そのほかの防備装置のとりあつかい方も知らせてあるのです。
ですから、支配人は、いつでも自由に奥座敷にはいることができます。
畳の非常ベルのしかけも、柱のかくしボタンをおして、電流を切ってしまえば、いくら部屋の中を歩いても、少しも物音はしないのです。
門野支配人は、そうしていくども板戸を出たりはいったりして、人目をしのびながら、まず一番に、一メートルもある細長いふろしき包みを、それから形は小さいけれど、たいへん重そうなふろしき包みを五つ、つぎつぎと座敷の中へ運びいれました。
「おい、おい、門野君、きみはいったい何を持ちこんできたんだね。
商売の話なら、べつの部屋にしてほしいんだが。」
主人の大鳥氏は、支配人のみょうなしぐさを、あっけにとられてながめていましたが、たまりかねたように、こう声をかけました。
すると、支配人は、板戸をしめきって、主人のそばへ、いざりよりながら、声をひそめてささやくのです。
「いや、商談ではございません。
だんなさま、おわすれになりましたか、ほら、わたくしが、四日ほどまえに申しあげたことを」
「え? 四日まえだって、ああ、そうか。
黄金塔の替え玉の話だったね。」
「そうですよ。
だんなさま、もうこうなっては、あのほかに手はございませんよ。
賊は、やすやすとこの部屋へ、はいってまいったじゃございませんか。
せっかくの防備装置も、なんのききめもありません。
このうえは、わたくしの考えを実行するほかに、盗難をふせぐ手だてはありません。
相手が魔法使いなら、こちらも魔法を使うまででございますよ。」
支配人は、しらが頭をふりたてて、いっそう声をひくめるのです。
「ウン、今になってみると、きみの考えにしたがっておけばよかったと思うが、しかし、もう手おくれだ。
これから黄金の塔の替え玉をつくるなんて、むりだからね。」
「いや、だんなさま、ご心配ご無用です。
わたくしは、まんいちのばあいを考えまして、あのときすぐ細工人のほうへ注文をしておきましたのですが、それが、ただ今できあがってまいりました。
これがその替え玉でございますよ。」
支配人は、ほこらしげに、重そうな五つのふろしき包みを指さしてみせました。
「ほう、そいつは手まわしがよかったね。
だが、その細工人から賊のほうへもれるようなことは……。」
「大じょうぶ。
そこはじゅうぶん念をおして、かたく秘密を守らせることにいたしてあります。」
「それじゃ、ひとつ替え玉というものを見せてもらおうか。」
「よろしゅうございます。
しかし、もし家の中に賊のまわし者がおりましてはたいへんでございますから、念には念をいれまして……。」
支配人はいいながら、立ちあがって、板戸をひらき、外にだれもいないことをたしかめると、げんじゅうに内がわからかぎをかけるのでした。
そして、主人とふたりがかりで、五つのふろしきをとき、一階ずつに分解された五重の塔をとりだしました。
見れば、床の間に安置してあるものと寸分ちがわない五重の塔が、五つにわかれて、さんぜんとかがやいているのです。
「ウーム、よく似せたものだね。
これじゃ、わしにも見分けがつかぬくらいだ。」
「でございましょう。
外はしんちゅう板で作らせ、それに金めっきをさせました。
中身は、重さをつくるために鉛にいたしました。
これで、光沢といい、重さといい、ほんものと少しもちがいはいたしません。」
支配人はとくとくとして申します。
「それで、ほんものを床下にうずめ、にせもののほうを、床の間に飾っておくという、はかりごとだったね。」
「はい、さようで。
そうしますれば、賊は、にせものと知らずにぬすみだし、さぞくやしがることでございましょう。
にせものといっても、このとおり重いのでございますから、ぬすみだすせつは、いかなる怪盗でもかけだすことはできません。
その弱みにつけこんで、明智さんなり、警察の方なりに、ひっとらえていただこうというわけでございます。」
「ウン、そういけばうまいものだが、はたしてうまくいくものだろうか。」
大鳥氏は、まだ少しためらいぎみです。
「いや、それはもう大じょうぶでございます。
どうかわたくしにおまかせくださいまし。
かならず二十面相の裏をかいて、アッといわせてお目にかけます。」
支配人は、もう怪盗をとらえたような鼻息です。
「よろしい。
きみがそれまでに言うなら、いっさいまかせることにしよう。
じゃ、ひとつ、そのにせものを、あのわくの中へつみあげてみようじゃないか。」主人もやッとなっとくして、それからふたりがかりで、ほんものとにせものをとりかえました。
「おお、りっぱだ。形といい色つやといい、だれがこれをにせものと思うだろう。門野君、こりゃうまくいきそうだね。」
 大鳥氏は、わくの中につみあげられた、にせものの五重の塔をながめて、感じいったようにつぶやきました。
この取りかえのさいには、例の赤外線装置をとめて、ピストルが発射しないようにしておいたことは申すまでもありません。
「それじゃ、ほんもののほうを、ふたりで、すぐ床下にうずめることにしようじゃないか。」
 今では、主人の大鳥氏も大のりきです。
ふたりは、できるだけ物音をたてないように注意しながら、部屋のまんなかの畳をめくり、その下の床板をとりはずしました。
「くわも、ちゃんと用意してまいりました。」
 支配人は、最初にもちこんでおいた、長いふろしき包みをひらいて、一丁のくわをとりだしますと、いきなりしりはしょりをして、床板の下の地面におり立ちました。
そのときです。
ふたりが仕事にむちゅうになって少しも気づかないでいるすきに、またしても板戸の一枚が、音もなくスーッと細めにひらき、そこから見おぼえのある顔が、ソッと室内のようすをのぞきこんだではありませんか。
あのかわいらしいお手伝いさんです。
謎の小娘です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました