初級翻訳・愛ちやんの夢物語 第1話

キャロル ルイス

### はしがき

この本は、有名なルイス・キャロルという人が書いた『不思議の国のアリス』を翻訳したものです。
何の邪気もない女の子が見た夢の物語。そこには、おかしな出来事の中にも教訓が隠されています。
昔、中国の荘周という人が、夢の中で胡蝶(ちょうちょ)になったというお話がありますが、夢の中だからこそ、広大な海を歩いて渡ることもできるし、空を飛ぶ鳥の真似だってできるのです。
世の中に、夢ほど面白いものはありません。
先ほど、お姉さんの膝を枕にしてうとうとと眠りについた愛ちゃん。その夢をほどいてみれば、まるで美しい花々を摘み集めたような、色鮮やかで素敵な物語ができあがりました。

明治四十二年十二月 訳者

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### 第一章 兎の穴へ

愛ちゃんは、お姉さんと堤の上に座っていましたが、すっかり飽きてしまいました。何かすることもなく、ただただ退屈でたまりません。何度も、お姉さんが読んでいる本をのぞきこんでみましたが、そこには絵もなければ会話もありませんでした。
「絵もなければ会話もない本なんて、何の役に立つのだろう?」と愛ちゃんは思いました。
そこで愛ちゃんは、退屈しのぎにヒナギクで花輪を作ろうかと考えました。でも、わざわざ立ち上がって花を探して摘むのは面倒だし、それだけの価値があるのかしら……と心の中で考えていました(暑い日だったので、すぐに眠気が襲ってきて、ぼんやりしていたのです)。すると、突然、可愛い目をした白兎がすぐそばを駆け抜けていきました。

それ自体は、それほど驚くほどのことではありませんでした。
また、愛ちゃんは、兎が道端から飛び出してきて「ああ、遅刻しちゃう!」なんて言うなんて、少しも思いませんでした。
(あとでよく考えてみれば不思議なことですが、その時はそれが当たり前のことのように思えたのです)。ところが、その時、兎はなんとチョッキのポケットから時計を取り出して、それを見たかと思うと、また駆け出しました。愛ちゃんも思わず追いかけました。
愛ちゃんは、兎がチョッキのポケットから時計を取り出して、面白そうにそれを見つめるなんて姿、これまで一度も見たことがなかったわ、と心の中で少し思いました。
愛ちゃんは野原を横切って兎を追いかけ、ちょうど生垣の下にある大きな兎の穴に、兎が飛び込むのを見届けました。
愛ちゃんも迷わず、その後を追って穴の中へ。
今度はどうやって外へ出ようかなど、考える余裕もありませんでした。

兎の穴は、しばらくの間、トンネルのように真っ直ぐ続いていました。
立ち止まる暇もないほど急に、愛ちゃんは深い井戸のようなところへ落ちていき、穴の中はびしょ濡れになりました。
井戸がとても深かったのか、それとも愛ちゃんの落ちるスピードがとてもゆっくりだったのか、落ちきってから周りを見回し、この先どうなるんだろう?と心配し始めるまでには、ずいぶん長い時間が経っていました。
最初は下の方を見ていましたが、それから今までのことを知ろうと目を凝らしました。でも、真っ暗で何も見えません。
そこで愛ちゃんは、井戸の四方を見回しました。すると、そこには食器棚や本棚がいっぱい並んでいるのがわかりました。
あちこちに地図が見え、壁の釘にはたくさんの絵が掛かっていました。
通りすがりに愛ちゃんは、棚の一つから瓶を一つ手に取りました。そこには「オレンジ・マーマレード」とラベルが貼ってありましたが、空っぽだったので、愛ちゃんはひどくがっかりしました。
愛ちゃんは、下にいる誰かを潰してしまうといけないので、その瓶を投げ捨てるのはやめて、通りがかりの食器棚にそっと隠しました。
「よし、この調子で進めば、階段から転げ落ちる心配もなさそうね! 家のみんなが、私がどれだけ勇敢だと思っているかしら! そうだ、屋根の上から落ちたとしても、このことは誰にも秘密にしておこう!」と、愛ちゃんは自分で思いました(どれが本当のことで、どれが夢なのか、わからなくなってきました)。

落ちる、落ちる、落ちる。
この流れはどこまで続いているのかしら?
「今まで私は何マイル落ちたのかしら?」と愛ちゃんは声に出しました。
「きっと、地球の真ん中あたりまで出ちゃうんだわ。あら、どうやら4000マイルは下りたみたい……」(愛ちゃんは学校の授業で、そんな知識を習っていました。自分の知識を披露するのにいい機会でしたが、聞いている人は誰もいなかったので、復習にはちょうどよかったです)。
「……さて、ずいぶん人里離れたところまで来たわね。緯度や経度はどのあたりかしら?」(愛ちゃんは、緯度や経度が何なのか、少しも知りませんでした。でも、なんだか響きが立派で崇高な言葉に聞こえたので、使ってみたかったのです)。

愛ちゃんは、すぐにまた口を開きました。
「ねえ、もしかしたらこのまま地球を突き抜けて、真っ直ぐ落ちていくんじゃないかしら! 反対側を歩いている人たちの国に出てしまったら、どんなに面白いでしょう! ああ、嫌だわ。私は……」(そう言ったものの、正しい言葉が出てこなかったので、聞いている人が誰もいないことを、かえって幸運に思いました)「……でも、そこが何という国なのか、住んでいる人たちに訊いてみたいわ」「ねえ、おかあさん。ここはニュージーランドかしら、それともオーストラリア?」
(愛ちゃんはそう言いながら、おかあさんに寄りかかろうとしました。皆さんも、空中に落ちている最中に誰かに寄りかかるなんてことが可能かどうか、想像してみてください! そんなことができるはずがありませんよね)
「ああ、お母さんはきっと、私のことをなんておバカな子だと思うかしら! もう絶対に聞くのはやめよう。きっとどこかの本に書いてあるはずだわ」

落ちる、落ちる、落ちる。
やることがなくて退屈だったので、愛ちゃんはまた話し始めました。
「玉(猫の名前)が、今夜きっと私を探してくれるわ! みんなが夕飯の時間に、玉のために牛乳のお皿を出してくれることを覚えていてくれたらいいんだけど。ねえ玉、そうよ、あなたも一緒に来ればよかったわ! 空中にはネズミはいないでしょうけど、コウモリなら捕まえられるかもしれない。コウモリって、ネズミにすごく似ているのよ。でも、猫ってコウモリを食べるのかしら?」
そのあたりで、愛ちゃんはだんだん眠くなってきました。夢を見ているような気分で、「猫はコウモリを食べるのかしら? 猫はコウモリを食べるのかしら?」と何度もつぶやいていましたが、時々反対に「コウモリは猫を食べるのかしら?」なんてことも言いました。どちらが正しいのか、愛ちゃんにはさっぱりわかりません。

うとうとしながら、玉と手をつないで歩いている夢を見ていると、愛ちゃんは一生懸命に尋ねました。
「ねえ玉ちゃん、本当のことを教えて。あなた、これまでにコウモリを食べたことがある?」
その時、突然「がさっ! がさっ!」という音がして、愛ちゃんは小枝や枯れ葉の山の上にどさりと落ちました。落下はそこで終わりました。

愛ちゃんは少しも怪我をしていませんでした。すぐに飛び上がって上を見上げましたが、頭の上は真っ暗でした。

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