そうしていただけないと、山車があなたの前を通ることができませんので……」
おじいさんは大威張りで、
「ゆるーーす、ゆるーーす、通れ、通れ!」と言いました。すると、山車はまた楽しそうにお囃子を鳴らして動き出しました。
さあ、おじいさんはますます面白くてたまりません。またまた山車の先回りをしては、それを呼び止め、「ゆるーーす、ゆるーーす」と言って歩き回りました。
5、6回もこうして山車を止めて、おじいさんはまるで子供が悪戯(いたずら)をするような気分で、大喜びしていました。
しかし、もう一回山車を止めてやろうと先回りをしていると、どうしたことでしょう。今度はまだおじいさんの目の前まで来ないうちに、ずいぶん遠くの方で山車が止まって動かなくなってしまいました。
そのうちに、周りで見物していた人たちがみんな口々に、
「皇子(みこ)さまがお通りになるぞ!」と言って、差していた日傘をたたみ、頭にかぶっていた帽子などを脱いで、道のわきにペタッと座り込んでしまいました。
皇子さまは、金色の飾りがピカピカと光る、とても美しい御所車(ごしょぐるま)にお乗りになって、ゆっくり、ゆっくりと進んでこられました。
見物人たちはみんな、おでこを地面につけるようにしてお辞儀をしています。
ところが不思議なことに、その御所車がちょうどおじいさんの目の前にやってくると、ピタッと止まってしまったのです。
「おかしいぞ。あの山車みたいに、俺が『ゆるーーす、ゆるーーす』と言わなきゃ、この車も動き出さないのかな?」と思って、おじいさんがそっと頭を上げてのぞき込んでみました。すると、御所車の横にあるすだれが少し持ち上がり、中からこちらをじっと見つめているのは、なんと、去年おじいさんがおんぶして大火事の中から助け出した、あの皇子さまだったのです。
「おやまあ! あの方が皇子さまだったのか。俺はなんて大変なことをしてしまったんだ!」とおじいさんは心の中でびっくり仰天しました。
そのとき、お供の家来が一人やってきて言いました。
「大納言の冠をかぶったおじいさん、皇子さまがお呼びです。行列の一番後ろについて、お城まで来てください」
おじいさんは宮殿へと連れていかれながら、「皇子さまをお助けしたのだから、ご褒美がもらえるかもしれないぞ」と嬉しく思いました。けれど、よくよく考えてみると、「冠を勝手に拾ってかぶったり、山車を何度も止めて『ゆるす、ゆるす』なんて言ったりしたから、ひどく怒られるんじゃないだろうか」と、だんだん恐ろしくもなってきました。
行列がお城に着くと、おじいさんはお庭の前に呼び出されました。そこへ現れたのは皇子さまではなく、本物の、一人の大納言(だいなごん)さまでした。
「去年、御所に火事があったとき、皇子さまをおんぶして逃がして差し上げたのはお前だな」とその大納言が言いました。
「はい、はい! 私でございます。どうかお許しください!」とおじいさんはすっかり縮み上がって、地面に頭をこすりつけました。
「そのご褒美として、皇子さまからお金の包みを授ける。本当によくやってくれた」
「へへーーい!」とおじいさんは大喜びしました。
すると今度は、大納言さまが急に声を厳しくして言いました。
「だが、その頭にかぶっている冠のことだ。それは一体、誰から授かったものなのか聞いてまいれ、とのお言葉だぞ」
「へへーーい……」とおじいさんは今度こそ本当に恐ろしくなって、ぶるぶる震え上がりました。「これは、御所のお庭で拾ったものでございます。どうか、どうかお許しを……」
「ふむ、そうか。では、お前が正式に授かったものではないのだから、お前のものとしてかぶっていてはいけないものだな。「本当なら、そんなものを頭にかぶって、大納言のマネをして山車を止めたりしたのだから、重い罰を与えるところだ。けれど、お前は皇子さまをお助けしたことがあるから、今回だけは許してあげよう。その冠はこちらへ渡しなさい」
おじいさんは大納言の冠を返すと、ご褒美のお金の入った包みをいただいて、お城を出ました。
すると、ちょうどそこへ、お祭りの山車が1台、帰っていくところにばったり出会いました。
おじいさんの頭にはもう大納言の冠はありませんから、今度は山車が止まらないどころか、山車についている若い人たちの中に、おじいさんのことを見知っている者がいました。
「おい、偽物の大納言が通るぞ! なんて図々しい奴だ。懲らしめてやれ!」
そう叫びながら、おじいさんに向かって石を投げたり、殴りかかってきたりしたのです。おじいさんは、命からがら大慌てで逃げ出しました。
「拾った冠なんて、やっぱり本当の役には立たないや。ちゃんとした、お上の偉い人から授かったものでなければ、だめなんだなぁ」
遠くまでなんとか逃げのびてから、おじいさんは寂しそうに、自分の禿げた頭をつるりとなでまわすのでした。
コメント