あやしい人造人間
ある日の夕方のことです。東京都千代田区にある、大きなお屋敷ばかりが立ち並ぶ静かで寂しい町を、学生服を着た二人の男の子が歩いていました。
体の大きい方の、十四、五歳になる少年は、あの名探偵・明智小五郎(あけち こごろう)の一番弟子であり、少年探偵団の頼れるリーダーとして有名な、小林芳雄(こばやし よしお)君でした。
もう一人の少年は、同じ少年探偵団のメンバーで、小学校六年生の野呂一平(のろ いっぺい)君。いつもみんなを笑わせてくれる、ひょうきんでおもしろい男の子です。
「なあ、何かハラハラするような大事件が起きないかなあ。怪人二十面相もずいぶんと姿を現さないし、ぼく、腕が鳴って仕方がないよ!」
ノロちゃんは、自分の腕をさすりながら言いました。「ノロちゃん」というのは、野呂一平君の愛称なのです。
「バカだなあ。みんなが怖がって大騒ぎするような事件が、君はそんなに好きなのかい?」
小林隊長にピシャリとたしなめられて、ノロちゃんはペロッと舌を出し、きまり悪そうに頭をかきました。
すると、まさにそのときです。向こうの角から、ひょっこりと、なんとも不思議なものが現れました。
ロボットです!
鉄でできた、不気味な姿の人造人間です。
そいつは、四角い頭をあちこちに振りながら、同じく四角い足を動かし、ギリギリ、ギリギリと歯車の音を響かせながら、向こうの方へと歩いていくではありませんか。
思いがけない場所に突然ロボットが現れたのを見て、二人はギョッとして立ちすくんでしまいました。
小林少年が、ノロちゃんの腕をギュッとつかみました。ノロちゃんが、びっくりして今にも逃げ出そうとしたからです。
「君、さっき腕が鳴って仕方がないって言ったばかりじゃないか。あれはウソだったのかい?」
小林君は、ニッコリ笑ってノロちゃんに語りかけました。
「あれはね、銀座の街なんかを歩いているサンドイッチマン(看板を背負って宣伝する人)だよ。ほら、いつか銀座に行ったとき、あいつから広告のチラシをもらったじゃないか。ロボットのサンドイッチマンだよ。あれは鉄じゃなくて、木でできているんだ」
「あっ、そうか! なんだあ。板張りのロボットだったのか」
「だけど、おかしいと思わないかい? サンドイッチマンが、こんな大きなお屋敷ばかりの静かな町に住んでいるなんて変だよ。それに、あんな姿のままで、こんなに遠くまで歩いてやって来るなんて、どう考えてもおかしい」
小林君がそう指摘すると、ノロちゃんもすぐに調子を合わせて言いました。
「そうだ、だからぼくも怪しいと思ったんだよ! ねぇ、尾行してみようよ」
二人の少年は、怪しい人造人間の後を追うことにしました。少年探偵団のリーダーとメンバーですから、尾行(こっそり後をつけること)はお手のものです。二人はリスのようにすばやく、物陰から物陰へと身を隠しながら、どこまでも人造人間の後を追いかけました。
しばらく進むと、古いレンガの塀に囲まれ、唐草模様の立派な鉄の門扉が閉まった、大きなお屋敷の前に出ました。
人造人間は、その門の前で立ち止まると、四角い頭をクルクルと回してあたりをキョロキョロと見回しました。それから、鉄の扉を押し開けて、門の中へと入っていったのです。
「おや、ますます怪しいぞ。あんなロボットが、こんな大邸宅に住んでいるはずがない。ノロちゃん、後を追って門の中に入ってみよう!」
門の中には木がうっそうと茂っていて、その奥に、古いレンガ造りの二階建ての、大きな洋館の入り口が見えました。
ところが、人造人間はその正面玄関には目もくれず、洋館の横を通り抜けて、裏手の方へと回っていきます。
ギリギリと歯車がきしむような、あの嫌な音を響かせながら、機械のようなぎこちない足取りで、ひょっこり、ひょっこりと歩いていくのでした。
少女の悲鳴
洋館の脇には物置小屋があり、その前にはしごが立てかけてありました。
人造人間は、不自由そうな手ではしごをつかむと、ズルズルと洋館の窓の下まで引きずっていき、それを二階の窓へと立てかけました。
そして、そのはしごを登り始めたのです。
機械の体がはしごを登っていく様子は、本当に不気味で、背筋がゾッとするような光景でした。
「うわあ! 窓から入り込もうとしているよ。あいつ、泥棒かもしれない。おまわりさんを呼んでこようか?」
ノロちゃんが、心配そうに声をひそめてささやきました。
「待ちたまえ。もう少し様子を見よう」
小林隊長はどこまでも落ち着いています。
人造人間は、ついに二階の窓まで登りつめました。二階の窓は内側から鍵がかかっていなかったのか、人造人間はそっとガラス戸を押し開けて、暗い部屋の中へと入っていきました。
「おまわりさんを呼ぶよりも、まずはこのお家の人に知らせてあげよう。もし気づいていなかったら、大変なことになるからね」
小林君はそう言うと、ノロちゃんを連れて、急いで正面の入り口へと引き返しました。
入り口の呼び鈴を鳴らしましたが、いくら待っても、誰も出てくる気配がありません。
おかしいなと思ってドアに手をかけ、そっと押してみると、なんと、音もなくスーッと開きました。
ここも、戸締まりがされていなかったのです。窓が小さくて古いタイプの建物なので、建物の中は昼間なのに薄暗く、シーンと静まりかえっていて、まるで空き家のようでした。
「ごめんくださーい!」
大きな声で呼んでみましたが、何の返事もありません。
ノロちゃんは待ちきれなくなって、靴を脱ぐと、いきなり廊下へと上がっていきました。
「誰もいないんですか? お邪魔しまーす!」
と、びっくりするような大声で叫びました。
けれど、やっぱりシーンと静まりかえっています。
「変だなあ。ここ、空き家なのかな?」
すると、そのときです!
洋館の奥の方から、
「キャーッ! 助けてえ……!」
という、女の子の悲鳴が聞こえてきたのです!
ノロちゃんはそれを聞くやいなや、靴も履かずに、大急ぎで入り口の外へと逃げ出してしまいました。
野呂一平君は、少年探偵団のメンバーとは思えないほどの、かなりの怖がり屋さんだったのです。
小林少年はすばやい動きでノロちゃんを追いかけ、がっちり捕まえてドアの中へと引き戻しました。
引き戻されたノロちゃんは、大きな目をキョロキョロと動かし、何か恐ろしいものが出てきたらすぐに逃げ出せるよう、おかしなへっぴり腰になっています。
「今の声は、小さな女の子のものだったよ。さあ、行ってみよう! ひどい目に遭わされているなら、助けてあげなくちゃ!」
小林君は、ノロちゃんの手をグッと引っ張りました。
小林君も靴を脱いで廊下に上がると、ノロちゃんの手を引っ張りながら、廊下をぐんぐんと奥へと進んでいきました。
「キャーッ! 誰か来てえ……!」
またしても、耳を突き刺すような悲鳴が響き渡りました! ノロちゃんは体をビクッとさせて逃げようとしましたが、小林君に鋭く睨みつけられてしまいました。
「君、それでも少年探偵団のメンバーかい!」
廊下の角を曲がると、向こうにある部屋のドアが開きっぱなしになっていました。
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