初級翻訳・旅の仲間 第8話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

いよいよ、ヨハンネスがお姫さまの考えていることを言い当てる番です。
お姫さまは、うっとりするほどやさしい目で、ヨハンネスを見つめました。
ところが、「くつ」という言葉がたった一言、ヨハンネスの口から飛び出すと、お姫さまの顔は雪のようにまっ白になり、体じゅうがブルブルと震えだしました。
もう、どうすることもできません。
ヨハンネスは見事に言い当てたのです!
「すごいぞ! よくやった!」
お年寄りの王さまは、それはそれは大喜びしました。
あまりにもうれしすぎて、なんとその場ででんぐり返し(トンボ返り)をしてしまったほどです。
それを見ていたまわりの人たちも、みんな王さまと、そして初めてなぞを見事に言い当てたヨハンネスに向かって、盛大な拍手を送りました。
旅の仲間も、うまくいったと聞いて、大喜びしました。
ヨハンネスはすぐに手を合わせて、神さまに心からお礼を言いました。
神さまなら、これからのあとの二回も、きっと助けてくださるはずです。
つぎの日も、またなぞをとく日になっていました。
その晩も、昨夜と全く同じことが繰り返されました。
ヨハンネスが眠りにつくと、旅の仲間はお姫さまの後を追いかけて山まで飛んでいきました。その途中、昨夜よりももっと強く、むちでお姫さまを打ち続けました。
今夜は最初から、むちを二本も持って出かけたからです。
そしてやっぱり、だれにも姿を見られないまま、何もかも残らず聞き取ってしまったのです。
今度は、お姫さまは「手袋」のことを考えることになっていました。
そこで旅の仲間は、またそれを夢で見たことにして、朝になるとヨハンネスに教えてあげました。
だからヨハンネスは、この日もうまくなぞを言い当てることができたのです。
お城では、みんなが大喜びしました。
お城の役人たちは、昨日王さまがやったように、今日はみんなそろってでんぐり返しをしました。
でも、お姫さまだけはソファに横になったきりで、口をきこうともしませんでした。
さあ、ヨハンネスは、はたして三度目もうまくなぞを言い当てることができるでしょうか?
もしうまくいけば、美しいお姫さまをもらえるだけでなく、お年寄りの王さまが亡くなったあとの、この国ぜんぶを受け継ぐことになります。
そのかわり、もししくじってしまったら、命を失うことになってしまいます。
おまけに、あの美しい青い目を、あのこわい魔法使いに食べられてしまうのです。
その晩も、ヨハンネスは早めにベッドに入って夜のお祈りをし、それからぐっすりと眠りました。
いっぽう、旅の仲間は背中に翼をきつく結びつけ、腰にサーベルをさし、そして今夜はむちを三本とも全部持って、お城めがけて飛んでいきました。
今夜はあたりが真っ暗闇でした。
そのうえ、ものすごい大あらしになりました。
屋根のかわらは吹き飛ばされ、がいこつがぶらさがっている庭の木々は、風が吹くたびにまるで草のように激しく揺れ動きました。
いなずまはひっきりなしにピカピカと光り、かみなりは一晩中ゴロゴロと鳴り続けました。
そのとき、窓がガチャンと開き、お姫さまが飛び出しました。
見ると、顔の色はまるで死んだ人のように青白くなっています。
それでも、「このくらいのあらし、大したことないわ」と言わんばかりに、このすさまじいあらしを鼻で笑っていました。
お姫さまの白いマントは風に吹き飛ばされて、まるで大きな船の帆のように、空いっぱいにパタパタとひるがえりました。
旅の仲間は三本のむちでお姫さまをビュンビュンと打ちのめしました。
お姫さまの体からは、血がポタポタと地面にしたたり落ちました。
お姫さまはやっとの思いで空を飛んでいき、それでもどうにか山にたどり着きました。
「ひどいあられが降って、おそろしいあらしだわ」とお姫さまは言いました。
「こんなお天気のときに外へ出たのは、生まれてはじめてだわ」
「なに、いいことだってたくさんあるさ」と魔法使いは言いました。
お姫さまは魔法使いに、ヨハンネスが二度目もちゃんとなぞを言い当てたことを話しました。
そして、
「もし明日もあいつが言い当てたら、あの男の勝ちになって、あたしはあなたのところへ来られなくなるし、今までみたいに魔法を使うこともできなくなってしまうわ」と言って、それはそれは悲しみました。
「今度こそ、あいつになぞなど言い当てさせるものか!
よし、あいつの思いもよらないようなことを考えてやろう。
それでもダメなら、あいつはわしよりすごい魔法使いにちがいない。
まあ、それはそれとして、今夜は思いっきり楽しく騒ごうじゃないか!」
魔法使いはそう言うとお姫さまの手をとり、広間にいる小さな小人たちや鬼火といっしょに、グルグルと楽しそうに踊りまわりました。赤いクモも、元気よく、かべをとびあがったり、とびおりたりしました。
ですから、火の花が、火花を散らしているように見えました。
フクロウはたいこをたたき、コオロギは口笛を吹き、黒いキリギリスはハーモニカを吹き鳴らしました。
いやはや、じつにゆかいな舞踏会です!
それから、みんなは、さんざん踊りぬきました。
もうぼつぼつ、お姫さまは、御殿へ帰らなければなりません。
このくらいで帰らないと、御殿の人たちが、お姫さまのいないのに、気がついてしまいます。
「御殿まで送っていってやるよ。
そうすれば、そのあいだだけでも、いっしょにいられるからね」と、魔法使いが言いました。
そこで、ふたりは、すさまじいあらしの中へ、とび出していきました。
旅の仲間は、ふたりの背中を、三本のむちで、力いっぱい、打ちのめしました。
さすがの魔法使いも、こんなにひどくあられの降る中を、とんだことはありませんでした。
御殿の上まで来ると、魔法使いは、お姫さまに別れをつげて、
「わしの頭のことを考えていなさい」と、そっと、ささやきました。
それでも、旅の仲間には、その声が、はっきりと聞きとれました。
お姫さまは、窓からそっと、寝室の中へすべりこみました。
魔法使いのほうは、ひき返そうとしました。
ところが、そのときです。
旅の仲間は、魔法使いの長い、まっ黒なひげをつかんだかと思うと、いきなりサーベルを引きぬいて、そのみにくい頭を、首のつけ根のところから、切り落してしまいました。
とうとう、魔法使いは、一度も、旅の仲間の姿を見ることができませんでした。
旅の仲間は、魔法使いのからだを、湖の中へほうりこんで、さかなのえさにしました。
頭だけは、水でよくあらってから、絹のハンカチにつつんで、宿屋に持って帰りました。
それから、寝床にはいって眠りました。
あくる朝、旅の仲間は、ヨハンネスにハンカチのつつみをわたしながら、
「お姫さまが、『あたしは、なにを考えていますか?』と、きくまでは、このつつみをほどいてはいけませんよ」と、言いました。
御殿の大きな広間には、大ぜいの人たちが、ぎっしりつめかけていました。
まるで、赤ダイコンをたばにしたみたいなありさまです。
顧問官たちは、椅子に腰かけて、やわらかなふとんを頭のうしろにあてていました。
お年よりの王さまは、あたらしい着物を着ていました。
金のかんむりと、しゃくとは、ピカピカにみがいてあって、たいそうりっぱに見えました。

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