それをもとにして、こんな大きなたき火が出来たんですよ」
一太郎君は、みごとに水から火をつくりました。
そして、それを実に順序正しく説明したのです。
それを聞いて、お祖父さんもお父さんも、すっかり感心なさいました。
「フーム、さすがは智恵の一太郎じゃ。
白状すると、わしもゆうべ、あれから、父さんの難題をいろいろ考えてみたのじゃが、どうしてもわからなかったのだよ。ハハハ……」
お祖父さんは、胸にたれたまっ白なおヒゲをゆらしながら笑って、一太郎君のすごい大あっぱれを、なんどもほめてくださいました。
名探偵
ある日、明石一太郎(あかしいちたろう)が学校から帰ってきて、茶の間におられるお母さんのところへ行き、「ただいま!」と言いますと、お母さんは待ちかねていたように、こんなお話をはじめたのです。
「一太郎さん、今日ね、たいへんなことがあったのよ。
妙子(たえこ)ちゃんが、幼稚園からの帰り道、すぐそこ大通りでころんじゃって、もうちょっとで自動車にひかれそうになったんだって!」
「えっ、自動車に!?」
一太郎は、かわいい妹の妙子ちゃんがそんなこわい目にあったと聞いて、びっくりして思わず大きな声をあげました。
「ううん、べつにケガはしなかったの。
ちょうどあんたぐらいの小学校のお兄ちゃんが、妙子ちゃんを助けおこして、わざわざうちの門のところまでつれて来てくださったのよ。
妙子ちゃんが言うにはね、ころんだときにカバンが開いちゃって、中身がみんな道にちらばっちゃったんだって。
ふで入れのフタもとれて、クレヨンがバラバラとそのへんにちらばっちゃったんだって。
そこへ、むこうから自動車が走ってきたから、今いった小学校のお兄ちゃんが、とんできて妙子ちゃんを助けおこして、自動車からよけさせてから、ちらばったものをぜんぶひろってカバンの中に入れて、それから、ないている妙子ちゃんをつれて、門のところまでおくってくださったのよ」
「いったい誰だろう?
ぼくの学校の子かなあ」
「うん、そうみたいよ。一太郎さんのお友だちかもしれないわね。
お母さんが出ようとしたら走っていっちゃって、うしろ姿しか見えなかったから、誰だかわからないの。
妙子ちゃんも知らないって言うし。
でも、妙子ちゃんがこのおうちの子だって知っていたのを見ると、やっぱり一太郎さんのお友だちかもしれないわね。
あした学校へ行ったら、さがしてお礼を言ってちょうだい」
「そうだねえ……。でもねお母さん、もしそのお兄ちゃんが、ぼくのなかよしのお友だちだとしたら、なかなかさがし出せないかもしれないよ」
「どうしてなの?」
一太郎君が変なことを言ったので、お母さんはふしぎそうな顔をなさいました。
「あのね、ぼくのクラスで、なかよしのお友だちが六人いるんだ。
その六人で約束して、『一日一善(いちにちいちぜん)』っていうことをやっているのさ。
なんでもいいから、人のためになることを、一日に一つはかならずやるっていう約束なんだ。
ぼくも毎日やっているよ。
だけど、何をしたかは言えないんだ。
言っちゃいけないっていう約束なの。
ほめられたりお礼を言われたりするためにやるんじゃなくて、ただいいことだからやるんだろう?
だから、人に知られないようにこっそりやらなきゃいけないんだよ。
もしそれを人に話したり、じまんしたりしたら、その日はなにもいいことをしなかったのと同じになっちゃうんだ。
ゼロになっちゃうんだよ。
だから、いくらたずねても、きっと教えてくれないよ」
「まあ、そんな約束をしているの。
えらいわねえ。
だけど、今日のは特別にいいことなんだから、教えてもゼロにならないことにしちゃって、そのお兄ちゃんに本当のことを言わせなさいよ。
わかったら、お母さんもお礼を言いたいんだから」
「じゃあ、ぼく、聞いてみるよ」
一太郎はそれから、妹の妙子ちゃんのところへ行っていろいろ聞いてみたけれど、なんせまだちっちゃな子供だし、そのときはびっくりして夢中だったものだから、はっきりしたことがわからなくて、これという手がかりもつかめませんでした。
一太郎君は困ったような顔をしてしばらく考えこんでいましたが、やがて、何かを思いついたのか、「あっ、そうだ!」とひとりごとを言ったかと思うと、いきなり妙子ちゃんのカバンから、黒地に赤い花のもようがあるセルロイドのふて入れを取り出しました。
妙子ちゃんがころんだとき、中のクレヨンが道にちらばったっていう、あのふて入れです。
「ちょっと、これをお兄ちゃんに貸してね」
一太郎君はそう言って、そのふて入れを大事そうに持って、自分のべんきょう部屋に入りました。
そして、机の引き出しから虫めがね(拡大鏡)を取り出して、ふで入れのフタをとって、その裏や表をいっしょうけんめいにながめていましたが、しばらくすると、何かを見つけたのか、
「あっ、あったぞ、これだ、これだ!」
と、とってもうれしそうにつぶやいたのです。
みなさん、一太郎君はいったい何を発見したのでしょう?
さて、その次の日は、朝からシトシトと雨の降りつづくどんよりした日でしたが、一太郎君は何か楽しいことでもあるみたいに、ウキウキして学校へ出かけました。
生徒たちは、広い雨天体操場に入って、授業が始まるのを待っていましたが、かけまわる子、取っ組み合いをする子、あっちでもこっちでも、「ワーッ、ワーッ」とおもちゃ箱をひっくり返したような大さわぎでした。一太郎君は、その中から「一日一善」の六人のお友だちをさがし出して、みんなに昨日の事をたずねてみましたが、誰も僕がやったのだと言うものはありません。
妙子ちゃんを助けてくれたのは、どうもその六人のうちの一人らしいのですが、みんな知らぬ顔をして、笑ってばかりいるので、どうしてもわからないのです。
一太郎君があまりくどくたずねるものですから、六人の中でも一番なかよしの中村君などは、こんなことを言って、からかうのです。
「そんなに疑うのなら、君の智恵で、僕らのうちの誰がやったのだか、さがし出せばいいじゃないか。
君は智恵の一太郎じゃないか」
すると、みんながおもしろそうに、ワーッとはやしたてるのです。
「ようし、それじゃ、僕にも考えがある」
一太郎君は、くやしくなって、おこったような顔をして、きっぱりと言うのでした。
間もなく始業のベルが鳴り出しましたので、みんなはそのまま整列して教室に入りましたが、その第一時間目の授業がすんで、また雨天体操場にもどりますと、一太郎君は何を思ったのか、一方のすみのガラス窓のそばへ行って、立ちどまったのです。
そして、窓のガラスにハーッと息をふきかけて、白くくもったところへ、自分の両手の親指をぐっとおしつけました。
すると、指の先のうずまきのあとが、ガラスの上にハッキリとあらわれたのです。
一太郎君はポケットに用意してきた拡大鏡をとり出して、その二つのうずまきのあとを、熱心にのぞきはじめたものです。
なかよしの六人のお友だちは、それを見つけると、何をやっているのかと、次々にそこへ集って来ました。
そして、一太郎君の拡大鏡を、横からのぞきこみながら、
「君、なにをしているの?」「なにが見えるの?」と口々にたずねるのでした。
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