そして、三人の警察官は、蔵のまわりの広い庭をしっかりと警戒することになりました。
庭はすでに夕やみの暗さに包まれています。そのうす暗い木立ちの間を、三人の警官たちは周囲に四方目をくばりながら、ぐるぐると歩き回って警戒を続けていたのです。「おやっ、あれはなんだろう。ネズミくらいの大きさだが、あんな金色のネズミはないよ。ほら、あの蔵の窓の下だ」
ひとりの警官が、目ざやくそれを見つけて、ほかのふたりにしらせました。
三人の警官たちは、思わず立ちどまって、そのほうを見つめました。
うす暗い中にも、蔵の白っぽい壁はまだよく見えます。
その壁を、金色の小さなものが、スルスルとよじ登っているではありませんか。
よく見ると、けものでも、鳥でも、虫でもありません。
人間の形をしているのです。
二十センチくらいの、金色の西洋のよろい着たこびとです。
顔も頭も金色です。
「あいつだ! ここのうちの子どものいったのは本当だった。あんな小さなこびとに化けて忍び込もうとしているんだ」
「よし、ひっつかまえろ!」
三人は蔵の壁に向かってかけだしました。
しかし、小怪人のほうがすばやかったのです。
警官たちが五メートルも走らぬうちに、金色のこびとはスルスルと窓によじ登って、鉄ごうしの間から蔵の中へ消えてしまいました。
鉄ごうしの内がわにはガラス戸がしまっているはずなのに、それを通り抜けて中へはいってしまったのです。
一階の窓でも地面からは高いところにあるので、台がなければとても中をのぞくことはできません。
警官たちはしかたがないので、その窓の下から声をそろえてどなりました。
「金色のこびとが窓からはいりました! 用心してください!」
蔵の中へその声がかすかに聞こえたので、山下さんと六人の少年ははっと身がまえをして、キョロキョロとあたりを見まわしました。
蔵の中はもうまっ暗ですから、電灯がつけてあります。
その明るい光で、すみずみまでよく見えるのです。
するとそのとき、窓の下の本棚と本棚の切れめになっているくぼんだところから、金色のものがパッと飛びだして、まんなかの大金庫のうしろへかくれました。
黄金怪人です。
こびとになって窓から忍び込んだ怪人は、中へはいると子どもくらいの大きさになって、本棚のくぼみから飛びだしてきたのです。
蔵のすみずみにかくれていた少年団員たちは、小林団長をまっ先にそれぞれかくれ場所から大金庫の方へかけよろうとしましたが、そのとき金庫のうしろからふ再び姿をあらわした怪人を見ると、あっと立ちすくんでしまいました。
それはもう子どもではなくて、見るも恐ろしいあのおとなの黄金怪人だったからです。
全身金色にかがやく怪物が、大金庫の正面にこちらを向いて立ちはだかり、両手をふりうごかして、歯車のきしるような声で笑っているのです。
まっ黒な三日月がたの口がキューッとまがって、おばけのような黄金仮面が笑っているのです。
「きさま、金庫に手をかけたら、これをぶっぱなすぞっ!」
入口の近くにいた山下さんがいつの間に用意したのか、ピストルをかまえて怪人にねらいをさだめていました。
しかし、なんのききめもありません。
怪人はそれを見るといっそう歯車の音を高くして笑い続けるのです。
そのときどうしたわけか、パッと電灯が消えて蔵の中はまっ暗になってしまいました。
停電でしょうか。
いや、そうではありません。
何者かが一方の壁についているスイッチをおしたのです。
「だれだっ? 電灯を消したのは、はやくだれかそこのスイッチをいれるんだ!」
山下さんが叫びましたが、不二夫君は遠くにいましたし、ほかの少年たちはスイッチの場所をしりませんので、やみの中をウロウロするばかりです。
そのときやみの中から、きみの悪い歯車のような声がひびいてきました。
「グーテンベルクの聖書はたしかにちょうだいした。諸君、あばよ!」
それをきくと、山下さんはものをもいわずスイッチのところへ走っていってそれをおしました。
蔵の中がパッともとの明るさになりました。
大金庫の扉はしまったままで、べつに異常はありません。
そして、怪人の姿はもうどこにも見えませんでした。
かき消すようにいなくなってしまったのです。
山下さんは少年たちといっしょに蔵の中をグルグルまわって怪人をさがしましたが、金庫のうしろにも本棚のくぼみにも怪人の姿は見えません。
煙のように消えてしまったのです。
なんという奇々怪々のできごとでしょう。
黄金怪人はだんだん小さくなったりだんだん大きくなったり、自由じざいにからだの大きさをかえることができるのです。
小さくなったときにはネズミくらいの大きさですから、ほんのわずかのすきまから逃げだすことができます。
いま消えうせたのも、急にからだを小さくして窓の鉄ごうしのすきまから逃げだしたのかもしれません。もし、からだをそんなに大きくしたり小さくしたりするやつがいるとしたら、それは本物の化け物(ばけもの)に違いありません。
しかし、このおばあちゃんが話すような恐ろしい怪談話ではありません。
おばけや幽霊が出てくるお話をしているわけでもないのです。
この奇々怪々(ききかいかい)な出来事には、必ず何か隠された理由や裏があるはずです。
まるでマジック、手品のような仕掛けがあるに決まっています。
では、それはいったいどんな手品なのでしょうか?
(※見出し:笑う怪人)
山下さんは急いで金庫の前に駆け寄り、しっかりと調べてみましたが、金庫の扉はちゃんと閉まったままで、鍵もきちんとかかったままでした。
しかし、さきほど怪人は、確かに「聖書を盗み出したぞ」と言いました。
では、あいつは魔法の力を使って、扉を一切開けずに中のものを取り出すことができたのでしょうか?
山下さんは、自分だけが知っている秘密の暗号ダイヤルをクルクルと回して、ガチャリと扉を開け、中を注意深く調べてみました。
「なぁんだ。
聖書はちゃんと、ここにあるじゃないか!」
金庫の中の棚には、あの貴重な聖書を入れた、薄べったい桐(きり)の箱がちゃーんと置いてありました。
山下さんはその桐の箱を取り出してパカッと中を見てみると、なんと聖書は一枚もなくなっていないことが分かりました。
「あいつ、うまく盗み出せなかったもんだから、負け惜しみを言って、慌てて逃げ出したんだな!」
山下さんは、すぐそばで見守っている少年探偵団員たちの顔を見て、フッと笑ってみせました。
少年たちも、「ざまあみろ!」と言わんばかりに、みんなで声をそろえてケラケラと笑いました。
すると、その楽しそうな笑い声がまだ消えないうちに、またしても突如として、蔵の中がパッと真っ暗になってしまいました。
だれかが、壁のスイッチを切ったのです。
黄金怪人は、あんな負け惜しみのセリフを言って油断させておいて、実はまだ、蔵の中のどこかに隠れていたのかもしれません。
それを思い出すと、みんなゾーッとおそろしくなり、シーンと静まり返ってしまいました。
暗闇の中、スイッチの場所へいくのも怖くて仕方がありません。
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