ですから、私ははっきりとした結論を言うことができます。あの囚人がどんなに怪しいウワサに包まれていようとも、彼は絶対に、私たちの友人であるフォン・エッセン男爵ではありません――と』
この手紙は、ウルリーケの知り合いであるイギリス人の医者、パーシー・クライドから届いたものでした。しかし、支倉検事にとっては、手紙の内容よりも、一体どうやってそんなものが法水の手に入ったのか、不思議で仕方がありませんでした。
法水は、続けてウルリーケの方を向くと、この手紙を見つけ出すことになった、自分の不思議なひらめきについて話し始めました。
「実を言うとね、この手紙を手に入れることができたのは、『夢占い』のおかげなんですよ。いつだったか、あなたは『ニーベルンゲン』の詩集の中に、ご自分が体験した夢のことを書き残していましたね。
ところが、その夢の世界には、あなたの心の中に隠された、ある恐ろしい恐怖がそのまま描き出されていたのです。夢の中では、本当の気持ちが別の形に化けて現れることはよく知られていますが、時には一つの言葉やアイデアが、まるで『ダジャレ』のような形で現われることもあるのです。
そこで、夢の中にあった『菩提樹(ぼだいじゅ)の葉っぱが、チューリップの上に落ちる』という一言に注目しました。僕は、この『チューリップ(Tulip)』を、英語の『ツー・リップス(Two Lips=二つの唇)』というダジャレだと解釈したのです。つまり、あなたは何か『唇』のような形をしたものの隙間に、葉っぱのように薄いもの(手紙)を差し込んで隠したのではないか、と考えたわけです。
それから、夢に出てきた『ナデシコの花の、今にも垂れ下がりそうなほど大きな花びら』という部分についてです。そもそもナデシコという花には『人間の肉』という意味が含まれることがあり、さらに『その大きな花びらを取り除こうとしてもできない』と書かれていたのは、その唇(花びら)がふくらんでしまうのを恐れていたからなのです。
そうなると、何かの『唇』の間に物を挟んで、それがふくらんで変な形になってしまうのを心配するような場所といえば……まっさきに思い浮かぶのは、あの艇長の肖像画(油絵)しかありませんよね。
夫人。あなたは、あの油絵に描かれた艇長の唇の線をナイフでそっと切り裂き、その隙間にこの手紙を差し込んで隠していたのですね。そして、そのせいで艇長の美しい唇がふくらんで、絵全体のバランスが崩れてしまうのを、あなたは何よりも恐れていたというわけです」
こうして法水から夢の秘密を暴かれるにつれて、ウルリーケの心はどんどん追い詰められていきました。そして、とうとうその苦しさに耐えかねて、彼女は悲鳴のような声をあげたのです。「あなたは、私が必死に隠していた秘密を、すべて暴いてしまったのですね。
それならお願いです、私をテオバルトに会わせてください。
法水さん、彼に会うためには、一体どこへ行けばいいのですか?」
「とにかく、この部屋で待っていてください。
今、すぐにここへ連れてきますから」
そう言って、法水はどこか不思議な言葉を残して、隣の部屋へと去っていきました。
やがて、法水が連れて戻ってきた「その人物」の姿を見た瞬間、ウルリーケと支倉検事は「あっ!」と驚きの声をあげたまま、その場に立ちすくんでしまいました。
なんと、入ってきたのは、あの盲目の男、ヴィデだったのです!
しかし法水は、ヴィデに向かって、力強い声でこう言い放ちました。
「フォン・エッセン男爵。もういい加減に、その黒メガネを外したらどうですか?
あなたが、あの遭難の夜に本物のヴィデを殺したことも、仲間の三人(犬射たち)に木精(メチルアルコール)を飲ませて目を見えなくし、そのまま自分自身がヴィデになりすましたことも、すべてお見通しですよ。さらに、あなたの妻を奪った八住を殺しただけでなく、自分の娘である朝枝ちゃんにまで手をかけようとしたこともね。……はははは! あの見事に仕組まれた『死体が消えるトリック』でさえ、僕の目をごまかすことはできなかったのです。
あなたが髪を洗って、顔の傷や腫れ物の跡を隠すのをやめて、しばらくの間、過マンガン酸カリウム(消毒薬)で顔を洗うのをやめさえすれば、すぐにでも、あの昔のように美しかった『アドリア海の英雄』の姿に戻るはずですよ」
「な、何を言っているんだ……」
ヴィデはうろたえながらも、バカにするような態度で言い返しました。
「僕がフォン・エッセン男爵だなんて、バカバカしい! 一体どこをどう突っつけば、そんなデタラメな推理が出てくるのですか?
それならお聞きしますが、僕が八住を刺したという凶器を、一体どこへ隠したというのです?」
「隠す必要なんて、最初からなかったのですよ。なぜなら、その凶器は『溶けて流れてしまう液体』だったのですからね。
あなたはしばらくの間、その凶器を八住の傷口の中に差し込んだまま、隠しておいたのでしょう。
そしてその後、朝枝ちゃんや二人の盲人たちと一緒に、再び潜航艇の中に入ったとき、ただ一人目が見えるあなたは、こっそり八住の死体をうつ伏せにひっくり返したのです。
すると、傷口からあふれ出た血と一緒に、凶器はだんだんと固まりかけた血の間をすり抜けて、しばらく経ってから外へと流れ出していきました。
そしてちょうど、その死体の近くには、壊れた検圧計(圧力計)から飛び散った『水銀』が転がっていた……」
「水銀……ですか?」
支倉検事が思わず聞き返すと、法水は、まるで手品のような凶器の正体を明かしました。
「そうなんだよ、支倉くん。まさにその水銀なんだ。
実はね、潜航艇で使われている『液体空気』の中に水銀を浸しておくと、水銀はアメのようにドロドロになって、棒の先に丸い槍のような形を作ることができるんだ。
そして、それをさらに冷やし続けると、いわゆる『水銀ハンマー』と呼ばれる状態になり、銀色に輝く鋼鉄のようにカチカチに硬くなる。
だから、その水銀の刃で刺された八住の体の中で、体温によって水銀がだんだんと温められて柔らかくなっていったんだ。だから当然、刺し傷の入り口と奥で形が違ってくるという、お医者さんにもわけがわからない不思議な傷跡になったんだよ。
ところで支倉くん、君はあのとき、八住がどうして悲鳴を上げなかったのか、その理由を知っているかい?」
そう問いかけて、頭が混乱している検事の様子を見ながら、法水は淡々と説明を続けました。
「いや、『悲鳴を上げなかった』というよりも、『叫んだとしても、周りの騒ぎのせいで聞こえなかった』と言い換えた方が正しいね。
やはり、フォン・エッセン男爵、またの名をヴィデ氏は、あの遭難の夜と同じように、自分の持病である『間欠跛行(かんけつはこう)』の発作を利用したんだ。
そのとき突然発作が起きたため、彼は八住と犬射の間に割り込む形になった。そして、偶然その冷たい手に触れてしまった犬射は、びっくりして飛び上がったんだ。
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