坂口 安吾

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吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第56話

澄江は、別に予期した答えを心に抱いて待ち構えていたわけではないのだけれど。けれども、それはまるで自分が予想していた答えとは違うように思えるほど、ただ冷たく、嫌な言葉でした。むしろ――と澄江は思います。あまりにも予想通りのことを言われたことへ...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第55話

かつて卓一が文子の行方を突き止めるために高梨の留守宅を訪ねた時のことだが、他巳吉はあんなに威勢よく気炎を上げていたのに、卓一の後からついてきたのだった。しかし、そこが高梨の家だと分かるところまで来ると、パタリと足をとめて、ニヤニヤと笑いを浮...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第54話

むしろ、安らかにさえ思えたのです。卓一は歩き疲れて、丘の上の雪のなかへ腰を下ろしました。外套のまわりに敷き詰められた雪も、吹き荒れる風に巻き上げられて舞い踊り、風の悲鳴が耳を掠めては暗闇の奥へと駆け去っていきます。卓一の心は安らかでした。吹...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第53話

けれど、私たちの短い人生の中で、その頂点にある唯一のものを、色も香りも、手触りも声も備えた「生々しい現実の姿」として掴み取れることが、何度あるでしょうか。いいえ、ないでしょう。一度でもありえたこと自体が奇跡なのだと、卓一は思いました。今、こ...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第52話

「実に不思議だ。そして奇妙だ。それに、たしかに滑稽でもあるな」と卓一は思った。滑稽だとは思いつつも、そうした意識を突き破って、彼は「この人となら結婚しても悔いはない」という確信を抱き始めていた。この確信は、自分でもあまりに唐突だと感じた。澄...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第51話

その頃は吹雪といえば汽車の不通もつきものでしたが、汽車がどうにか通じても、市内の交通機関がなくて駅まで行けないことが頻繁にありました。何しろ駅に行くためには、七町半もある万代橋という厄介な難所を通らなければならないのです。北風、海風、川風が...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第50話

娘のように、愛おしかった。「人々が恐れ、憎しみを向けるような場所に、静かな休息があったのだね。そのことが、私にもわかりかけてきたのだよ。私の知らなかった場所が、今さら私に、なんらかの恐ろしさ、いわば悔いのようなものを与えないこともないのだ」...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第49話

野々宮はそう思わずにはいられなかった。そして、その殺しがたいという事実が、すでに卓一による企みのような切なさを帯びていた。悔しさであった。完全に翻弄されているのだ。そして、さらに燃え狂う憎しみの渦へと落ちずにいられなかった。この憎しみの切な...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第48話

自分の自殺に比べれば、結局サチ子の単純な自殺の方が、よっぽど実行力もあり、現実味もあふれているに決まっているのだ。死をめぐる精神が深くて複雑なときは、死の国の現実性は豊かであっても、人の世の現実性は薄れてしまうものだ。生きたいという力の欠如...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第47話

土蔵に用がある人でさえ、仕事の邪魔になるといって、野々宮が土蔵に籠もっている間は出入りを控えるほどなのです。誰にも気づかれることなく、あのピストルを手に入れることができるのです。寒さがいくらか堪えますが、要するに二、三時間の辛抱です。土蔵の...
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