坂口 安吾

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吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第46話

その中に、ところどころに色刷りの精密な挿絵を挟んだ大型の一冊があった。その絵は色刷りのせいもあるが、特別に妖しい香りが漂い、不思議な夢と秘密のささやきを包み込んでいた。それは決闘の絵であった。緑の木立に囲まれた小さな草原に、二人の異人が向か...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第45話

文子の心が本当に高梨を愛しているのなら、たとえ高梨が噂以上の悪人であっても、私は無理やりに二人の仲を引き裂こうとは考えていません。私は高梨に会って話をしたい。彼の本心を知りたいのです。文子が愛している男なら、私はその一分だけの良いところのた...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第44話

あまりにも図太いやり方である。左門の言葉は、決して言い過ぎていたわけではないはずだ。道理にかなった言葉だったはずである。あてつけ気味の皮肉な語調があったにしても、左門が抱えていた鬱憤に比べれば、むしろあまりにも控えめすぎたのだ。他巳吉は、文...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第43話

卓一の話が左門に及ぶと、他巳吉は時々慌ててしまうのだ。他巳吉は、自分が不当に左門へ押し付けた絶望の深さを知っているのだ。後ろめたい思いが、絶えることなく胸にある証拠であった。「世の中は因果応報。驕る平家は久しからず、だ」と他巳吉は言った。悲...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第42話

恐らく死期に近づいたのだ。卓一は思わずにいられなかった。やがて左門は、消える灯火のかぼそさのように、死ぬであろう、と。失われた左門の命。それを探さねばならないのだが。卓一は思った。たとえ命を探しだすことができるにしても、肉体はまもなく亡びて...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第41話

手もなく、足もなく、毛もなく、うねうねと屈伸するだけの、生臭い臭気を放つ肉体を。その肉体が、この執拗な意志を持つ者の肉体でもあり得るのだ。湯の宿の一夜の情景について思うたびに、卓一は、もはや旅行に出かけることが最も自然な状態にある自分を見出...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第40話

もし『愛している』という言葉がぴったりこないとしても、とにかく二人が肉体関係になっても不自然ではない、と言い直しましょう。僕は断言します。編集長は狡猾なのです。恋愛の観念生活などというものは、この場合、あまりに美しく飾りすぎた言葉です。後々...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第39話

この女は常識に逆らい、また人の期待をはぐらかすことによって、自分の美しさをより際立たせる術に長けているのだ、と。その術こそが、この人の天性なのだ。その術が、やがてこの人の外見にまで冷めたさを与えるようになったのだ。もちろん、それ以上のことで...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第38話

卓一は、由子と関わっている限りにおいて、肉欲的な想念にあまり悩まされることはなかった。彼女が肉体的に魅力のない女だったとは思われない。その肉体を求める機会もいくらでもあったが、あえてそうはしなかった。できなかったのではなく、その気になれない...
吹雪物語

初級翻訳・吹雪物語 第37話

卓一の気のない返事を受け取ると、木村重吉はつぶやきながら振り返った。「映画くらい見る方が大人に見えるかもしれませんね。あの人の論法で言えば」 日が暮れた。 木村重吉が卓一の机の端に両手を突いた。「編集長」彼は言った。「仕事を早めに切り上げて...
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