泉 鏡花

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泉 鏡花

初級翻訳・瓜の涙 第4話

その日は何事もなかったかのように、もとの墓地を抜けて帰ったけれど、まるで何かに憑かれたようになって、夜はそのおなじ景色を夢に見た。夢の中では、桜の代わりに桃の梢の上に、妙見宮の屋根の下にそれはそれは明るく明けの明星が輝いていた。翌日も、また...
泉 鏡花

初級翻訳・瓜の涙 第3話

紫色の雲が、大きなお寺の屋根のてっぺんにかかるのは、すごく徳の高い仏教の善男善女でなければ拝むことができない。けれど、この真っ赤な霞はその時期にここを通るイワシ売りやサバ売りなら、誰一人として知らない者はいないほど有名だった。奥深い山には、...
泉 鏡花

初級翻訳・瓜の涙 第2話

お金がない様子なのだから、マッチ一本でさえ粗末にできないというのはわけが分かるけれど、使い終わった焦げた軸をいったい何に使うというのだろう…… いやきっと、この年頃の若者には珍しくない「歴史の英雄(義経)を大切に思う気持ち」が、その由緒ある...
泉 鏡花

初級翻訳・瓜の涙 第1話

一 年はまだ若いのに、よっぽどこのたばこが好きなのだろう、実に美味しそうにたばこを吸いつつ、――しかし、はげしい暑さに参ってしまい、体もすっかり疲れた様子で、炎天下の並木の下でひと休みしている学生がいる。 まだ二十歳そこそこだろうか、久留米...
泉 鏡花

初級翻訳・海の使者 第3話

この橋は少し高いので、船に乗っているような心地がして、まずは胸をなでおろしたが、振り返ると、もうこちらも袂まで潮が来ていて、クラゲがひたひたと詰め寄せていた。が、さすがに、ぶくぶくとそこで留まった。そして、泡が呼吸をするような仇(あだ)っぽ...
泉 鏡花

初級翻訳・海の使者 第2話

真夏などは、潮が引いている短いあいだにすっかり乾ききって、壁のように固まり、稲妻のようなひび割れが入ることもある。そこへ一潮(ひとしお)、田越川から水が上がってくると、じゅうっと水がしみ込み、ひび割れからぶつぶつと泡が立って、やがて満々と水...
泉 鏡花

初級翻訳・海の使者 第1話

上 なんとなく、裏手の小川にかかる小さな橋を、向こう岸のヨシ原へ渡りかけようとして、思わず足を止めた。ふと、鳥の鳴き声がする。……いかにもやさしく、かわいらしい声で、「きりきり、きりりりり」と響く。その声は、すぐ耳のすぐそばで聞こえた。だが...
木の子説法

初級翻訳・木の子説法 第8話

「あれは鷺流(さぎりゅう)の狂言かい?」這い出てくる子は、動きがやたらに早い。まるで谷川の流れに枕でも流されていくかのように、ちょろちょろと這い出てくると、山伏の裾(すそ)にからみついた。本来なら、ここで毒キノコが傘の轆轤(ろくろ)を弾いて...
木の子説法

初級翻訳・木の子説法 第7話

ひとりでに、頭のてっぺんへと流れていく涙のなかで、網の上の初茸が、おなじように、むくむくと傘の軸を動かすと、ぼくはその下に、激しく燃えさかる炎を思い描いていた。みんな、ほんの一瞬の間だったけれど、その、くるくる回っている胸元が、ふわふわと浮...
木の子説法

初級翻訳・木の子説法 第6話

いまそのこぼれるにつけても、さかさに釣られた孤家の女の乳首が目に入って来そうで、従って、ご新姐の身の上に、いつか、おなじ事でもありそうでならなかった。――予感というものはあるものでしょうか。その日の中に、果しておなじような事が起ったんです。...
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