初級翻訳・人造人間戦車の機密 第2話

人造人間戦車の機密

それから十年――ついにこの砂漠の一角に、十年計画の重工業地帯が完成したのを機に、密使の油蹈天(ゆとうてん)をはるばる上海に遣わし、金博士の最新発明である「人造人間戦車」の設計図をだまし取らせたのであった。
今や工学士の油蹈天は、大任を果たして、めでたしめでたしとこの砂漠へ帰ってきたのである。
醤の喜びは、察するにあまりあるほどだった。
「おい、油学士。
見れば見るほどすばらしい製図ではないか」
醤は、どう褒めてよいか分からなかったので、まずは製図の見事なところを褒めることにした。
「はい。
それだけに、私の苦労のほどと言ったら、主席にもどうかよろしくお察しいただきたいものです」
「それはよく分かっているとも。
褒美には、何をやろうか。
カンガルーのくんせいはどうだ?」
「いや、カンガルーは動物園のようなにおいがしてダメでございます。
――いや、それはともかく、想像していた以上に、これは実に立派に描かれた製図でございますが、さらにその内容に至っては、まさに世界に並ぶものがない強力な兵器だと言ってよろしいかと存じます」
「それで、わしにはちょっと分からないところもあるから、お前、この図について報告してくれ。
いったい、『人造人間戦車』とはどんなものなのだ?」
とにかく大将たるもの、威厳を損なわないようにしつつも、秘密の仕組みを理解しておかねばならない。
「ははっ!
そもそも金博士の発明した人造人間戦車とはですね……」
油学士は、前後左右、それに頭の上まで見渡し、砂漠の真ん中の一本のユーカリの木の根元には、主席と自分の二人のほかには誰もいないことをしっかりと確かめた上で、
「……人造人間戦車とは、その……」
「早くいえ。
じらすなよ。
褒美は、どんな望みでもかなえてやるからな」
「はい、ありがとうございます!
さて、その人造人間戦車とは、実に、人造人間でありながら、同時に戦車でもあるのであります」
「わしにはさっぱり意味が分らんぞ」
「つまりですね、金博士の言うことには、ここに百人から成る人造人間の部隊があるとします」
「ふん。
人造人間隊かね」
「この人造人間隊が、きちんと隊列を組んで、静かに前進してまいります。
お分かりいただけますでしょうか」
「人造人間隊の進軍だね」
「はい。
このままほうっておけば、何日何時間たってもただの人造人間隊でございますが、必要に応じて、司令部から極秘の強力電波をさっと放射しますと、これがたちまち戦車に変形するのです!」
「そこがどうも難解だな。
極秘の強力電波を放射すると、なぜ人造人間隊が戦車になるのか。
お前の話を黙って聞いていれば、まるでタヌキやキツネのたぐいが一変して美しい女性に化けるのと同じように聞こえるぞ。
まさかお前、金博士から妖術でも教わってきたんじゃないだろうな」
醤主席の言葉は、油学士の自尊心を十二分に傷つけた。
「どうもそれはけしからんご発言でございます!
かりそめにも科学と技術をもって仕えている油学士であります。
そんな妖術など、いったい誰が……」
「ぷんぷん怒るのは後にして、説明をしたほうがいいじゃないか。
お前はすぐに腹を立てるから、出世が遅れるんだぞ」
主席にそうピシャリと言われ、油学士ははっと正気に返ったようだった。
「はっ、これは失礼いたしました。
では、その秘密の仕組みは、こうでございます。
たったいま申し上げた極秘の電波を人造人間隊に浴びせかけますと、その人造人間隊は、たちまちその……主席はフットボールをご覧になったことがございますか?」
「余計なごまかしは許さんぞ」
「ごまかしではございません!」フットボールの試合で、選手たちがパッと素早くスクラムを組むでしょう? つまり、あれと同じように、人造人間たちが一斉にガッチリとスクラムを組むのでございます。
そして、人造人間たちのスクラムによってあっという間に一台の戦車が組み立てられ、こいつが轟音をとどろかせながら、人造人間で作られたキャタピラを響かせて前進を始めるのです!
いかがでございますか。
これでもまだ、お気に召しませんか」

     3

 醤(しょう)主席は、今や機嫌が最高潮に達していた。
彼は毎朝早く起きると、砂漠の下にある防空壕をはい出し、そこに出迎えているお気に入りの常用戦車に乗り込み、もうもうと砂煙を蹴立てながら西へ向かい、重工業地帯へと出動するのであった。
そこではまた、得意の絶頂にいる油蹈天(ゆとうてん)学士が待ち構えていた。
彼はこの重工業地帯の長官という立場であり、かの金博士の発明した人造人間戦車の部品を作る監督として、それはそれは忙しい毎日を送っていた。
「どうじゃな、油学士。
どうも生産のスピードが遅いのではないかね」
 醤主席が到着するやいなや、決まって口にするのはこの言葉であった。
工場の中をまだ見もしないうちに、このお決まりのセリフをぶっ放すのが、主席得意のハッタリのやり方だったのである。
「え、とんでもございません。
仕事はものすごくはかどっております。
まあ、こちらをご覧ください」
 油学士は、サルが口に飴玉を含んだように頬をふくらませながら主席を案内していく。毎日歩くルートは少しずつ違っていたが、結局のところ、主席が最後ににこにこ顔で落ち着く場所は決まっていて、それはほかならぬ「人造人間戦車の主要な部品である人造人間」が、山のように積み上げられた倉庫の前であった。
(いやはや、いつ見ても素晴らしい眺めじゃのう)
 主席は心の中で、ものすごく満足感を味わうのだった。
そこには、出来立ての人造人間たちが、ピーンと体を硬直させたまま、ビールの空き瓶のようにズラリと並べられていた。
それは本当に、世にも珍しい光景だった。
「おい、油学士。
この人造人間たちは、もう動かせる状態になっているのかね?」
「いえ、まだでございます」
「なんだと。
動かないものをどんどん作って、どうするつもりだ」
「すべて合理的で効率的な大量生産(マス・プロダクション)で行っております。
人造人間を作るときには、まず人造人間だけをまとめて作るのが一番効率的なのです。
主席、どうか製作のことに関しましては、いつも申し上げております通り、すべて私にお任せ願いたいものです」
「任せるのもいいが、しかし、こんなに一気に作って万が一それが失敗作で、ちっとも動かなかったとしたら、そのときはいったいどうするつもりだ。
百万台もの数をまた最初からやり直すなんてことになったら、困り果ててしまうぞ。
それよりも、一台の人造人間戦車に必要な部品を一組だけ作ってみて、そこで試験をして、うまく動くことが確認できたら、次に第二の戦車を一組作るといったように、手堅く進めてもらいたいものじゃ」
 醤主席は、せっかくこれほど見事な重工業地帯を完成させても、かつて英米から売りつけられた役立らずの兵器に痛い目を見させられた経験を思い出し、また重慶で何度も味わった「不渡り手形のような当てにならない援軍の約束」の苦い思い出がよみがえってきて、どうしても何事も手堅く慎重に進めたがるのだった。
しかし、油学士の意見は真っ向から反対だった。
「どうかご心配には及びません。

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