その曲が長い余韻のうちに終わろうとする刹那、突然、奇妙な音が混じりました。
それは聴衆には何がなし、一種異様な戦慄を与えました。
……
が、次の瞬間には、何事もなかったかのように聴衆は拍手し出していました。
少女は何か少し呆気にとられたような様子でそれに対して礼をしていましたが、急に何かたまらなそうに顔をうなだれ、次の曲に入る前に、突然私達に背を向けて、演壇から退いていきました。
伴奏者の母親はそれに気づくと、何かはっとしたように急いで立ち上がり、その娘の後を追うようにして彼女自身も退いていきました。
それきり少女はもう私達の前に現れませんでした。
……
やがて若い男が出てきて、何かしきりに陳謝し始めました。「湿気のせいでヴァイオリンの音が狂ってしまい、V嬢は大変嘆いておりますが、もう今夜はこれ以上の演奏を続けることはできなくなりました」
その青年は、そのようなことを言っているようでした。
聴衆は呆気にとられたようにそれを聞いていましたが、事情がはっきりすると、静かに席を立つ人もいれば、激しく最後の拍手を送る人もいました。
大柄なアルト歌手だけが、ますます赤らんだ胸をして出てきて、みんなに挨拶をしたきりでした。
私は、その少女のことを思うと胸が締め付けられるような気持ちになり、椅子から立ち上がろうとしました。そのとき、ふと背後から一人の老紳士が、「またか」と言わんばかりに不機嫌そうに舌打ちをしながら、鳥打ち帽を手に握ったまま、五、六人の婦人たちの後について楽屋の方へずかずかと歩いていくのが見えました。
私はその父親らしき人の背中を見送りながら、なぜか自然と微笑みがこぼれるのを感じ、少しほっとした気分で会堂の外へと出ました。
暗がりに出ると、すぐそばを年老いた外国人の夫婦が、ほとんど同時に空を見上げながら「……little rain(少し雨が……)」と言い合いながら通り過ぎていきました。
なるほど、少し雨が降っていました。
会堂の前の、雨に濡れた広場を立ち去りがたく思いながら、さっきの若い男がたどたどしい英語で一生懸命に説明していた言葉の中に、「the violin is broken(ヴァイオリンが壊れた)」という言葉があったことをふと思い出しました。
あの妙に不吉な音のことです。人の魂を慰めるかのようにヴァイオリンが長く引き伸ばされた音の中に、どこからか不意に飛び込んできたあの奇妙な音。まるで最初に弾いた「悪魔のトリル」の中からでも、演奏者の心のわずかな隙間に紛れ込んでしまったかのような、そんな不意打ちにすっかり怯えてしまい、もうそのヴァイオリンを手に取ることさえできなくなっている少女。あの黒髪で、目の大きな、印象深い少女。――ああ、何もごまかすことのできない、それほど純粋な少女の心……。
私はこれまで、「少女らしい少女なんて、少なくとも自分にとってはもうこの世に存在しないのではないか」と考えがちでした。しかし今夜、久しぶりに一人の少女が、見事に「少女そのもの」になって見せてくれたこと。何よりもその音楽の妙技以上に感動しながら、少し雨の降る中を歩くことさえかえって心地よく感じ、いつものパイプを口にくわえることさえ忘れながら、私はわが家の方へ帰っていきました。
翌日も、私はまるで習慣になったかのように夕方のいつもの時刻に会堂の前を通りましたが、もうそこには自転車は乗り捨てられておらず、ヴァイオリンの音もかすかに漏れてくることはありませんでした。
けれど、私はその柵にいつものような格好で寄りかかり、パイプをふかしているだけで、すべての光景を完璧に蘇らせることができました。
いつの日か四葉のクローバーを探していた二人の老婦人の姿までが、まだありありと目の前に浮かんできます。
とりわけ昨晩、ヴァイオリンを弾いていた少女の姿は、それを最初から最後まで鮮やかに思い出させてくれるような気がします。
そして私は、それをもう忘れることはないでしょう。
……
そう思って感動を新たにしながらも、私は相変わらずつまらなそうな顔をして、パイプをふかし続けていました。
初級翻訳・四葉の苜蓿 第3話
四葉の苜蓿
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