初級翻訳・小公女 第30話

小公女

凍えていることも、お腹を空かせていることも、夜中まで勉強していることも、すべて知っております。子供たちが忍んで来ると、あの子はとても嬉しそうで、ひそひそと話したり、笑い合ったりしております。病気にでもなればすぐに分かりますから、そんな時には、できることなら駆けつけて看護して差し上げたいと思っております」
「だが君、大丈夫なのかい? 誰か来やしないか? あの子が突然戻ってくるようなことはないだろうね。もし僕たちがいるところを見つかったら、あの子はたまげてしまうだろう。そうなれば、カリスフォードさんのせっかくの計画も、水の泡になってしまうからね」

ラム・ダスはそっと戸口に身を寄せて立ちました。
「あの子以外、誰も来るはずはございません。今日は手籠を持って出かけましたから、なかなか戻ってはこないでしょう。それに、ここに立ってさえいれば、誰の足音だって梯子を登りきる前に聞こえますから、大丈夫です」
「じゃあ、しっかり耳を澄ませていてくれよ」
秘書はそう言うと、部屋の中を静かに歩き回り、そこにあるものを手早く手帳に書き込んでいきました。
彼はまず寝台に触れて、思わず声を上げました。
「まるで石のような硬さだ。あの子のいない間に取り替えておかねば。何か特別な方法で運び込まなくてはな。今夜はさすがに無理だろうが」
彼は汚れた寝具や、火の消えた炉などを見回し、それらの項目を書き込んだ一枚をノートから破り取ってポケットにしまいました。
「それにしても、妙なことを始めたものだね。誰がこんなことをしようと言い出したんだい?」
「実は、私が初めに思いついたのでございます。私は、あの子を尊敬しているのです。お互いに一人ぼっちでございますのでね。あの子はよく、自分の空想を忍んでくる友達に話して聞かせます。ある晩のこと、私も悲しい気持ちに打たれておりましたので、あの天窓の所に身を寄せて中の話を聞いておりますと、あの子は『この部屋がもっと居心地よくなったら、どんなに素敵だろう』と言っていたのです。話しているうちに、あの子はふとそのアイデアを思いついたのですよ」「ご主人様にそのことをお話しすれば、きっと『あの子の空想を実現させてやろう』とおっしゃるはずです」
「だが、あの子が寝ている間にそんなことができるだろうか。もし目を覚ましたりしたら……」
「私は猫のように足音を忍ばせて歩いてみせますよ。子供というものは、どんなに不幸なときでもぐっすり眠るものです。今までだって、入ろうと思えば、あの子に寝返り一つ打たせずに忍び込むことなど、いくらでもできたはずですから。誰かが窓から品物を渡してくれさえすれば、私は完璧にやり遂げてみせます。あの子はあとで目を覚まして、魔法使いでもやってきたのだろうと思うことでしょう」

二人はまたそっと天窓から脱け出していきました。二人が見えなくなると、ネズミのメルチセデクはほっとして、パン屑でも落としていかなかったかと、そこらを駆け回り始めました。

十五 魔法

セーラがお使いから帰ってくると、隣の家ではラム・ダスが鎧戸(よろいど)を閉めているところでした。セーラは鎧戸の隙間から、ちらりと部屋の中を覗きました。覗いた拍子に、もうずいぶん長いこと、あのような綺麗な部屋に入ったことはないな、と寂しくなりました。窓の中ではいつものように火が赤々と燃えており、インド人の紳士は相変わらず悩ましげに頭を抱えて座っていました。
「おかわいそうに! あんなふうにして、何を考えていらっしゃるのかしら?」
紳士が考えていたのは、次のようなことでした。
「もし、せっかくカルマイケル君がモスクワまで行ってくれても、その娘が我々の探している子供でなかったら、どうすればいいのだろうか」

セーラが家に入ると、いきなりミンチン先生に「遅い」と叱られました。料理番も(先生に)叱られたあとだったので、その腹いせに、ことさらひどくセーラに当たり散らしました。
「あの……何かいただけませんか?」
セーラは元気のない声で尋ねました。
「お茶は出がらしで、もう残っていないよ。お前のために温かいまま取っておいてやるとでも思っていたのかい?」
「私、お昼ご飯もいただいていないのです」
「戸棚の中にパンがあるよ」
セーラは古くなったパンだけを食べて、長い階段を登っていきました。いつまでたっても登りきれない気がするほど、セーラは疲れきっていました。少し登っては休み、また少し登っては休みました。やっと屋根裏部屋の近くまで辿り着くと、戸の下から明かりが漏れているのが見えて、うれしくなりました。またアーメンガードが来ているのでしょう。セーラは、まるまるとしたアーメンガードが赤いショールにくるまっているのを見るだけでも、侘しい部屋が少し温まるような気がして、うれしかったのです。

アーメンガードはセーラを見ると、寝台の上から言いました。
「セーラさん、帰ってきてくれてよかったわ。メルチセデクが、いくら追い払っても私のそばへやってきて鼻をくんくんさせるのよ。私、怖かったわ。メルチーは飛びついたりしないわよね?」
「いいえ」と、セーラは答えました。
「セーラさん、あなたすごく疲れているみたいね。顔色がとても悪いのよ」
「とても疲れちゃったわ」セーラは足の悪い台にぐったりと座り込みました。
「おや、メルチセデクがいるのね。かわいそうに、きっとご飯をもらいに出てきたのね。でも、今夜は一片も残っていないのよ。帰ったらおかみさんに、私のポケットには何にもなかったって伝えておくれ。あんまりみんなに辛く当たられたので、お前のことは忘れてしまってごめんね」
メルチセデクは、どうやら事情を察したようでした。満足そうではありませんでしたが、諦めたように足を引きずって帰っていきました。
「アーミー、今夜会えるとは思わなかったわ」とセーラは言いました。
「アメリア先生は伯母さんのところに泊まりに行かれたのよ。だから、いようと思えば明日の朝までだって一緒にいられるの」

アーメンガードは、天窓の下のテーブルを指差しました。その上には何冊かの本が積んでありました。彼女はがっかりしたように言いました。
「お父様がまた本を送ってくださったの」
セーラはたちまちテーブルに駆け寄り、一番上の一冊を手に取ると、手早くページをめくり出しました。もう一日の辛さなどはすっかり忘れていました。
「なんて素敵な本でしょう。『カーライルのフランス革命史』ね。私、これを読みたくてたまらなかったのよ」
「私、ちっとも読みたくなかったわ。でも、読まないとパパに怒られるの。パパは、私がお休みに家に帰るまでに、すっかり覚えさせようっていうつもりなのよ。私、どうしたらいいでしょう」
「こうしたらどう? 私が読んで、あとですっかりあなたに話してあげるわ。覚えやすいようにね」
「あら、うれしい! でも、あなたにそんなことができるの?」
「できると思うわ」「小さい人達は、私のお話をよく憶えてるじゃアないの」

「もし、あなたが憶えやすいように私に話して下さるなら、私、何でもあなたに上げるわ」

「私、あなたから何にもいただこうとは思わないけど、でも、この本は欲しいわ」

「じゃアあげるわ。

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