自動拳銃を取り出して、敵だと見えたものにぶっ放した。
触手がパッと吹っ飛んで、汚物が吹き出し、むかつくようなぜいぜいという音を出しながら、地面の穴の中に体と腕を引き込んだ。
片方のダチョウは、くっくっと鳴きながらゴルフシャフト並みの足で辺りをふらつき不意に、俺に顔を向けた。
俺はとっさに銃を構え、お互い睨みあった。
火星人は、本当は鳥じゃない。
ちょっと見ると鳥のようだが、そうじゃない。
なるほどくちばしが一対あり、羽根のような付属物が少しあるが、本物のくちばしじゃない。
少し自由が効き、端から端まで緩やかに曲がり、くちばしと鼻の中間のようなものだ。
足指は4本、それを手と呼べばだが、4本の指があった。
体はちょっと丸っこくて、長い首の上にちっちゃな頭とくちばしがあった。
背丈は俺より三くらい高かった。
そう、プッツが見た通りさ」
技術屋のプッツがうなずいた。
「ああ、見たであります」
ジャービスが続けた。
「こうして、我々はお互いに睨みあった。
すると、やつは鳴き立てながらパタパタ体を動かして、俺に素手を差しのべた。
俺は、友情の身振りだと察した」
「お前の鼻を見て、兄弟だと思ったんだろうよ」
とハリソン隊長が茶化した。
「まったく。
隊長はいらんことを面白がるんだから。
とにかく俺は銃を置いて気にするなというようなことを言った。
すると、やつが近づいてきて、我々は友達になった。
その頃になると太陽がかなり低くなって、火を焚くか、温調寝袋に入った方が良いと思った。
俺は火を焚くことにした。
スーリ砂漠の崖下に良い所を見つけた。
ここなら岩が背中に熱をいくらか反射するかもしれない。
乾燥した火星の植物をちぎり始めた。
相棒が察して、一抱え運んできた。
俺がマッチに手を伸ばしたが、この火星人は自分の袋に手を突っ込んで、何か赤い石炭のようなものを1つ取り出した。
ひと触りで火が燃え盛った。
みな知ってるだろう、火星大気中の着火作業は。
その袋だがね、作り物なんだよ、君達。
端っこを押すとパカンと開き、真ん中を押すとピッタリ閉じて線が見えないのさ。
ジッパーより優れている。
しばらく火を見つめ合っていたが、この火星人と何とか会話をしようと思った。
俺は自分を指してディック。
やつは意味をすぐ理解し、指爪を俺に向けてティックと繰り返した。
それから俺はやつを指差した。
やつはウィールとかなんとか、鳴き声を返した。
アクセントは真似できない。
うまく行きつつあった。
名前を印象づけるために俺をディック、やつを指してトウィールと繰り返した。
ここで行き止まった。
やつは嫌な響きのクックック音やポッポルーのようなことを言った。
これはほんの始まりだった。
俺はいつもティックだったが、やつは自分のことは時々、トウィールだったり、ポッポルーだったり、ほかに16種類もの雑音を出した。
ほんとに通じない。
岩、星、木、火、あらんばかり試したが、1語も通じない。
ものの2分も続かない。
あれが言葉かどうか、俺は化け学出身だからなあ。
遂にあきらめて、やつをトウィールと呼ぶことにした。
そして、そうなりそうだった。
だが、トウィールは俺の言葉をちょっと掴んでおり、2、3覚えていた。
これはすごいことだ。
言葉を覚える場合、徐々に慣れなければならないからね。
しかし俺はやつの言葉が理解できなかった。
微妙なアヤを聞き逃したのか、あるいは単に同じ事を考えていなかったか、どっちかだ。
きっと後者だ。
信じる訳がほかにもあった。
しばらくして言葉学習をあきらめて、算数を試みた。
俺が地面に2+2=4と書いて、それを小石で表示した。
すると、トウィールは考えて、3+3=6と俺に教えた。
再びうまくいったようだ。そこで俺はトウィールが少なくとも小学校程度の教育を受けていると知って、太陽の円を描いて、最初にこれを指し示し、次に沈み行く太陽を指差した。
それから水星、金星、母なる地球、火星を描き、最後に火星を指差しながら、片手で辺り一面を払い、ここが火星だということを全身で身振りした。
俺の故郷が地球だということを教えようとした。
トウィールは俺の絵がすっかりわかった。
くちばしで突っついて、大袈裟にクワッ、クワッと鳴いて、火星にダイモスとフォボスを、地球に月を書き加えた。
何の証明か分かる? トウィール族は望遠鏡を使う文明人ということさ」
ハリソン隊長がピシャリ。
「そうじゃない。
月はここから5等星に見えるぞ。
肉眼で動きも見えたはず」
「月はその通りですね。
でも、重要点を見逃してます。
水星は見えない。
だがトウィールは水星を知っていた。
月を2番目に書かないで3番目に書いた。
もし水星を知らなければ、地球を2番目、火星を4番目でなく3番目でなく3番目に書きますよ。
そうでしょ」
「ふん」
とハリソン隊長が鼻白んだ。
ジャービスは続けた。
「とにかく、授業を行った。
順調にいっており、私の考えが通じたようだ。
俺は絵の地球を指差し、次に自分を指差して、さらに念を押して自分を指差し、それから夜空に青々と輝いている地球を指差した。
トウィールがクワッ、クワッと興奮したので、俺は解かったんだと思った。
やつは上下に飛び跳ねて、突然自身を指差し、それから空を差し、これを繰り返した。
自分の腰を指し、次にアークトゥルス、頭の次にスピカを、足の次に星々を指し示した。
俺はただ唖然と見とれた。
それから、不意に、ものすごく跳ねた。
いやはや、なんという跳躍だ。
星明かりに向かって一直線、二十フィートたっぷり。
夜空に姿が見え、宙返りをうち、俺をめがけ頭から突っ込んできて、くちばしで槍のように着地した。
砂に描いた太陽円の中心を完璧に突き刺した。
大当たり」
隊長が叫んだ。
「馬鹿な、くだらん」
「私もそう思った。
口をぽかんと開けてみている間に、やつは砂から頭を引き抜いて立ち上がった。
このときは、やつが勘違いしたと思って、ばかばかしい説明を初めから繰り返した。
だが結果は同じ。
トウィールは鼻先を絵の真ん中に突き立てた」
「きっと、宗教儀式だろう」
ジャービスもあいまいに、たぶんと返事して続けた。
「ともかくそこまでだった。
ある所までは考えが通じ合ったがそれから出来ない。
何かが異なり関連がない。
きっとトウィールも俺が馬鹿だと思っちゃいないだろう。
見方が異なる世界にいるだけだ。
おそらくやつの見方も事実だろう。
だが同じにならない、それだけのこと。
でも、どんな障害があっても俺はトウィールが好きだ。
やつも俺が好きだと妙な確信をした」
「ばかだ、ほんとに馬鹿だ」
と隊長が繰り返した。
「そう? 待ってください。
時々考えるんだが、たぶん……。
とにかく遂にあきらめて温調寝袋に入って眠った。
たき火はそれほど体を温められなかったが、寝袋は完璧だった。
寝袋を閉めてから5分も経つと蒸し暑くなった。
少し開けたとたん、やったぜ! マイナス六十度の空気が俺の鼻を直撃、そのときロケット墜落の際に受けた傷におかしな凍傷ができちゃった。
俺が寝ている間にトウィールが何をしてたか知らない。
初級翻訳・火星旅行 第3話
奥 増夫
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