そこで、やや逃げ腰になりながら目を凝らしてみると、それは喧嘩ではなく、一人の洋服姿の紳士が警察官に捕まっているところでした。
二言三言怒鳴っているうちに、紳士はあっさりと腰縄をかけられてしまいました。
二人は無言のまま仲良く並んで、交番の方へ歩いて行きました。
紳士は、それでも歩きながら春用の外套(がいとう)で縄を隠し隠ししていました。
真っ暗な公園には、彼らの跡を追う野次馬さえいませんでした。
同じベンチに、一人の労働者風の男が何事もなかったかのように、ぼんやりと考え事をして座っていました。
紋三は不規則な石段を上って、ある丘の上に出ました。
まばらな木立に囲まれた十坪ほどの平らな場所に三、四脚のベンチが並んでいて、そこにポツリポツリと銅像のように、三人の無言の休息者が点在していました。
時々赤く煙草の火が光るばかりで、誰も動きません。
紋三は勇気を出して、そのうちの一つのベンチへ腰を下ろしました。
もうだいぶ前に映画館なども終わってしまい、華やかなイルミネーションはほとんど消えていました。
広い公園には、まばらな常夜灯の光があるだけです。
賑やかな時にはどこまでも響いてくる木馬館の古風な楽隊や、映画街の人のざわめきなども、もうすっかり消えていました。
盛り場だけに、この公園の夜更けは一層物寂しく、変てこな凄みさえ感じられました。
腕時計はほとんど十二時を指していました。
彼は腰を下ろすと、それとなく先客たちを観察し始めました。
一つのベンチには口ひげを蓄えたしかめっ面の洋服の男、一つのベンチには帽子もかぶらない、魚屋の親方とでもいえそうな遊び人風の男、そしてもう一つのベンチには、ハッとしたことには、先ほどの奇怪な一寸法師の奴が、ツクネンと腰かけていたのです。
「あいつ、さっきから影のように、僕の跡をつけていたんじゃないだろうか」
紋三はなぜか、ふとそんなことを思いました。
なんだか薄気味が悪かったのです。
その上困ったことに、常夜灯がちょうど紋三の背後にあって、それが木の枝を通して一寸法師のまわりだけを照らしていたので、この畸形児(きけいじ)の全身が比較的はっきりと見えてしまいました。
モジャモジャした濃い髪の毛の下に、異様に広い額がありました。
顔色が土気色をしているのと、口と目が釣り合いを失って、馬鹿に大きいのが目立っていました。
それらの顔のパーツは、たいていは大人びてすましているのですが、時々突然、痙攣(けいれん)のように顔中の筋肉がひきつることがありました。
何か不快なことを感じて顔をしかめているようでもあり、見方によっては苦笑いしているのかとも思われました。
その時、顔全体が足を伸ばした女郎蜘蛛(じょろうぐも)のような感じを与えました。
荒い飛白(かすり)の着物を着て腕組みをしているのですが、肩幅が広い割に手が非常に短いため、両方の手首が二の腕まで届かず、胸の前で刀を構えたような形でチョコンと組み合わさっていました。
体全体が頭と胴だけでできているようで、足などはほんの申し訳程度についているようでした。
高い朴歯(ほおば)の足駄(あしだ)をはいた太短い足が、地面から二、三寸のところでプラプラしていました。
紋三は、自分自身の顔が影になっているのを幸い、まるで見世物を見るような気持ちで相手を眺めました。最初は少し不快に感じていたけれど、見ているうちに、紋三はこの怪物にだんだんと興味をひかれるようになっていました。
おそらく曲馬団(サーカス)か何かで働いているのでしょうが、この奇妙な体をした男は、あの鉢のように張り出した大きな頭の中に、一体どんな考えを詰め込んでいるのだろうと思うと、不思議な気分にさせられました。
一寸法師はさっきから、何かを盗み見るような目つきで、ずっとある方向を見つめていました。
その視線の先を追っていくと、影になった方のベンチに座っている二人の男に向けられていることが分かりました。
洋服姿の紳士と遊び人風の男は、いつの間にか同じベンチに並んで、ボソボソと話し合っていました。
「思いのほか暖かいですね」
洋服の男が口ひげをなでながら、含みのある声で言いました。
「ええ、ここ二、三日はだいぶ暖かいですからね」
遊び人風の男が、小さな声で答えました。
二人は初対面のようですが、何ともちぐはぐな組み合わせでした。
年齢は二人とも四十歳近くに見えましたが、一方はお役人のような堅苦しい男で、もう一方は生粋の浅草っ子といった風情です。
それが、もう電車も終わろうかという夜更けに、のんきに天気の話などしているのは、どう考えても不自然でした。
彼らにはきっと、お互いに何か企んでいることがあるに違いありません。
紋三は、好奇心がどんどん高まっていくのを感じました。
「どうです、景気の方は」
洋服の男は、相手の太った体をじろじろと見回しながら、どうでもよさそうに尋ねました。
「そうですねえ……」
太った男は、膝の上に両肘をついて、その上に首を垂れながら、モゾモゾと答えました。
そんなつまらない会話が、しばらく続いていました。
紋三は、一寸法師にならって、長い間その二人から目を離さずにいました。
やがて洋服の男が「やれやれ」と伸びをしながら立ち上がったかと思うと、不思議なことに、紋三たちのいる方をじろじろと眺めながら、再びさっきと同じベンチの、太った男のすぐそばに腰を下ろしました。
太った男はそれに気づくと、一瞬だけ洋服の男を見て、すぐに元の姿勢に戻りました。
そして、頭の毛が薄くなった四十歳の男が、何だか恥ずかしそうな、媚びるような仕草を見せました。
洋服の男が突然、腕を伸ばしました――それはまさに、猿の手のように長く伸びたように見えました――そして太った男の手を握ったのです。
それから再び、しばらくボソボソとささやき合うと、二人はタイミングを合わせるようにしてベンチから立ち上がり、まるで腕を組むかのような距離感で、山を下りていきました。
紋三は寒気を感じました。
妙な例えですが、以前、衛生博覧会で蝋(ろう)細工の人形を見た時に感じた寒気と、よく似ていました。
不快とも恐怖とも言えない、言いようのない気持ちでした。
さらに悪いことに、目の前の薄暗い場所で、あの一寸法師が、降りていった二人の背中を見送りながら、クックッと笑い出したのです。
(紋三はその異様な笑い顔を、その後長い間、忘れることができませんでした)
その奇形児は、まるで小娘のように手を口に当てて体を少しねじり、クックッといつまでも笑い続けていました。
紋三は、いくらもがいても逃げられない悪夢の世界に閉じ込められたような気分になりました。
耳の奥で、ドドド……と、遠くで鳴り響くような音が聞こえていました。
しばらくすると、一寸法師は滑稽な仕草でベンチから降りると、ヒョコヒョコと紋三の方へ近づいてきました。
何か話しかけられるのではないかと紋三は思わず身を固くしましたが、幸い彼が座っていた場所は大きな木の幹の影になっていたため、相手はそこに人がいることにも気づかない様子で、そのまま彼の前を通り過ぎて、別の出口の方へ歩いていきました。
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