初級翻訳・ポラーノの広場 第7話

ポラーノの広場

すると、みんなは一斉に騒ぎをピタッとやめ、ジロジロと怪しむような目でぼくたちを見つめました。
それから、デストゥパーゴの方をチラッと見ました。
するとデストゥパーゴは、ちょっと首をかしげて考え込みました。
どうやらぼくのことをどこかで見たことがある気はするけれど、どうしても思い出せないという顔をしています。

そのとき、そばにいた夏用のフロックコートを着た男が、デストゥパーゴの耳元に何かコソコソとささやきました。
デストゥパーゴは、ぼくを不機嫌そうにひとにらみしてから、しかたがなさそうにうなずきました。

すると、同じくフロックコートを着たテーモがやって来ました。
そのテーモは、取っ手のついたガラスの杯を三つも持ってきて、何も言わずに、まずぼくへ、そしてミーロ、ファゼーロへと順に手渡していきました。
ファゼーロに渡すときには、何も言わずにものすごい目でにらみつけました。
ファゼーロは、あまりの迫力にたじたじと後ずさりしました。給仕がそばから、ラベルのない大きな瓶から、さっきまでみんなが飲んでいたお酒を注ごうとしました。
ぼくはそこで言いました。
「いや、ぼいたちはね、お酒は飲まないんだから炭酸水をくれよ。」
「炭酸水はありません。」給仕が言いました。
「それならただの水をくれ。」ぼくは言いました。
どういうわけか、みんなはシーラッとしたままで、穴が空きそうなくらいぼくたちのことばかりジロジロ見ています。
ぼくも少し恥ずかしくなってしまいました。
「いや、デストゥパーゴさまは、人に水をごちそうしたりはしないんだよ。」テーモが言いました。
「ごちそうになろうってわけじゃないんだ。野原の真ん中で、ツメクサの明かりを数えてやって来たこのポラーノの広場で、ぼくはのどが渇いて水が飲みたいんだ。」
もうここまで来てしまったんだから仕方ないと腹をくくって、ぼくはハッキリと言いました。
「ツメクサの明かりだって、わっはっは!」テーモは笑い出しました。
デストゥパーゴも笑いました。
みんなもそれに釣られて笑いました。
「ポラーノの広場もな、お気の毒だがデストゥパーゴさまのもんなんだよ。」テーモが静かに言いました。
そのとき、山猫博士が言いました。
「よし、よし、まあ好きなら水をやっておけ。しかしどうも、水を飲むようなやつらが来ると、ポラーノの広場もしらじらしくなっちまうもんだな。」
「はい。」テーモはペコリと頭を下げてから、それからそっとファゼーロに言いました。
「おいファゼーロ、一体なんで出てきやがったんだ。さっさと消え失せろ。家に帰ったら立てないくらい引っ叩いてやるからそのつもりでな。」
ファゼーロはまた一歩、タジタジと後ろに下がりました。
「その子どもは何だ?」デストゥパーゴが尋ねました。
「ロザーロの弟でございます。」テーモが頭を下げて答えました。
するとデストゥパーゴは返事をせず、向こうを向いてしまいました。
そのとき、楽団が何やら民謡風の曲を演奏しはじめました。
みんなはまた輪になって踊りはじめようとしました。
するとデストゥパーゴが、
「おいおい、そんな曲じゃなくて、あの『キャッツホイスカー』ってやつをやってもらいたいね。」と言いました。
すると、チェロを持った楽団員が、
「あの曲は、いま楽譜がないものですから……」と言いました。
するとデストゥパーゴは、もうすっかり酔っぱらっていましたが、
「やれ、れ、やれ、やれと言ったら、やらないのか!」と怒鳴りました。
楽団員たちは仕方なく、みんな同じ思い思いの調子で、『キャッツホイスカー』を演奏しはじめました。
まわりの人たちも仕方なく踊りはじめました。
すると、デストゥパーゴも踊りだしました。
だけどそれは、みんなといっしょに楽しく踊るのとは違って、わざとみんなの邪魔をするようにウロウロと動き回るのです。
みんなはすっかり呆れてしまい、だ処踊るのをやめて、デストゥパーゴのまわりにぐるっと立ち止まってしまいました。
するとデストゥパーゴは、たった一人でおどけたようにダンスを踊りだしました。
しまいには、みんなの足を踏むような格好で近づいていったり、いきなり喧嘩を売るみたいに飛び跳ねたりするので、まわりの人たちはそのたびにキャーキャーと慌てて逃げ出しました。
さっきの夏用フロックコートを着た紳士が、心配そうに手をモミモミしながら何か言おうとしたのですが、デストゥパーゴはそれさえも睨みつけて引っ込ませてしまいました。
楽団もしばらくは我慢して演奏していましたが、とうとう呆れて演奏をやめてしまいました。
するとデストゥパーゴも、疲れたように椅子にドサッと座りこみ、
「おい、酒を注げ!」と言いながら、またお酒を立て続けに2杯グイッと飲み干しました。
すると、ミーロの仲間らしき若者が二人でやって来て、ミーロに言いました。
「おいミーロ、お前もせっかく来たんだから、一つ歌ってみんなに聴かせてくれよ!」
「みんなさっきから歌ったり踊ったりして、疲れているんだからさ……」
ミーロは「ダメだよ!」と言ってその手を振り払いましたが、実は来るときから歌いたくてうずうずしていたのです。ことに楽団の人たちが演奏してくれるなら伴奏してもらおうと、すでに身構えていたので、ミーロの顔はすっかり真っ赤なバラ色になり、目はキラキラと輝き、息も荒くなっていました。
ぼくも思わず、
「やれやれ、思い切って立派にやってやれ!」と言いました。
するとミーロはついに決心したように、いきなり襟元をグッと掻きはだけて、ハンノキの下にある空き箱の上にピョンと飛び乗りました。
「何をやりましょうか?」チェロ弾きの男が笑いながら尋ねました。
「『フローゼントリー』をやってください!」
「『フローゼントリー』か、楽譜もないしなぁ、それに古い歌だなあ……」
楽団員たちは笑い顔で見合わせ、しばらくヒソヒソと相談していましたが、
「それじゃあ、クラリネットのやつだけが知っているから、クラリネットと、それから小太鼓でリズムだけ合わせるからさ、それでよかったら二節目からついて歌ってくれよ」と言いました。
まわりのみんなはパラパラと手を叩いて喜びました。
テーモも首をかしげて、どんなものか聴いてやろうというふうに構えました。
楽団が演奏を始めました。
ミーロは力強く歌いはじめました。「けさの六時ころ    ワルトラワーラの
 峠をわたしが     越えようとしたら
 朝霧がそのときに   ちょうど消えかけて
 一本の栗の木は    後光をだしていた
 わたしはいただきの  石にこしかけて
 朝めしの堅ぱんを   かじりはじめたら
 その栗の木がにわかに ゆすれだして
 降りて来たのは    二疋の電気栗鼠
 わたしは急いで……」

「おいおい、間違っちゃいけないよ!」
山猫博士がいきなり大声で怒鳴りました。
「えっ、何がですか?」
ミーロはびっくりして言いました。
「今朝、ワルトラワーラの峠に電気栗鼠(でんきりす)なんかいるわけがないだろう。それはきっとイタチの間違いだ。もっとよく頭を使って歌ってもらいたいね」
「そんなこと、どっちだっていいじゃないか!」
ミーロは怒ってステージから降りてしまいました。

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