つまり、ここは月世界なのだから、地球に比べて重力は六分の一しかないのだ。
地球上で十キロのものしか持ち上げられない者でも、この月世界に来れば、なんと六十キロの大岩石を軽々と持ち上げてしまうことになる。
地球上の六倍の力持ちになってしまうというわけだ。
だから、第五斥候隊の隊員たちは、誰も彼も、二百キロぐらいの大岩石を平気で投げ飛ばしてしまうほどの力持ちばかりが揃っていることになるわけである。
それなら、襲いかかってきた怪物のほうでびっくりしてしまうのも無理はない。
勝ち誇った第五斥候隊からの報告は、まだ続いていた。
「……こうして怪物の一団も参ってしまったかと思われた時、はるかに救援の二隊が近づいてくるのが見えたため、これ以上は戦い切れないと判断したのか、一斉に逃げ出し始めた。
思うに、風間、木曾の二人の隊員が行方不明になったのは、この怪物たちのし仕業に違いないと疑われるため、わが隊は到着した救援隊とともに、時間を置かずにただいまこれを追跡中であります」
「なるほど」
幕僚がうなずいて、辻艇長の方を見ると、
「火星人は、あまり力持ちではないと見えますな」
「ふむ、火星は地球によく似ているが、重力は地球に比べて三分の一ほどだからな。火星人たちは月に来たら重力がだいぶ減ったので、自分が急に力持ちになったように思い込んでいたのだろう。しかし、地球人が月に来た場合に比べたら比べものにならんよ」
辻中佐がそう言った。
そして、
「追跡しているのはいいが、それから先はどうなったかな?」
そう言った時、まるでそれが合図だったかのように、またしても第五斥候隊からの報告が入ってきた。
「第五斥候隊報告。
わが隊は怪物の一団を追跡して(この怪物たちが火星人であることを、あとから到着した救援隊から知らされた)、アメ山を越えて、その向かいのヒイラギ山のあたりまで進んだ時、突然そのヒイラギ山の陰から巨大な皿のようなものが空中に舞い上がるのを目撃した……!」
「うむ、それが第四斥候隊の乗った火星人の乗り物だったのだ」
艇長は、くやしそうに唇をかんだ。
あと一刻早ければ間に合ったかもしれないのに――。
先ほどの第四斥候隊の報告と合わせて考えてみると、この第五斥候隊に追われて逃げてきた火星人たちを、第四斥候隊の方は自分たちを襲撃しに来た敵だと思い込んで、すべての出入口を閉ざした。その瞬間、この皿のような乗り物が勝手に飛び出してしまったのだ――ということがわかった。
さて、それでは火星人たちはどうなったのだろうか。
報告はさらに続いていた。
「……思うに、この奇怪な皿のようなものは火星人の飛行機械らしく、わが隊に追いつかれそうになって逃げる火星人を見て、この仲間たちを助ける余裕もなく、あわてて彼らを置き去りにしたまま逃走したもののようです」
この報告がまったくの見当違いであることは、読者のみなさんはすでに御存じのことだろう。
しかし第五斥候隊は、まだその裏側の事情をまったく知らないのだから、そう勘違いしてしまったのも無理のないことだった。まさか、その火星の宇宙船の中に、仲間である第四斥候隊と、風間、木曾の二人の少年が乗っているとは、夢にも思っていなかったのだから――。
「……このヒイラギ山のがけから飛び立つ宇宙船を見て、あの火星人たちの驚きあわてぶりは尋常ではなく、追跡していた私たちも思わず苦笑してしまうほどでした」
そうかもしれない。
火星人たちもまた、第四斥候隊が中にいることなど知るはずもなかったのだから。
火星人、弱る
第五斥候隊の報告は、まだ続いていた。
「……こうして火星人たちがパニックになっている間に、宇宙船は一刻も休むことなく上昇を続け、ついに大空高く消え去ってしまいました……」
「ああ……」
幕僚は、辻艇長の顔をちらりと盗み見て、小さくため息をついた。
辻艇長の横顔には、第四斥候隊を心配する色が、ありありと浮かんでいた。
「仲間の宇宙船に飛び去られ、月の上に置き去りにされた火星人たちは、すっかり元気をなくして、ついに全員十匹がわが隊に降伏しました。なお、驚くべきことに、彼らは流暢な日本語を話すことが判明しました。わが隊はこれより彼らを連行し、ただちに帰還します。終わり」
これで、第五斥候隊からの報告は終わった。
「ふーん、宇宙船に置いてきぼりを食った彼らは、ついに参ったと見えるな。どんな連中が来るのか、見ものだな」
辻中佐は幕僚を見かえって、そう言った。
「はっ。
――それでは、第一、第二、第三の各斥候隊にも帰還を命じましょうか」
「うむ、そうしてくれ。それから、宇宙船に乗っている第四斥候隊とは、まだ連絡が取れるか?」
「はっ。
おい無電員、第四斥候隊の方はどうだ。
何か連絡はあったか?」
「まったくありません。……あ、監視灯がつきました!」
「第四斥候隊か!?」
「そうであります!」
無電員はそれだけ言うと、また受信機にかじりついた。
「第四斥候隊報告。
わが隊はこの奇妙な宇宙船に乗って、一路火星に向かいつつある模様です。
飛行中にこの宇宙船を調べてみたところ、思いがけず火星人が一人だけ取り残されているのが見つかりました。
風間少年の報告によれば、この火星人は日本語を話すとのことなので、さっそく事情を問いただしたところ、次のことがわかりました。
一、この宇宙船は、火星と月の間をすでに何往復もしているものであること。
二、取り残された火星人はただの給仕であり、残念ながらこの宇宙船を再び月に戻す方法は知らないようであること(なお、船内をくじらなく調べましたが、エンジンのようなものは一切見当たりません。想像するに、この宇宙船は火星と月の間の引力を利用して飛んでいるものと思われます)。
三、したがって、われわれは火星に行く以外にどうしようもないこと。
四、この火星人の話によれば、火星人たちは私たちに危害を加えてくることはおそらくないだろうとのこと。
終わり」
「まあ、それが本当なら安心だが……。
しかし、火星の宇宙船が月から帰ってきたと思ったら、いざ着いたときに中から火星人ではなく地球人がぞろぞろ現れたりしたら、現地の火星人たちがびっくり仰天して、どんな騒ぎを起こすか分かったもんじゃないぞ」
「はい。
――では第四斥候隊に連絡して、火星に着いたらまずその火星人の給仕だけを外に出し、現地の火星人たちによく説明させてから、そのあとで自分たちも降りるように伝えましょう」
「そうだ、そう伝えてやってくれ」
艇長は、幕僚の意見に大きくうなずいた。
そうしている間にも、呼び戻された斥候隊たちが、続々と帰ってきた。
戻ってくると、彼らはすぐにこの噴行艇(ふんこうてい)アシビキ号の故障修理へと全力であたった。
やがて最後に、第五斥候隊と、その救援に向かった二つの部隊が、奇妙な甲虫(こうちゅう)に似た、人間くらいの大きさの火星人を十人連れて帰ってきた。
火星人たちは、そのいかめしい見た目とは裏腹に、自分たちの宇宙船が飛んでいってしまったせいで、すっかりしょぼんと肩を落としている様子だった。
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