初級翻訳・怪星ガン 第24話

怪星ガン

「た、助けてくれ、助けてくれ!」
警報の音に混じって、ハイロの今にも死にそうな叫び声が続きます。
「これは大変だ!」
テッド隊長はケネデー軍曹に目配せをすると、椅子から立ち上がって三根夫の後を追おうとしました。
「お待ち、テッド君。ここが重大なときだ。軽はずみをしてはいけない。動いてはならない」
サミユル先生が二人を押しとどめました。
「ですが先生、奥の方で何か騒動が起きているに違いありません」
「いや、放っておきなさい。余計なおせっかいをすると、ガン人は喜ばないのだ。われわれは捕虜なのだから、控えなくてはならない」
「しかし先生、あの通り死にそうな声を上げている。それに三根夫君も飛び込んでしまった。少年を見殺しにはできません。助けてやりたいのです」
テッド隊長は、居ても立ってもいられない様子でした。
「隊長、わたしが代わりに行ってきますから、お任せください」
「おお、帆村君。君が行ってくれるのか……」
「たいしたことではないと思います。これでしょう」
帆村は卓上を指さしました。それは三根夫が座っていた席のテーブルの上です。そこに、小さな虫かごのようなものが一つ置いてありました。
「なんだい、これは……」
「この籠の中にいたものが、騒動を引き起こしたのでしょう。サミユル先生、この国には人間以外の動物はたくさんいますか?」
「あまりいないねえ」
「ねずみなんかはどうですか?」
「ねずみ? ああ、ねずみか。ねずみは見かけないね」
「それでわかりました。隊長、三根夫君がこの籠に入れて飼っていた白い南京ねずみが、中から逃げ出して奥へ飛び込み、ハイロを驚かせたのだろうと思いますよ」
「まさか。そんな可愛い小ねずみに驚くようなことはないだろうに」
だが、それは本当のことでした。帆村が奥へ行ってみると、料理場に違いない部屋で、三根夫が這いつくばって、一匹の南京ねずみを一生懸命に追い回していたのです。
その小ねずみがツツーと走るたびに、棚の上から食器などがガラガラと落ちたり、カーテンがベリベリと破れたり、床の上に大きな物が落ちたような音がしたり、さらには箒(ほうき)が宙を舞ったりしました。これらの不思議な現象は、みんなハイロが驚いて逃げ回り、騒ぎ立てることで引き起こされていたのでした。
「ハイロ君、怖がらなくていいよ。その小さい白い動物は、わたしたち地球の世界では一番可愛がられる動物なんだ。一番おとなしくて、賢いのだよ。君は少しも恐れることはない」
帆村が落ち着いた声で、姿の見えない相手に話しかけました。その効果はありました。ハイロの声が聞こえました。
「本当に大丈夫ですか? わたしに危害を加えるようなことはありませんか? 魔物ではないのですね?」
「そうだとも。今も言ったように、地球の世界ではみんなに可愛がられている、一番おとなしくて賢い動物なんだ。南京ねずみというのだよ。三根夫が飼っていたのが、さっき籠から逃げ出したのだ。見ていたまえ。三根夫がその南京ねずみを捕まえたら、君のためにいろいろと面白い芸当を見せてくれるだろう。そのときは腹を抱えて大笑いするといい」
「そうですか。本当ですか?」
ハイロの声には、安心の響きが戻っていました。

宇宙戦争の心配をよそに、テッド隊長の一行はそこを引き揚げることにして、サミユル先生に挨拶を述べました。
「では先生、またお目にかかりましょう。一度わたしの艇までおいでを願いたいと思いますが、いかがでしょう」
「ありがとう。それは相談をした上でのことにしましょう」
「誰に相談なさるのですか?」
「そりゃあ君、わかっているだろう」
サミユル老師は悲しい目つきをしました。そこでテッド隊長は、心ひそかに思いました。
(なるほど。この怪星ガンの国は、われわれにとって極楽世界のように見えるが、喜んでばかりもいられないんだな。先生は何かもっと重大なことを知っていて、わたしに話したいと思っているのだが、それが話せないらしい。よろしい、それではわれわれの手で、怪星ガンの秘密を一日も早く探し当てて差し上げよう。先生、もうしばらく辛抱してください)
テッド隊長は老師に対して、心の中でそう誓いました。いよいよ別れの握手をしたあとで、隊長はもう一言付け加えました。
「先生が率いておられる『宇宙の女王』号を、ぜひ見せていただきたいものですね。明日あたりいかがでしょう」
「残念ながら『宇宙の女王』号を君に見せるわけにはいかない。あれはもう、この国へ寄付してしまったのだ」
「寄付ですって?」「それはもったいないことをされましたね。それでは先生や隊員のみなさんは、地球へ帰るための乗り物もなくなってしまうのではありませんか」

「その通りだ。わしは二度と地球へ帰るつもりはない」

「えっ。それはまた、どうして……」

「わしは、この国でずっと長く暮らすつもりだ。きみたちもそのつもりでいたほうがいいと思うね」

「いいえ、私たちはどうしても地球へ戻ります。それに、このような不思議な『怪星ガン』の国を見たからには、一日も早く地球へ戻って、全世界の人々に報告してやらなければなりません。そしてそれは同時に、警告でもあるのです。地球の人々は、自分たち人間こそが宇宙で一番すぐれた生物だと思い込んで、うぬぼれていますからね。それに対して一日でも、一時間でも早く、怪星ガンの存在を知らせて警告する必要があるのです」

「待ちなさい。きみの考えは無理ではないが、きみはまだこのガン人の国について、ほんの少ししか知らないのだ。そんな状態では、ガン人の国の真実を地球へ伝えることなどできないではないか」

「それはそうですが……」

「間違った情報を伝えてしまうと誤解が生まれ、かえって大事件を引き起こすことになる。宇宙戦争なんてものは、どんなことがあっても起こしてはならないからねえ」

サミユル先生は、熱心な面持ちでそう言いました。

「ですが、このような警告は一分でも一秒でも早く出さなければなりません。もし地球人類が不意を突かれるようなことがあれば、負けてしまいますからね」

「ほう。きみはもう、怪星ガンと地球とのあいだに宇宙戦争が起こるものと考えているのかね」

「はい。考えています。たしかにその危険はあります。困ったことですが、どうにもなりません。運命として決まっていることなのでしょう」

「いや、わしはそうは思わない。きみはもっと考え直すべきだ。そしてガン人というものを、もっと深く理解しなくてはならぬ」

「もしもし、そんな話はもうそのくらいにして、やめたほうがいいでしょう。テッド隊長たち、もうお帰りなさい」

突然、頭の上で、まるで鐘を叩いたような大きな声が響きました。

「あっ。きみは誰だ?」

「ガンマ和尚ですわい」

「おお、ガンマ和尚」テッド隊長は、「しまった!」と思いました。しかし、姿は見えず声だけのガンマ和尚は、別に怒っている様子もなく、同じ調子の声で続けました。

「くよくよしないで、街で楽しいものを見つけることですよ。つまらない話はしないのが一番だ。明日は、あなたたち全員を招待して、楽しい歓迎会を開きます。

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