初級翻訳・海底大陸 第29話

海底大陸

わしはこれからその点について研究を進めるつもりでいた。しかし、長良川博士はもうわしより先に結論を出しておいでのはずだ。続きは博士にお願いしたほうがよいと思うから、わしはこの辺で着席させてもらうとしよう」

ドリー助教授は長良川博士の方へ合図のような敬礼を送ると、席に着きました。

「おお、では長良川博士に続きをお願いしよう。さあどうぞ、こちらへ出てきてお話しいただきたい」

長良川博士は、ついに話さないわけにはいかなくなりました。

長良川博士は、ついに演壇に立ちました。世界的に有名な生物学者たちは、この東洋の学者からどんな話が聞けるかと、好奇心の光を宿した目でじっと見つめています。その中でドリー老助教授は、まるで自分の息子が大演説をするのを皆に見せびらかしているかのように、鼻高々と席から立ったり座ったりと、大変なはしゃぎようでした。

「おお、諸君」

長良川博士は、極めて落ち着いた口調で一座に挨拶を述べたのち、こう切り出しました。

「海底超人の起源について、ただいま興味深い御説をいくつもうかがいました。しかし私といたしましては、先にパリ大学で述べました通り、アトランティス大陸の生物が約四千年近くもの間、海面下で生息を続け、そして今日、我々人類と接触を持つようになったのだと考えております」

ヒヤヒヤと、大きな声で叫ぶ者がいました。もちろんドリー老人に他なりません。

「わしの説と全く同じだ! 聞いたか、君たち!」

いやはや、そのうるさいことと言ったらありません。仕方なく、ドリー老人のそばから席を移す者まで現れる始末でした。長良川博士は言葉を続けます。

「……さて、昔アトランティス大陸に生息していたどのような生物が、今日の海底超人に進化したのかという点につきましては、ドリー助教授も言及をご遠慮されたようでありますが……」

そう論じられると、ドリー助教授は自分の席で目を白黒させて慌てていました。実はこの老学者にも、この研究問題の答えはまだ解けていなかったのです。

「……私の見るところでは、海底超人の起源は……」

そう言って、長良川博士は改めて一座を見回しました。一堂に集まった世界の生物学者たちは、息をのんで博士の口元をじっと見つめています。「……これは、やはり、私たち人間と同じ種類の生物であると考えます」

そう言い終えると、会場はたちまち騒がしくなりました。その中で、ドリー助教授の拍手だけが、人を小馬鹿にしたような響きを立てて聞こえました。長良川博士は、言葉を続けました。

「結論だけを申せば、いかにも突飛に聞こえるでしょう。これは海面下に沈む以前のアトランティス大陸の状態を知り、かつ今日の海底大陸について詳しい視察をした後でなければ、容易に納得はできないことでしょうが、要点を申せば次のようになります。

つまり、アトランティス大陸には、当時『穴居民族』が存在していたことを指摘したいのです。これは一種の宗教的、そしてまた知識的な民族であり、『オールソ族』という名があります。この民族は、アトランティスの異変が近いことを予知していたのかどうかは定かではありませんが、とにかく、あの大事件が起こるよりも前に、地下で穴居生活を始めていたのです」

長良川博士の驚くべき論理に、会場はしーんとしずまり返りました。

博士は、そこで一段と声を高くして言いました。

「そこへ大陸沈下が起こったのです。なぜこの恐るべき沈下事件が起こったか、それについては興味深い事実が分かっていますが、ここでは関係ないので省略しておきましょう。とにかく大陸沈下によって、アトランティス大陸の地上にいた生物は、ほとんどすべてが海水に飲み込まれて死んでしまった。しかしオールソ族だけは、地底にいたがゆえに、この大殺戮から逃れることができたのです。そして、彼らの地底生活が始まりました。彼らは文明的に、我々の世界から完全に切り離されることとなったのです。いかがです、諸君。ご理解いただけましたでしょうか」

一座の学者たちの顔には、先ほどとは違って、非常に深刻なシワが浮かび上がっていました。肯定も否定もしない。ただ、感銘を受けて言葉を失っている様子でした。

「こう申せば、諸君は当然、一つの疑問を持たれるでしょう。我々人間と同じ種類の海底超人たちが、なぜあのように我々とは違った体つきをしているのか。我々と違って、むしろ軟体動物に近い体を持っているのはなぜか、と」

海底超人の体の柔らかさについては、彼ら生物学者は、一刻も早くロロー殿下を裸にして調べてみたいと願っていたのです。しかしそれには、ロロー殿下の身辺を守っている長良川博士やドリー助教授たちが邪魔をしており、彼らの欲望はすぐには叶えられない事情にありました。とにかく長良川博士のこの言葉は、学者たちに、ロロー殿下の裸身について異常な好奇心を抱かせずにはいられませんでした。

「その説明は、次のようにするのがよろしいかと思います」

長良川博士はテーブルの前に上半身を乗り出し、極めて重々しい口調で語りました。

「海底超人は、それ以来四千年というもの、日光を浴びることなく地底で暮らしました。そのために、彼らの体は、我々人間とは大きく違ったものになってきたのです。いや、日光ばかりではありません。彼らの姿をより著しく変化させたものは、実に『宇宙線を遮蔽(しゃへい)して生活したこと』による影響なのです」

「な、なんだと、宇宙線を遮蔽だと!」

聞き手の学者たちは、思いがけず長良川博士が宇宙線の影響を持ち出したので、はっと胸を突かれたように驚きました。

宇宙線! 宇宙線!

宇宙線とは、空の果てから地球へも飛んでくる、不思議な放射線です。それはX線の三千倍も強い放射線であり、我々人間は、その好むと好まざるとにかかわらず、一分間に一万五千個もの宇宙線粒子に突き抜かれているのです。この宇宙線の粒子を一個水中へ放つと、それだけで水に逆らって約七百メートルも突き抜ける力があります。

では、海底大陸ではどうでしょうか。海底大陸は、正確な深さはまだ分かりませんが、空の果てから飛来する宇宙線も届かない区域なのです。だから海底超人は、宇宙線の刺激を知ることなく、四千年近くもの長い年月を経たのです。そのため、地上の人類と同じような発育をするとは考えられません。

長良川博士が、海底超人が異様な体を持つようになった原因の一つを、彼らが宇宙線を遮蔽して過ごした四千年近くの生活に求めたのは、まさに非常に優れた意見だと言うべきでしょう。

「ああ、なるほど。宇宙線を遮蔽した中での成長か……うむ、これは思いもつかなかった」
「うむ、長良川博士に対し、我々は心から敬意を払わねばなるまい」

一座の学者たちは、それまでの態度を捨てて、我先にと席を立ち、長良川博士に握手を求めるのでした。それを見て、ドリー老助教授の喜ぶ顔といったら、ありませんでした。ロロー殿下の不安

長良川博士が宿舎へ戻ると言い出したとき、すっかり興奮したシムトン会長をはじめとする生物学者たちは、ぜひとも博士について行き、ロロー殿下に改めて敬意を表したいと言い出しました。

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