初級翻訳・火星兵団 第95話

海野 十三

敵の艇とあまりにも距離が近すぎて、ぐるぐると激しい空中戦を展開しているため、敵の艇が狙いに入って「さあ撃とう!」と思ったその瞬間に、位置がずれて外れてしまうのだ。
「ガス砲は、撃ちっぱなしにするのだ!
味方は一機だけだが、敵は大勢いる。
どの艇でもいいから当たればいいのだ」
博士の言葉にはげまされて、新田先生が思い切って引き金をひきっぱなしにしていると、当たるわ当たるわ、みるみるうちに敵の二機が黒い煙を上げてふらふらと墜落していった。
そうなると、残りの一機はさすがに怖じ気づいたのか、火星兵団の本隊がいる方へ方向を変えて逃げ出そうとした。
「待て、逃がすものか!」
小気味よい見事な追撃によって、その一機もついに黄色い煙を吹き出しながら、下界へまっさかさまに落ちていった……。
59 命中また命中

火星の宇宙艇五台は、すべて蟻田博士の活躍によって撃墜されてしまった。
新田先生も、千二くんも、二人そろって大喜びだった。
「博士、うまくいきましたね!
やったあ、万歳です!」
「すごいなあ、この大空艇は無敵だよ!」
しかし、博士は別にそれほど嬉しそうな顔をしなかった。
「これくらい、なんでもないさ。
目指す相手は、火星兵団長の丸木だ。
本当の戦いは、これからだよ」
博士は少しも気を緩めなかった。
その時、千二くんがびっくりした声をあげた。
「あっ、来ました、来ました!
新しい敵の宇宙艇が、こっちへ飛んできます!」
「うむ。
森の中の大江山隊を攻撃していた火星兵団が、われわれの存在に気づいたのだな。
そうだろう、宇宙艇が五台ともやっつけられたから、これは一大事だというわけだな」
「こっちへ来ます!
うわあ、みんなこっちに向かって来ますよ!」
「千二、丸木の乗っている宇宙艇は、まだ見つからないか?」
「あっ、博士、いました!」
「なに、いたのか? どこだ?」
「先頭から三番目の宇宙艇です!
左から数えて三番目になります」
「うむ、あれか!
なるほど、赤い三角旗のようなものが見えるな。
――おい、新田、ガス砲の用意をするんだ!
今度はかなり手強い相手だから、そのつもりでかかれ……!」
「はい、しっかりやります!」
「千二も、油断せずにしっかり見張りをしているんだぞ!」
「博士、ぼくのことなら心配いりませんよ!」
「よろしい、みんなそれでいい。
今ここで、火星兵団を叩きつぶさなければ、地球の人類は彼らの奴隷になってしまうのだ。
気合を入れていくぞ!」
まったく不思議な人だった、この蟻田博士という人物は。
世間からは「ちょっと変わったおかしな学者」などと言われていたのに、こうして実際に火星兵団と戦っている姿を見ると、どう見ても数千人・数万人の軍勢を率いる無敵の老将軍のような風格がある。
頼もしいかぎりだった。
よく考えてみると、蟻田博士はたしかに大変な変わり者の学者だった。
博士は、世間一般の普通の学者とはまったく違う道を歩んできた大いなる学者なのだ。
博士は、ずいぶん昔から、地球の人類が地球外の生き物たちからこのような激しい攻撃を受けることを予期して知っていたのである。
そして博士は、その危険を世の人々にそれとなく警告したのだが、誰も耳をかす者はいなかった。
だから博士は、他人はあてにせず、自分ひとりで外敵に立ち向かおうと固く決心したのだった。
博士の長年の苦労が、今こうして実を結んでうまく外敵を追い払うことができるのか、それとも外敵のために博士も他の人間と同じようにこてんぱんにやっつけられてしまうのか――その運命の分かれ目が、まさに今決まろうとしていた。
たまたま、新田先生と千二くんは、思いがけず博士を助けることになった。
偶然そうなったようにも見えるが、よく考えてみると、それは決してただの偶然の出来事ではない。
なぜなら、新田先生は蟻田博士の弟子であり、千二くんは新田先生の生徒だったからだ。
博士から見れば、新田先生は弟子であり、千二くんは孫弟子にあたるわけである。
師弟の絆というのは、このように深くつながっていたのだ。
なんとかして、蟻田博士の一隊に勝利の歌を歌わせてあげたいが、果たしてうまくいくだろうか、それとも……。
火星兵団長の丸木は、今やカンカンに怒り狂って、すべての宇宙艇を引き連れ、たった一機の大空艇めがけて襲いかかってきたのである。
火星人対、最後の地球人類による、空中での死闘だ!
火星人が勝つのか、それとも地球人類が勝つのか。
大空を舞台にいよいよ、最後の運命をかけた一大決戦の火ぶたが切って落とされたのである。
ああ、しかし、こちらは蟻田艇がたった一機だけ。
それに対して敵の宇宙艇は数えきれないほどの大軍で、どっと蟻田艇めがけて攻め寄せてきた。
「博士、大丈夫でしょうか……?」
新田先生の顔色もさっと変わった。
「博士、絶対に勝ってくださいああいっ!」
千二くんも一生懸命な声で博士を応援した。
「勝ち負けなんてわかりはせん!
ただ、一人ひとりが大いに奮闘するだけだ!
――そら来たぞ! 新田、撃て!」
蟻田艇めがけて、火星の宇宙艇はまるで群れをなして襲いかかってきた。
いつの間にか、丸木の乗っている司令艇は、うしろのほうへ隠れてしまっていた。
なんともずる賢いやり方だ。新田先生は、このところすっかり射撃手としての役割を担っていた。
先生は、なかなか責任の重い立場である。
「撃ちます!」
先生はそう叫んで、引金をひいた。
ごんごんごんと激しい音がして、ガス弾は白い軌跡をひきながら、砲門を離れて飛んでいった。
みるみるうちに、先頭を走っていた敵の宇宙艇は、ま正面を引き裂かれ、激しい火を吹きながら下界へと落ちていった。
どうやら、機体の正面のあたりに燃えやすいものがあったらしい。
「やったぞ!」
先生は大声で叫んだ。
だが、墜落していく敵の宇宙艇の最期を、じっくりと確かめている暇などはなかった。
またたく間に、次の敵の宇宙艇がすぐ間近まで迫っていたからだ。
「きさまも、煙になって墜ちろ!」
先生はしっかりと狙いを定めて撃ち放った。
見事な大命中だ!
それからは、先生はもう夢中になって、引金をひきつづけた。
気づけば、完全に火星の宇宙艇の群れの中へと飛び込んでしまっていたのだから。
千二くんは、思わず目を見張って驚いた。
蟻田艇からあたりを見回すと、どっちを向いても敵の宇宙艇ばかりである。
すっかり敵の宇宙艇に包囲されてしまっていたのだ。
「これで、よくまあ空中同士でぶつからないものだなあ」
千二くんは、蟻田博士の操縦のあまりの上手さに感心した。
しかし、これはただ博士の操縦テクニックが優れているだけではなかった。この大空艇には、引力を利用して衝突を避ける特別な装置が取り付けられていたのだ。
それはつまり、自分のそばへ他のものが近づいてくると、ごくわずかではあるが二つのものの間に引力が働き、その引力の方向を装置が敏感に察知して、自動的に舵を安全な方角へと向けなおすという仕組みだった。
この「衝突自動防止装置」のおかげで、大空艇がどんなに相手に接近しても、絶対に衝突がおきない仕組みになっていたのである。
だからこそ、この装置のおかげで、大空艇はどんなピンチのときでも絶対に衝突することはなかった。

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