鈴木 三重吉

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桑の実

初級翻訳・桑の実 第6話

「くみちゃん、せっかくの紅茶が冷たくなっちゃったわね」おくみはまだ慣れない手つきで、少し冷めかけた紅茶を飲みながら、お二人の話を聞いていました。青木さんはサンドイッチを一つか二つ召し上がりました。モデルの女性は赤坂の方から通ってきているのだ...
桑の実

初級翻訳・桑の実 第5話

おくみはなんとなく青木さんの家を、ただ広々としているだけで陰気な、寂れた家のように想像してきましたが、それとは違って、こぢんまりとした、建って間もない明るくきれいな家なので、ホッとするような気がしました。おかみさんが入口の格子戸のベルを押す...
桑の実

初級翻訳・桑の実 第4話

青木さんの奥様は去年の暮れあたりから、坊ちゃんを青木さんのもとに預けたまま、牛込にあるご実家の方へ帰っていらっしゃるのだそうだ。なんでも、かなり前からのヒステリーのような状態になってしまわれていて、いつも家でふさぎ込んでぶらぶらしていらっし...
桑の実

初級翻訳・桑の実 第3話

おとなしい性格のおくみは、上に立つ女中たちや、あちこちの機嫌にばかり気を配らなければならず、つらくうるさいことがたくさんありました。けれども、誰かに弱音を吐くこともできず、一人で我慢する以外に方法がなかったのです。育ての母親には、そんなつら...
桑の実

初級翻訳・桑の実 第2話

継母はおくみを今の家(引き取り先)に預けたあと、新しい夫と一緒に台湾へ行ってしまったのでした。このときには上海にいるらしいという話を、育ての母親が赤十字病院の知人から聞いたくらいで、向こうへ行ってからは時々手紙をくれていたものの、二年ほど前...
桑の実

初級翻訳・桑の実 第1話

一 おくみが身を寄せているカフェは、おかみさんが一般家庭の主婦の手腕で切り盛りしている小さなお店だったけれど、近所にはほかにこういうお店がないので、ちょくちょく出前の注文もあるし、お客さんもぼちぼち来てくれるので、人目にはかなり順調にいって...
子守つ子

初級翻訳・子守つ子 第2話

すると、部屋の中がだんだんと水色に明るくなってきて、ズボンの影も、緑色のランプの光も灰色にうすれ、やがて壁の中に吸い込まれるように消えていきました。夜が明けてきたのです。おかみさんは、赤ん坊を受け取るとおっぱいを飲ませ、服のボタンをパチンと...
子守つ子

初級翻訳・子守つ子 第1話

夜、子守の女の子であるバルカは、聞き取れないほどの小さな声で子守歌を歌いながら、赤ん坊の寝ているゆりかごをゆらしていました。「ねんねんよー。ねんねんよー。」神棚の前には、ランプが緑色の光を灯しています。壁から壁へと細いひもが張られていて、赤...
デイモンとピシアス

初級翻訳・デイモンとピシアス 第2話

ピタゴラスの学徒たちは、人間はこの自制ができればできるほど、それだけ神さまに近づくことができ、一生を完全に自制し通した人は、死んだあとに神さまになれると信じていました。その反対に、少し自分を抑えることができずに悪いことばかりした人は、次の世...
デイモンとピシアス

初級翻訳・デイモンとピシアス 第1話

一 これは、今から二千年も、もっと昔に、ギリシャが地中海でとっても威張っていた時代のお話です。 そのころ、ギリシャの人たちは、今のイタリアのシチリア島へやってきて、その東の海岸に「シラキュース」という町を作っていました。 そこでも市民たちは...
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