「ぼくたちはあわれな旅の者ですが、キツネに襲われたり、人間につかまらないような一夜の宿を探しているのです。ここは安全な場所でしょうか?」と、ニールスは尋ねました。
「だいじょうぶですとも」と、牝牛は答えました。「このとおり、壁は傷んではいますけど、これまでにキツネがそこから入ってきたためしはありません。それに、この家にはおばさんがひとり住んでいるだけですが、あのおばあさんは生き物をつかまえたりはしませんよ。ところで、おまえさんたちは一体だれですね?」と、牝牛は言いながらからだをねじ曲げて、ニールスたちの姿をよく見ようとしました。
「ぼくは、いまでこそ小人にされてしまっていますが、ニールス・ホルゲルッソンといって、西ヴェンメンヘーイ生まれのものです」と、ニールスは答えました。「いっしょにいるのは、ぼくがいつも背中に乗せてもらっている家で飼っていたガチョウと、新しく道連れになった灰色ガンです」
「こんなめずらしいお客さんははじめてです」と、牝牛は言いました。「まあ、よく来てくださいました。でも、ほんとのところは、奥さんが夕飯をもってきてくださったんなら、もっとよかったんですがね」
ニールスは、ガチョウたちをかなり大きい牛小屋の中へ連れていって、空っぽの飼い葉桶の中に入れてやりました。ガチョウたちはすぐ眠りこんでしまいました。ニールスはわらで小さな寝床をこしらえて、自分もすぐに寝ようとしました。ところが、とても眠るわけにはいきません。なぜって、すぐそばでは、あわれな牝牛が夕飯をもらえないので、一ときもじっとしてはいないのです。首の鎖をガチャガチャやったり、ドタドタ歩きまわったり、「腹が減った、腹が減った」とひっきりなしにこぼしているのです。
ニールスは眠れないままにわらの上に横になって、近ごろ起こったさまざまの出来事を思い出しました。まず最初に出会った、思いがけないガチョウ番のオーサとマッツのことを思い出しました。そして、自分が火をつけた小さな小屋は、あのふたりのスモーランド人の家にちがいないと思いました。そういえばいつだったか、ふたりがあんな小屋や、ヒースの生えている広い荒れ地のことを話していたことがありました。きっとふたりは、もう一度なつかしいわが家を見るために戻ってきたのです。ところがせっかく帰ってみると、その小屋は炎につつまれていたのです。あのふたりはどんなに悲しんだことでしょう! しかも、それはこの自分のせいなのです。そう思うと、ニールスはたまらなくなりました。そして、いつか人間に戻ったら、心からこのお詫びをしようと思いました。それから、思いはカラスたちのことに移りました。そして、自分の命を助けてくれたものの、頭に選ばれるとすぐに殺されてしまったノロ公の身の上を考えると、あまりに悲しくなり、思わず涙が浮かんでしまいました。
実際、この二、三日のあいだに、ずいぶんひどい目にあったものです。
けれども、とにかく、モルテンとダンフィンが自分を見つけ出してくれたのは、本当に幸せなことでした。
ガチョウからあとで聞いた話では、ガンたちは、オヤユビくんの姿が見えないのに気がつくと、すぐに森じゅうの小さな動物たちにたずねてみたのでした。
すると、スモーランドのカラスの一隊にさらわれた、ということがすぐにわかりました。
けれども、そのときにはもう、カラスたちは姿を消してしまっていたのです。
しかも、カラスたちがどっちへ行ったかは、だれひとり知らないのです。
そこでアッカは、オヤユビくんを一刻も早く探し出すために、ガンたちに命じて、二羽ずつ分かれ分かれになって、別の方面を探すことにさせました。
そして、オヤユビくんが見つかっても見つからなくても、ともかく二日探したら、北西スモーランドのターベルイという山の頂でおちあうことに決めました。
その山は、まるで先を断ち切られた塔のように険しいということでした。
それから、アッカはめいめいに方向を決めてやり、ターベルイに行くまでの道筋を丁寧に教えてやりました。
こうして、みんなはちりぢりになったのでした。
白いガチョウは、灰色ガンのダンフィンを旅の道連れに選びました。
ふたりは、オヤユビくんのことをひどく心配しながら、あっちこっち探し回りました。
そうしているうちに、木の頂にとまっている一羽のツグミが、「カラスにさらわれた」という奴にからかわれたといって、泣いているのを聞きつけました。
それでさっそくツグミに聞いてみますと、その「カラスにさらわれた」というものが、どっちへ行ったかを教えてくれました。
それからも、森バトやムクドリや野ガモに出会いましたが、みんな口々に、チビスケのいたずら小僧に歌の邪魔をされたといっては悔しがっていました。
そして、そいつの名前は「カラスにさらわれたもの」とか、「カラスに盗まれたもの」とか言っていたということでした。
こんなふうにして、ふたりはスンネルブー地方のヒースの生えているあの荒れ地まで、オヤユビくんのあとをたどっていくことができたのでした。
そして、モルテンとダンフィンはオヤユビくんを見つけると、すぐにターベルイへ行くために、北のほうをさして飛んできたのです。
しかし、ターベルイまではずいぶん道のりがありました。
そこで今、山の頂がまだ見えないうちに、早くも日が暮れてしまったのでした。
「明日、ターベルイに行きさえすれば、もう心配はないんだ」
と、ニールスは思いながら、わらの中にもぐりこんで温まろうとしました。
牝牛はそのあいだじゅう騒いでいましたが、突然ニールスに向かって話しかけました。
「おまえさんたちのうちのひとりは、たしか小人だと言いましたね? もし本当にそうなら、牛の世話ができるでしょう?」
「いったい、何が足りないのさ?」と、ニールスは聞きました。
「なにもかもないんですよ」と、牝牛は言いました。
「乳も絞ってもらえないし、世話もしてもらえない。夜の干し草もなければ、寝るところもない。奥さんは夕方ここへきて、いつものように世話をしてくださっていたんですが、急に気分が悪くなって、急いで帰ってしまいました。それっきり来ないんですよ」
「お気の毒だが、ぼくはこのとおりちっぽけで力もない」と、ニールスは言いました。「とてもきみのお役には立てそうもないよ」
「ちっちゃいからといって、力がないとは思えませんね」と、牝牛は言いました。「今まで話に聞いている小人というのは、みんな力が強くて、車いっぱい積んだ枯れ草を引っ張ることもできるし、拳で牛を一打ちに殺すこともできたということですよ」
それを聞いて、ニールスは思わず吹き出してしまいました。
そして、
「ぼくはそんな小人とはちがうんだよ。でも、きみの首の鎖を解いて、入り口の戸を開けてあげるよ。そうすれば、きみは表へ行って水を飲めるだろう。それから、枯れ草の置き場によじ登って、きみの桶の中に枯れ草を投げ落としてみるよ」
と言いました。
「ええ、そうしてもらえば少しは助かりますよ」と、牝牛は言いました。
ニールスはそのとおりにしました。
こうして、牝牛の桶には枯れ草がいっぱいになりました。
ニールスは、今度こそ落ち着いて眠れるだろうと思いました。
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