「昨夜は恐ろしい海鳴りがしたから、何か変わったことが起こると思っていたんだ」と老人が言いました。
「よくもまあ、こんな荒波を越えてこの港の近くまでやってきたものだ。何か用があってここへ来たのだろうか」と一人が言いました。
「ごらんなさい、あの船は止まっています。どなたか、どこの国の船かご存じの方はいませんか」と若者が尋ねました。
「きっとこの大波で道に迷ったか、船が故障して港に入ってきたんだろう」と言う人もいました。
そこで、陸から船に向かっていろいろと合図を送ってみましたが、船からは何の返事もありません。
「あれは普通の船じゃない。きっと幽霊船に違いない」
そう言い合って、幽霊船なんて見るものじゃないと、町の人々はぞろぞろと家へ帰っていきました。
すると不思議なことに、ちょうどその日から、見慣れない十歳か十一歳くらいの子供が町に現れました。ぼろぼろの服をまとい、雪が激しく降る中を素足で歩き、足の指を赤く腫らして、手には一つのかごを下げていたのです。
町の人々は顔をしかめ、その哀れな子供の後ろ姿を見送りました。
子供は町で一番立派な呉服屋に入りました。
「どうか、私に着物を売ってください」
震える声で子供は言いました。
「おまえ、お金は持っているのか?」
店頭に座っていた番頭は、疑わしそうな顔で尋ねました。
子供はかごの中をのぞきながら答えました。
「お金はありませんが、ここに珊瑚や真珠、金の塊があります。これで売ってください。私の着物ではなく、おじいさんが着るための着物なんです」
呉服屋の番頭は、怪しげな目つきで輝く真珠や、カニの足のように赤い珊瑚を眺めていましたが、こう言いました。
「どうしてそんなものを持っているんだ。おまえが持っているはずがない。きっと偽物だろう。どこで拾ってきたんだ?」
「いいえ、偽物でもなければ、拾ったものでもありません。これは本物の真珠や珊瑚です。どうか疑わないでください。早く着物を売ってください。おじいさんが船で待っているんです」「沖に停まっている船が、それでございます。おじいさんは、あの黒い旗が立っている帆柱の下のところに座って待っているのです」
と、子供は言いました。
「おまえの言うことは、どうも嘘くさい。着物は売れないよ。早くこの店の前から立ち去っておくれ」
番頭は子供を追い払ってしまいました。
子供は仕方なく、雪が降る中をとぼとぼと歩いてその店を去り、あてもなくこちらへ向かうと、そこには食べ物屋があって、おいしそうな魚の匂いや、お酒の温まる香りが漂ってきました。
子供はその店の前に立ちました。
そして戸を開けて中をのぞきながら、
「どうか私に煮た魚と、温かいご飯を売ってください。お金はありませんけれど、ここに立派な珊瑚の枝と、きれいな星のような真珠と、重たい金の塊があります。私は何でもいいから温かい食べ物を持って帰って、おじいさんにあげたいのです」
と言いました。
すると、そのとき店で酒を飲んでいた三、四人の若者たちは、目を丸くして子供のかごの中身と子供の顔を見比べていましたが、
「おまえ、いつかこの町に来た乞食の子供じゃないか。度胸があるやつだな。どこからそんな品物を盗んできたんだ。さあ、白状しろ。その品物を全部ここに置いていけ」
と言いながら飛び出してきました。
「いいえ、盗んだり拾ったりしたものではありません。あの沖に来ている船からもらってきたのです」
子供は泣きながらそう言いました。
けれど若者たちは無理やりかごを奪い取り、子供を追い払ってしまいました。
子供はどことも知れぬ雪の中へ、泣きながら去っていきました。
いつしか吹雪の中で日が暮れてしまいました。
その夜のことです。
この町から火事が発生し、おりしも吹き募る海風にあおられて、一軒も残らず焼き払われてしまいました。
今でも北海の地平線には、時折あの黒い旗が見えるのです。
コメント