初級翻訳・風博士 第3話

坂口 安吾

諸君、開いた形跡のない戸口から、人間が絶対に出入りすることはできません。
したがって偉大なる博士は、外へは出なかったに違いありません。
かといって、偉大なる博士は屋敷の内部にもいなかったのです。
僕は階段の途中で立ち尽くし、まだ響き残っている慌ただしい足音を耳にしながら、ただ一陣の突風が階段の下で舞い狂うのを見ただけでした。

諸君、偉大なる博士は風となったのです。
果たして風となったのか? 然り、風となったのです。
なぜなら、その姿が消え去ったではないか。
姿が見えないということは、すなわち風ではないか? 然り、これすなわち風である。
なぜなら、姿が見えないではないか。
これこそ風以外の何物でもあり得ない。
風である。
然り、風である、風である、風である。
諸氏はまだ、この明白な事実を疑うのでしょうか? それは大変残念です。
それでは僕は、さらに動かすことのできない科学的根拠を付け加えましょう。
この日、あの憎むべき蛸博士は、まさにこの同じ瞬間に、インフルエンザにかかったのです。

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