ズルスケは、こんどこそわけなく捕らえられるだろうと思いました。
けれど、油断をして、またしくじってはたいへんです。
それで、こんどはなんにもしないで、しばらく飛ばせておいてやろうと思いました。
けれども、このガンも、さっきまでの仲間と同じように、ズルスケの真上までくると、ぐっと低く舞いおりました。
ズルスケは思わずつりこまれて、またまた力いっぱい踊りあがりました。
すると、爪の先が、ちょっとさわりはしましたが、ガンはすばやく身をかわして、逃げていってしまいました。
ズルスケが息をつくひまもないうちに、三羽のガンが、一列にならんでやってきました。
こんども、さっきの仲間たちと同じように飛んできます。
ズルスケは、またしても高くとびあがりましたが、一羽も捕えることができませんでした。
そのあとから、また五羽のガンがあらわれました。
このガンたちは、いままでの仲間たちよりも、もっとじょうずに飛んできました。
そして、いかにもズルスケが飛びつきたくなるように仕向けましたが、ズルスケはやっとのことで思いとどまりました。
かなりたって、また一羽のガンが姿を見せました。
これで十三番めです。
このガンはたいそう年とっていて、からだじゅうが灰色で、黒いすじ一つ見えません。
かたほうの羽根がうまく使えないらしく、ひどくへたくそに、かたむいて飛んでいます。
そのため、いまにも地面にさわりそうです。
ズルスケはこのガンめがけて、思いきり高く跳ねあがりました。
が、またまた失敗です。
それで、走ったり飛びあがったりしながら、湖まで追いかけていきました。
けれど、こんども骨折っただけで、なんのたしにもなりませんでした。
十四番めのガンが飛んできました。
この鳥は、からだじゅうがまっ白で、じつに美しく見えました。
大きな羽根が動くたびに、暗い森の中がキラキラとあかるくなるようでした。
ズルスケはこの鳥の姿を見ますと、からだじゅうの力をこめて、木の半分ほどの高さまで踊りあがりました。
しかし、この白い鳥も、まえのと同じように、傷ひとつ受けないで逃げていってしまいました。
こうして、ブナの木の下はしばらく静かになりました。
もうガンのむれは、すっかり飛んでいってしまったようです。
そのときズルスケは、ふと、さっきの捕虜のことを思い出しました。
さいしょのガンを見たときから、あのチビさんのことは忘れてしまっていたのです。
そして、もちろんニールスの姿は、もうそこには見えませんでした。
しかし、ズルスケがチビさんのことを考えているひまは、あまりありませんでした。というのも、最初に飛んできたガンが、また湖の方から戻ってきて、木の陰をゆっくりと飛び始めたからです。
ズルスケは、あんなにしくじった後で、ガンが戻ってきたのを見て大喜びしました。
そこでさっそく、そのガンめがけて、力の限り飛び上がりました。
けれども、焦りすぎて、よく狙いをつける暇がなかったので、的を外してしまいました。
そのあとから、また一羽飛んできました。
それから、また一羽、そうして、第三、第四、第五のガンがあらわれたと思うと、とうとう最後には、白っぽい灰色の年老いたガンと、真っ白な大きなガチョウまで飛んできました。
みんなはゆっくりと低く飛んでいます。
そして、キツネの真上までくると、キツネがつかまえたくなるように、わざわざ、もっと低く舞い降りるのです。
それを見ると、ズルスケはそのあとを追いかけて、何度も何度も高く飛び上がりました。
けれど、一羽だって捕まえることはできませんでした。
キツネのズルスケは、この日ぐらいひどい目にあったことはありません。
ガンたちは、あいかわらずズルスケの頭の上を、あちこちと飛びつづけているのです。
ドイツの畑や野原でたくさん食べて肥ってきた、この大きな素晴らしいガンたちは、一日じゅう森の中でズルスケのそばをすれすれに飛びまわるのでした。
ズルスケは、いくどもいくども、ガンに触れるくらい高く飛び上がりましたが、空腹を満たしてくれるようなガンは、一羽だってありませんでした。
冬はもう終わろうとしていました。
いまズルスケは、いく日もいく晩も、獲物一匹捕まえずに、ぶらぶら歩き回らなければならなかった時のことを思い出しました。
無理もありません。
その頃は、渡り鳥たちはよその国へ行ってしまい、ネズミたちは凍った地面の下にかくれ、ニワトリたちは小屋の中に閉じ込められていたのですから。
けれど、冬じゅうお腹が空いていたことも、今日一日の失敗に比べれば、なんでもありません。
ズルスケはもう若造ではありませんでした。
犬に追いかけられたこともたびたびありますし、銃の弾が耳のそばをかすめていったこともあります。
また、穴の奥に隠れているとき、嗅ぎつけてきた犬に、もう少しで見つかりそうになったこともあります。
けれども、そういう激しい狩りの間じゅうビクビクしていた不安な気持ちも、今日、このガンたちを捕りそこなうたびに味わった、あの苦い気持ちとは、比べものになりません。
今朝、狩りが始まったときは、ズルスケはガンたちが目を見張るほど、素晴らしい姿をしていました。
なにしろ、このズルスケときたら、派手なことが大好きです。
上着はキラキラ輝くほど赤く、胸は白く、前足は黒、そして、尻尾がまた、鳥の羽根のようにふさふさしていました。
けれども、それよりももっと素晴らしいのは、ズルスケが動くときに見せる力強さ、目のらんらんと光り輝く様子でした。
ところが、夕方になると、上着はしわくちゃになり、体は汗びっしょり、目の輝きはどんよりとして、舌は荒い息をつく口からだらりと垂れ、おまけに口からは泡を吹いているというありさまでした。
午後になると、ズルスケはすっかり疲れてしまい、もう何が何だかわからなくなりました。
とにかく、目の前をガンたちが飛んでいるということのほかは、何もわかりません。
とうとうしまいにズルスケは、枝の間から地面の上に差している太陽の光や、サナギからかえったばかりの哀れなチョウにまで、飛びかかるのでした。
ガンの群れはひっきりなしに飛び続け、一日じゅう、ズルスケを苦しめました。
ズルスケが疲れ果てて、目が回り、気が狂いそうになるのを見ても、ちっともかわいそうだと思う様子はありません。
しかも、そのズルスケはもう、ガンの姿を見ることができず、ただその影に向かって飛びかかっているだけなのです。
ガンの群れは、そのことをちゃんと知っていながらも、あいかわらず、キツネの周りを飛びつづけるのでした。
こうして、キツネのズルスケが、全身の力が抜け、今にも気を失いそうになって、積もった枯れ葉の上に倒れたとき、ガンの群れはやっと、キツネをからかうのをやめにしました。
「さあ、どうだい、キツネくん。
ケブネカイセのアッカさまを相手にしようとする者は、どんな目にあうか、おわかりだろう!」と、ガンの群れはズルスケの耳元でこう叫ぶと、ようやく、キツネを許してやりました。
3 野の鳥の生活
農家にて
三月二十四日 金曜日
ちょうどその頃、スコーネ地方で事件が起こりました。
それは大評判になって、新聞にも載りました。
コメント