初級翻訳・海が呼んだ話 第2話

小川 未明

それは、突然原因不明の熱が出て、手足がしびれて動かなくなるというものでした。とりわけ、西の空が夕焼けに染まる日暮れ時に熱が出るのです。近所の医者に見せても、なんの病気か分からないと言われました。
このことがまた近所の噂になりました。
「勇ちゃんのおじさん、今日病院へ行ったよ」と正二が言いました。
清吉と正二は学校の帰りに乾物屋の前を通ると、おじさんが店に座っていました。二人は店に入ってそばに腰を下ろしました。
「おじさん、顔色が悪いね」
「病院へ行って診てもらったの?」
おじさんは二人の子供の顔を見て笑いながら言いました。
「海が俺を呼んでいるんだよ。子供の頃からずっと水に潜ってきた人間が、陸に上がりきってしまうと体が言うことをきかなくなるなんて、恐ろしいことだよ」
「それなら、おじさん、また海へ帰るの?」
「ああ、海へ帰って潜りたくなったよ。そうすれば体も丈夫になるはずだ。元気になったら、二人とも遊びに来なさい。浜は風があって夏は涼しいぞ。エビでもタコでも、とれたての魚を食べさせてやるから」
「おじさん、このお店はどうするの?」
「この家か、また前の人たちが戻ってきて入るだろう。やはり急に町から田舎へ行っても、すぐに暮らしが立つわけじゃないからな」とおじさんは言いました。
「それなら、また勇ちゃんと遊べるんだね」と正二はにっこりしました。
店を出ると、「僕、おじさんと別れるの悲しいや」と清吉は歩きながら正二を振り返って言いました。
空にはトンボが飛んでいました。

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