豊島 与志雄

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楠の話

初級翻訳・楠の話 第2話

だけどぼくは、とくに悲しいとも思わなかったし、なんとも感じませんでした。新しく引っ越したお家のほうが新しくて明るかったし、お座敷からすぐに池のコイの姿が見られたからです。ただ一つだけ、なんだか不思議に思ったことがありました。それは、昔の大き...
楠の話

初級翻訳・楠の話 第1話

その頃、ぼくの家は田舎にあるとても広いお屋敷の中にありました。お屋敷の中には、竹やぶがあって、池があって、お墓があって、木立があって、広いお庭があって、おまけにちょっとした野菜畑までありました。子供のころのぼくは、お屋敷からほとんど一歩も外...
悪魔の宝

初級翻訳・悪魔の宝 第3話

彼は力を込めて、鍬(くわ)でザクリと掘りました。何も出てきません。もう一度ザクリと掘りました。まだ何も出てきません。それでも彼は一生懸命でした。あぶら汗を流しながら、四、五尺(約1.2〜1.5メートル)も土を掘り下げました。すると、カチッと...
悪魔の宝

初級翻訳・悪魔の宝 第2話

「そう言えば、顔は全くお前さんだ。だけど、わたしはまだ安心ができないから、真っ裸になってごらん」 センイチは裸になってみせました。「なるほど、体に毛がいっぱい生えていないところをみると、悪魔じゃなくて、やっぱりお前さんだね」「何を言ってるん...
悪魔の宝

初級翻訳・悪魔の宝 第1話

一 あるところに、センイチという猟師がいました。 とても腕のいい猟師でしたが、ある日、どうしたわけか、獲物が一匹もとれませんでした。 鉄砲をかついで、一日中山の中を歩き回りましたが、小鳥一羽、ネズミ一匹さえ見当たりません。「変な日だな。今日...
怒りの虫

初級翻訳・怒りの虫 第5話

彼は書斎へ上がってゆき、茶の間に下りてき、庭をぶらつき、それからまた酒を飲みだした。眉をひそめながら、黙々と飲んだ。女中を呼んで、すぐに風呂を沸かすように言いつけた。そして時折、小刻みに頭を震わせるのだった。八重子は怯えたように、彼の様子を...
怒りの虫

初級翻訳・怒りの虫 第4話

お前はいったいどうしたいんだ。≫ 由美子は黙り込んでしまった。それからふいに、彼にキスを求めた。「分かったわ、あなたのお気持ち。私は安心して時期を待つことにするわ」「時期、だって……?」「その時が来るまで、静かに待っているわ」「ああ、分かっ...
怒りの虫

初級翻訳・怒りの虫 第3話

別れろとおっしゃるのね」「違うよ。愛情は育てていこう。しかし、その育て方だが……」彼は口を閉ざし、眉をひそめた。窮地に追い込まれた気がしたのである。そして卓上の一点に目を据え、酒を飲みながら考え込んだ。木山は別のことに思いを走らせる。近頃、...
怒りの虫

初級翻訳・怒りの虫 第2話

ええと、ほら、いつもパチパチと瞬きばかりしていて、色が白くて、髪を長く伸ばしている……」「ふーむ、誰のことだい?」「君も知っているじゃないか。あの男……何とか言った……おかしいな、喉元まで出かかっているんだが……」木山はまた額を叩き、立ち上...
怒りの虫

初級翻訳・怒りの虫 第1話

世の中には「うつぎの虫」や「癪の種」など、いろんな虫が人の心に住みついては、穏やかな気持ちをかき乱すと言われています。そんな中、木山宇平(きやまうへい)という人の心にも、いつの間にか「怒りの虫」が住みついたと、周りの人たちから思われるように...
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