潜航艇「鷹の城」

スポンサーリンク
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第1話

第一編 海底の惨劇      一、海―武人の墓 夜が明けようとする、ほんの少し前のことでした。 雨はすでに止み、波の高さも低くなって、轟音もいくぶん静まったように感じられましたが、その分、闇はより一層深さを増していました。 あまりの暗さに、...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第2話

それらは、病気や自堕落な生活の消し去ることのできない痕跡なのでしょう。しかし、彼が砲手として船に乗る前は数学者だったという経歴を考えると、その数々の醜さは、彼の持つ品位とは到底結びつかないものに思えました。むしろ、その奇妙な姿から推測すれば...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第3話

しかし、オーストリア側としても、なんとかしてヴェネツィア、ラヴェンナ、アンコナ、タラントなどに勢力を置く敵の封鎖網を打ち破らなければなりませんでした。もし巧みに封鎖を脱出することができれば、ヴェネツィアやアンコナの両港を襲撃できるだけでなく...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第4話

それがそもそも、今の生活に入る原因となったのでしたけれど、私の悲運は、十七年たった今日になっても尽きようとはいたしません。せっかく貴方の墓のつもりで引き揚げた『鷹の城』も、ついには私たちの生計の糧として使わねばならなくなりました。私たちはこ...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第5話

それから、旋回したにもかかわらず、二発目は船首の突梁(バウスプリット)に命中したのです。船長、本船は翻弄されているんですよ」そう言ってヴィデの蒼白な顔が砲栓から離れようとしたとき、三発目が船尾の旗竿に轟音とともに命中しました。「よろしい、抵...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第6話

いずれにしても、艇長の死と遺体が消えてしまったということが厳然たる事実であることは、そのあとに艇を引き揚げた日本海軍の記録にもはっきりと記されているのです」風はやみ、夜明け前の暗闇も去って、朝霧が晴れはじめました。犬射は、感慨深い口調で、す...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第7話

そして情けないことに、オーストリア国民は、その付和雷同の心理をまんまと利用されてしまったのです。聞くところによれば、その男の幽閉は一九一八年から始まっており、最初はグラーツの市街を、身体中に薔薇や蔦(つた)をまとって、まるで痴呆症か乞食にし...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第8話

それは、現場が扉と鍵によって閉ざされていたにもかかわらず、潜航艇の中をくまなく探しても、八住を刺したはずの凶器がどこにも見つからなかったことです。しかも周囲は厚い装甲で守られており、その外側は海なのですから、現場はまさに「三重の密室」と言え...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第9話

ところが、この奥の部屋には、先ほどから朝枝(あさえだ)という娘がいるそうですが、こんな静まり返った場所で、盲人の鋭い聴覚が、ドアノブを回す音一つ聞き逃すはずがありません。それに、その娘は今朝、この『鷹の城』には乗り込んでいなかったはずなので...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第10話

もともと素材はスカンディナヴィア神話にあり、ヴィベルンゲンの伝説やニーベルンゲン伝説など、いくつかの断片をまとめたものに過ぎません。ところが、ワーグナーによって壮大な楽劇になると、初めて新しい、生々しい息吹が吹き込まれました。それは三部作の...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第11話

その森には清らかな泉がありました。疲れたジーグフリードが喉を潤そうと身を屈めたとき、突然背後から、きらめく長槍が突き出されました。そうして、肩に残された唯一の弱点を貫かれ、ジーグフリードは、あえなくハーゲンの手によってこの世を去ったのでした...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第12話

深度計を見ながら、機関部に「いま海底に着くぞ」という声をかけようと唇を開いたとき、艇体に微かな震えを感じた。これで、艇体が完全に着底したわけである。私は底荷水槽に水を入れ、動揺を防いだのち、艇首から艇尾まで徹底的に点検させた。それが終わり、...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第13話

私はそれを摘み取ろうとしましたが、いくら取っても数え切れません。やがて、誰かが悲しげに嘆く声を聴いて、私はハッと目が覚めました。「僕はフロイド(心理学者)じゃないけれどね。これは一種の、色っぽい夢じゃないかな」と検事はタバコの煙を吐き出し、...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第14話

だから、ブレーク、ベックリン、ロセチ、それにドーレの『失楽園』や、キャメロンの『水神』、『ニーベルンゲン譚詩』のデイリッツなど――ああした、すこぶる幻想的な挿絵を見るとだね……」言いかけた時、断崖の突き当たりにある岩壁に、二つの日傘が並んで...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第15話

その古風な風見鶏が回っている岬の一軒家には、痩せてひょろ高い浜草が、漆喰の割れ目から生え伸びているほどだった。屋根は傾き、塗料は剥げ、雨樋は壊れ落ちて、蛇腹や破風は海燕の巣で一面に覆われていた。そうした時の破壊力には、歴史的で動かしがたい思...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第16話

ねえ法水君、そういった種類の女には、決して犯罪者はいないものだよ」そう言って古いテーブルのところまで戻ってくると、彼は小声で法水に囁きました。「だが一応は、アマリリスの花を調べてみる必要があると思う。朝枝(あさえだ)の言うことが本当なら、ア...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第17話

もしその事実がバレてしまったら……ブルンヒルトなら、ジーグフリードを殺すことだってやりかねないだろうね」「ああ、もう。君の推理につき合うと、どれだけ手間がかかるんだ」検事は芝居がかったため息をつきましたが、ふと目を見開き、耳を澄ませました。...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第18話

「ほら、聞こえるでしょう? 向こうの部屋から、コトリ、コトリと聞こえてくる音が……。あれが、今お話しした糸車なんです。でも、こんな時に、一体だれが回しているんでしょうねえ」朝枝はそれ以上あやしむような様子は見せずに部屋を出ていきましたが、彼...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第19話

あなたは、シュテッヘの顔をご存じなのですか? 実は一枚だけ、あの方の写真があるのですけれど、まだあなたにはお見せしていませんわよね」「ところが奥さん、トリエステで見せたあの素早い変装のトリックさえも見破る私の目には、そんな写真は最初から必要...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第20話

それでも法水は、その不気味なマークに、まるで魔法をかけるように命を吹き込んでいきました。「この風変わりなマークの数々は、ちょうどこの部屋の真裏にあたる防波堤の上に書かれていたものです。パッと見ただけでは、ただの子供のいたずら書きにしか見えな...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第21話

それからしばらくの間、私たちは言いようのない悲しみに襲われ、まるで気が狂ったかのように悶え苦しみました。しかし、そうした死への恐怖も、やがて悶え尽くすと、静かに運命を受け入れるような諦めの気持ちへと変わっていったのです。ところが、そんな墓場...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第22話

でも、艇長のために目が見えなくなるほどのつらい目に遭った彼女のことを考えると、あの夜の毒殺事件だけでは、恨みが収まらなかったのかもしれないな……」と、検事はようやく納得がいったような顔でつぶやきました。ヴィデ――この怪しい男の名前を突き止め...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第23話

ですから、私ははっきりとした結論を言うことができます。あの囚人がどんなに怪しいウワサに包まれていようとも、彼は絶対に、私たちの友人であるフォン・エッセン男爵ではありません――と』この手紙は、ウルリーケの知り合いであるイギリス人の医者、パーシ...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第24話

そして、犬射がウルリーケ夫人に『大変だ!』と知らせに走るなど、みんなが大騒ぎしているその隙を狙って、彼は落ち着き払って八住を仕留めてしまったんだよ」法水はそう言うと、ヴィデに向かって、どこか哀れむような悲しい視線を向けました。「ああ、まさに...
小栗 虫太郎

初級翻訳・潜航艇「鷹の城」 第25話

機関室のドアを開けてみてください……」そう言われて、胸をドキドキさせながらウルリーケ夫人がドアを開けた瞬間、あまりの衝撃と恐ろしさに、彼女は頭がクラクラしてその場によろめいてしまいました。そこには、天井の梁(はり)にロープをかけ、まるで大き...
スポンサーリンク