レモンの花の咲く丘へ

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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第1話

この異国情緒(エキゾチック)あふれる一冊の本を、三郎お兄さまに捧げます。お兄さまは、私を深く愛し、私という人間を認め、いつも温かく守ってくださる、世界でたった一人の大切な方なのです。はじめの言葉にかえて、二つの詩を贈ります。孤独のメロディ三...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第2話

この少年こそが、あの「死に向かう人魚の歌」をうたうのです。けれど、みんなが歌を競い合う華やかな音楽堂で歌ったのではありません。カーテンをしめきった自分のお部屋のなかで、冷たくそっけない心をもつ少女に自分のことを思い出させようと……あるいは、...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第3話

だからこそ、空の色も光も形も、すべてごまかさずに、あるがままの姿を映し出すのだ。」従者「だんな様。」領主(やはり聞こえていないかのように)「それにしても、今日の海はなんて美しく、穏やかなのだろう。これまでにも、ずいぶんと穏やかで美しい夕暮れ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第4話

(ちょっと間を置いて)かと思うと、また最近になって、あの女の方をご自分のお屋敷に迎え入れてからは、昔とは打って変わって活動的になられましたが、家来たちのことには昔ほど優しくしてくださらなくなり、何をするにもあの女の方の都合ばかりを考えて、お...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第5話

」領主「(うっとりと夢見心地で)そうだ、彼女は小鳥よりも早く目を覚まして、お庭に降りていき、いくつにも分かれた庭の小道の間を、絹の薄物をゆったりと肩にまとっただけの朝の姿で、アルハラヤ月草や、こととい草や、沈丁花の花々のあいだを、白鳥よりも...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第6話

」(間)その誘惑にとりつかれているばかりに、あの人は俺の言うことを聞かず、俺を愛そうともせず、いつもあの淋しい荒海の、荒れ果てた浜辺ばかりを恋しがっているのだ。(沈黙)だが、いよいよ明日の夜には、あの音楽堂の競技場で、すべてのことがはっきり...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第7話

やがて、主屋の方から馬のいななき、騎士たちが吹く角笛、そして真鍮のラッパの音に小太鼓の音が重なり合い、領主の万歳を叫ぶ声が、騒がしく賑やかに響き渡ってくる。二人はその音に驚いて立ち上がる。間もなく左手の入口から使いの小僧が慌てて駆け込んでき...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第8話

女子 その一つの願いは、私にとってまるで呪いのようにも思えてならないのです。お話しすることは簡単なことですけれど、たとえお話ししたところで何の役にも立たないことですから……。若様 それはあまりにも、冷たいお言葉というものじゃないか。だが、そ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第9話

――そんな無駄な心配はしないで、さあ、早くその赤い花の送り主を僕に語って聞かせておくれよ」女子 (頭を少し傾けて肩に預け、まるで遠い過去を懐かしむような遠い目をする)「北の海辺にある小さな領主の一人娘が、夏の終わりの夕暮れ時に、ぽつんと浜辺...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第10話

公子 その怪しげな音楽家は、いったいどのような姿をしておりましたか?(思い当フシがあるという様子で)女子 (ためらうことなく)紫色の長い上着を着て、月桂樹の冠をかぶり、銀の竪琴を持った、若く美しい騎士の姿でございました。公子 (思わずガバッ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第11話

ああ、ああ、あの夜のあまりにもすさまじく、神秘に満ちあふれていた様子と言ったら……空の光に迷うフクロウの声、海の波間でピカッと光る夜光虫、遠い遠い沖の方から、何者ともしれない響きがかすかに起こり、しばらくしてピタリと鳴り止むと、あたりはシン...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第12話

女子 若様と、明日の勝負のお話をしていたところなの。(やや小声になって)それから、あのお方は奥にいらっしゃりはしなかったかい?使女B 浅黄色の服の方、萌黄色の服の方、オパールよりも涼しげな白い服の方なら何人もいらっしゃいますが、紫色の服の方...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第13話

髪をすく櫛を折り、鏡を砕き、赤い色のあらゆる衣を引き裂いて、貞操を守り抜いた若い後家であっても。一度Fという魔法使いの奏でる「暗と血薔薇」の音色を聞けば、必ずや熱い血潮が騒ぎ出すのです。(と、銀の竪琴を激しくかき鳴らす)女子 その「暗と血薔...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第14話

その姿はまるで、先ほど公子が語っていた、死んだ領主の妻が誘惑へと引き寄せられていったときの様子そっくりです)おおい女よ、いまこそお前は、自分が恋い焦がれていた男の姿を見ることができるのだ。この紫色の長衣をまとい、銀の竪琴をたずさえた――。北...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第15話

(間)俺が弾く「暗と血薔薇」の曲には、道徳に背いた邪悪な恋が歌われ、許されない欲望が語られているが、あのホ短調のワンフレーズには、正しく切実な嘆きがこもっている。愛おしくてたまらないという純粋な気持ちと、絶対に想いを遂げなければ死んでしまう...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第16話

(少し間を置いて)本当にお月様は空の真ん中を歩いていらっしゃるけれど、そのご様子がまるで何か大変な心配ごとでもあるかのように見えるじゃないか。それに私には、いつもよりずっと形が大きく見えるし、光が青く見えるし、なんだか震えていらっしゃるよう...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第17話

二羽、三羽と羽ばたいたので、水しぶきが銀の砂みたいにパッと空へ舞い上がりましたよ。女子 ううん、違うわ、あれは悪い前兆よ。どう見ても、死んだ人を運ぶお葬式のひつぎの舟に見えるじゃないか。使女A またお嬢様はそんな気味の悪いことをおっしゃる。...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第18話

使女B あのあやしい老人が弾いているのではございませんか。女子 銀の竪琴の音は、暗闇の中を荒れ狂う赤い炎のように鳴り響いている……。暗闇の中の血の薔薇のようにね。(オーケストラの音が止む)使女A オーケストラの音が止みました。女子 (急に窓...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第19話

諸国から集まられた音楽家の皆様は、たった一つの月桂冠と一人の乙女を手に入れるため、二十歳の方は二十代の、八十歳の方は八十代の、ご自身の持てる技のすべてを発揮して、演奏し、歌われましたので、まるで音楽の嵐が、あの頑丈な建物をも揺るがすのではな...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第20話

――やがて数千もの花輪や花束が老人のまわりに投げ込まれ、あらゆる楽器が一斉に鳴り出し、それらがすべて讃美の曲を奏でて、最後の勝者となった老人の名誉と幸福をたたえました。そして人々は絶え間なく、月桂冠を彼に与えよと叫び続けたのでございます。―...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第21話

女子 あの先頭に小さく見える白い布は、ひつぎを包んだ経帷子(きょうかたびら)か?従者 (耳を澄ませて)葬儀の鉦の音に混じって、子どもたちが歌う挽歌(ばんか)の調べが……挽歌の調べが聞こえてきます。(挽歌が聞こえる)使女A 本当になんとも物哀...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第22話

(突然、強い口調で)そのケシ畑で! 高い塔の上から若様が弾いていた、あの純粋な恋の音楽が、お目を覚まさせたんだな!(急に)おかげでぼくの計画は台無しにされた!(怒ったように)「暗やみと血の薔薇」のひと曲が、「死に行く人魚」の恋の歌にかき消さ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第23話

きらきらと光り輝く剣の光が、部屋いっぱいに広がる)ふしぎな魔法使いの男 (冷たく、鋭い声で)おい、俺の頭をよく見ろ!(頭の月桂樹の冠を指さして)この月桂樹の冠を手に入れた者は、女の子も一緒に手に入れることができるのだ! 見ろ、俺の頭には月桂...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第24話

(機を二、三度織ってから)私はどうしてもあの塔へ行く気にはなれない。晴れやかな光も、なつかしい色も、心が浮き立つような物音も、何一つ楽しいもののない、あの灰色の墓場の塔へは、私はどうしても行く気にはなれない。あの塔の中にあるものは、もの恐ろ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第25話

……それに、あのお歌を聞きにね!女の子 あのお歌……?少年 うん、うん、お姉様のお歌を聞きに来たんだよ。女の子 お歌を……? まあ!少年 うん、うん、お姉様のお歌をさ。女の子 まあ……。少年 ねえお姉様、あのお歌を教えてよ。お姉様が昔、一度...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第26話

お姉様 (さびしそうに)ね、もう風も止んだでしょう?少年 ねえ、塔の中には何がいるの?お姉様 ううん……。少年 塔の中はきっと暗いんでしょ?お姉様 ヨハナーンや。少年 塔の中はまるで真っ暗なお墓みたいに、すごく暗いんでしょ?お姉様 ヨハナー...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第27話

お姉様 (ハッとして目を大きく見張り、スッと立ち上がる)まあ……!少年 (勢いよく、早口で)灰色のお舟よ、灰色のお舟よ! お姉様をこんなところへ連れてきた灰色のお舟だよ。……あの怖くて小さな舟のことが、ずっとぼくの目にちらついているんだ。女...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第28話

塔の中の人、塔の人……!少年 (おずおずと)それからね、お姉様……! お姉様が歌を歌ったあとで、ぼくに「うらうづ貝(巻貝)」をふたつくれたよね。ふたつのうらうづ貝を。――お姉様、それを覚えていて。女子 ううん、(うなずきながら)ああ、そうそ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第29話

女子 すんなりと越えられたかい?少年 うん、うん、すんなり越えられたの。僕を連れて来てくれたその人がね、僕の手を引いて門の前まで来たら、門が自然に両方へ開いて、二人が中に入るとまた閉まったんだ。開く時と閉まる時、重くて暗い音がしてね。その音...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第30話

このとき、最後に残っていた黄色い糸が、真ん中あたりでぷつりと切れて落ちる)女の子 切れた! (と立ち上がる)(たちまち、上手[かみて]の入り口の鉄の扉が、音もなく開いて、影のような人たちの列が、表情のない足どりで部屋の中に入ってくる。――先...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第31話

少年 (塔を見つめながら)塔だ! 塔だ! なんて恐ろしい塔なんだ! さっきお姉様が、塔なんて何もないって言ったのは、全部ウソだったんだ! ウソだ! あの恐ろしくて気味の悪い塔の中に……お姉様が! ……お姉様だよ! 行っちゃいけない、行っちゃ...
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初級翻訳・レモンの花の咲く丘へ 第32話

……それなのに、お姉様はぼくを置いて塔の中へ行ってしまうなんて! ……塔の中には何があるっていうの? お姉様の好きなものがあるの? ねえ、好きなものがあるのかよ? ウソだウソだ! そんなもの何もないよ! あんな黒くて恐ろしい塔の中にそんなも...
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